第7回 使用人の暮らしぶりを知りたい人への1冊
本題:英国メイドの歴史
出版社:講談社
著者:久我 真樹
挿画:撫子 凛 ・宮鼓
値段:2800円+税
お薦め度 4
一言紹介
この1冊があれば使用人関係の資料がだいたいなんとかなってしまう1冊
まず
「英国」の定義…
本書で扱う「英国」は、主に19世紀の英国国勢調査におけるイングランド、ウェールズ、スコットランドを中心にしたものです。北アイルランドは固有の使用人事情があり、本書では対象外としています。
また、本書はヴィクトリア朝を中心に第二次世界大戦直前までの使用人事情を対象としています。本書に記載された仕事は幅広く共通する事項を取り上げていますが、年代や職場環境によって相違があります。(P6)
内容…
本書は近世英国における使用人を『家政系メイド』『料理系メイド』『男性使用人』『上級使用人』と分類した上で、それぞれに属する4~5職ごとに細分化したうえで、それぞれの『歴史』『種類』『征服』『仕事の内容』『主な特徴』『エピソード』『待遇と将来』を解説している。
お薦め…
本書では『当時の技術で何かを作ろう、何かをしよう』とした際の簡単なマニュアルも書いてあります。
たとえば『スカラリーメイド』の項目では当時の素材別の洗い方を解説していたり(P201-205)、『デイリーメイド(ミルクメイド)』においては牛乳を生クリーム・サワークリーム・バター・チーズなどへの各種加工方法についてフローチャート付きで触れている(P270-274)。
もしもそういった情報をインターネットを用いて探そうとするとどうしても現代の情報が邪魔をするためなかなか欲しい情報が手に入りづらいのだが、当時の情報をこの本は教えてくれる。
そして同著では様々な自伝や小説などから沢山エピソードが引用されており、個人的にP231~232で引用されているJean RennieとMollyとのやり取りがお薦め。
しかし異世界を舞台にする場合、この書に逆らった内容を書くことは何も問題はないが、地球っぽい使用人の世界を書きたい方には要点がまとまっており、かつ文体も一般向けの柔らかさにしたるため非常に読みやすい1冊である。
難点
特定のワードを探したい時に索引が存在せず、記載されていそうな場所を目次から探さなければならない。
それをすると余計にページ数が余計に増えることになってしまうが、『仕事の内容』における各項目についての索引があれば便利だったと思うが、幸いにもだいたいの項目は使用人の種類を推測すれば記載されているページの検討がつくため、それほど問題ではなかったりする。
それから自分が探した限り、本書において物価表や通貨体系などが描かれていないため、(今と価値観が違うとはいえ)給料がどれぐらい安いのか推測がしづらくなってしまっている。
そのため4としたが、実質5で問題はないと思う。
合わせて読ませたい本…
『ヴィクトリアン・サーヴァント─階下の世界─』(英宝社)…
文体は非常にかたいため薦めるのが難しいが、そもそも研究書や資料といったものはそれが基本であるため仕方がない、諦めてください。
しかしその分、内容は濃密で、この時代の使用人についてより深く知りたいという欲求がある方は手にとるべき1冊。
『図説 ヴィクトリア朝の暮らし ビートン布陣に学ぶ英国流ライフスタイル(河出書房新社)』…
写真やイラストが多く、中産階級の女主人側に向けた情報を色々と提供してくれて、読みやすい1冊。
『図説 イギリス手作りの生活誌 伝統ある道具と暮らし』(東洋書林)…
料理から掃除洗濯、織物や飾り物まで、幅広い『道具』へ主軸においた異色な1冊。余白ギリギリを攻めるようなページ構成が素敵。それぞれの項目の説明にも浅く広く触れているが、メインは『道具』である。
第2回 『新版 馬車が買いたい!』の最後でも似たようなことを書きましたが、これはあくまでも地球の一時代一地域における使用人事情であり、異世界をモデルにした作品に対して「こんな使用人は間違っている!」などと突っ込んではいけません