第3話 爺さんの名前は
ルシアたんが帰っていったので、俺もゆっくり考え事したいなぁ。
というか、現状を把握したい。
「そこの爺さん、一人でゆっくりできる場所ないかな?」
「確かに今日の魔王様は非常に疲れているご様子。お部屋に戻って休まれるがよろしかろう」
「そうさせてもらうわ」
この体の本来の持ち主である魔王様のお部屋なら静かに一人で考え事できるなと思い向かおうと思ったのだが、気付いてしまった。
俺、自分の部屋の場所知らねーわ。
どうしたものかと固まってたら、爺さんが怪訝そうな顔でこちらを眺めてきた。
そうだ、爺さんに案内してもらえば良かった。
「爺さん、案内してくれ」
爺さんは俺の言葉を聞いて、表情が固まったかと思うと沈痛な表情になり、
「ええ、心配なので是非ともご案内させていただきますのじゃ」
と、さも心配そうに答えてくれた。
あれ?
俺、変なこと言ったかな?
と思ったけど、確かにしばらく固まった後に自分の部屋の場所を案内してくれって頼んだら違和感あるよなぁ。
というか、爺さんって身分高そうというか側近っぽいけどいつもは名前で呼んでるのか?
名前で呼んだ方が良いのか?
ぬぬぬ、どうすれば良いか・・・
今まで名前で呼んでたとしたらかなりまずいな。
ここからずっと名前で呼ばないと、不信感がどんどん募っていきそうだなぁ
けど、ここで名前を忘れたふりして聞くのも強く不信感抱かれそうだなぁ。
あぁー、どっちも選びたくないなぁ・・・
今まで名前で呼んでなかった事を祈ってこのまま爺さんで通すか?
でも、もし名前で呼んでたとしたら非常にまずい。
ん~~~~・・・
長期間不信感を持たれて、その時ばれるよりも今聞いておいた方がダメージは少ないかなぁ?
よし、この場で聞いとこう。
「爺さん」
「なんですじゃ?というか、何故、先ほどから名前を呼んでくださらんのですかな?」
やっぱり、名前を呼んでたか!!
だが、俺は爺さんの名前を知らない。
プランAのまま変更なしで、このまま突き進むぜ!
「爺さん、その・・・名前って何だっけ?」
テヘペロしながら質問してみたら、爺さんは今にも号泣しそうな表情になり、絞り出すような声で、
「エルロンドですじゃ・・・」
と答えてくれた。
エルロンドの爺さんは一応今までの俺の行動を見ているにもかかわらず魔王様と認めてくれているようだ。
そんな爺さんになら質問しても大きな問題に発展しないだろうと考え、ある質問をすることにした。
それは、
「エルロンド、もし、もしもなんだが・・・記憶喪失になったって言ったらどうする?」
今までのエルロンドの反応から、俺の姿は魔王様になっているようだが、行動はかなり違うようだ。
今の俺は魔王様。
超重要な立場にいる人物だ。
そんな人物が「中身変わりました」というものなら大問題に発展すること間違いなし。
エルロンドの方をちらりと見てみたら、目を見開き口を金魚のようにパクパクさせてた。
「ほっ・・・ほっほっほっ・・・」
エルロンドの口からは笑い声を発しているが、顔も目も笑っておらず、疲れた表情になっている。
この一時で一気に老けたようにも見える。
「珍しく魔王様が冗談を申されたようですが、全く笑えない冗談ですな」
うん、やっぱり中身が変わったことがばれたらばそうだな。
エルロンドの爺さん、スルーしてくれてありがとな。