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えしん  作者: 心情を綴ったハンドルネームはだいたいすでにある
7/11

危機

「異変に気づいたのは今朝のことです。

一応、ご主人様、つまり逞様の父が海外へ出張なさるとのことでした。

そのため昨日から騒がしかったのですが、今日になって私と逞様以外いなくなっていたのです。

予定よりも早く出ることになっていたとしても、家の番をする人は居るはずなのに、です。

機械はだいたい全て動かなくなっており、電話も通じなくなっていました。

そのことを逞様に伝えても、冗談か何かだと思っているようで…

仕方なく昼ごはんを作っていたところに無断であなたたちが入ってきた、というわけです」

「昨日までは普通だったんですか?」

「はい、外出もしましたがいつも通りでした」

「おかしいですね…僕らは昨日からここにいるんですが。

ここに連れて来られた日付がずれている…ということでしょうか」

「あ、そろそろ逞様の話が終わりそうです」

逞は得意げな顔で空に向かって話していた。

「…で、異変に気づいたのが今朝。

つまり、日付がずれてるっていうことがわかる。」

したり顔でそう結論づけてこちらを向く。

すでに結論がついたことについて言及していることには気づいていない。

「ごめんな、話長なって。で、何しに来たんやったっけ?

あいにくやけど通信機器全部壊れてるし助けは呼べへんで」

「ここに来たのは食料調達のためです。

あと、部屋とか開いてるんだったらよかったら貸していただけませんか」

「お、食料ならかなりあるからええで。

二人やと余りすぎるしな。

ていうか寝床も不足してんの?」

「実はですね、殺人事件が

「おお、予想通り!

これで裁判とか開催してマスコット的なキャラ揃ったらまんまゲームや!」

「…まあそういうわけでして、お願いします」

その沈黙には、人の死を喜ぶ奴がいるか、という蔑む意味もあったわけだが、

もちろん気づいていないようで、こう続けた。

「おっとすまん、手配しとくし荷物とか持ってき」

そういいながら逞はスキップして奥のほうにいった。

「さてと、帰りますか」

「そうだな」

「早く遊びたい」

外に出ると、辺りは赤くなり始めていた。

館から出るときには佐々さんが見送ってくれた。

奇襲されたときにはわからなかったが、案外まともそうな人だ。

主人の息子があんな感じだからしっかりしているんだろうか。


――集会所入り口

さて、礼儀正しい人のあとにコイツを見ると相対的に低く見てしまう。

前宮は実に幸せそうに寝息を立てていた。

「前宮、起きろ」

「あっはい、どこの問題ですか」

「何寝ぼけてるんだ」

こっちを見る。

続いて自分の座っているところを見る。

顔に疑問の表情が表れる。

そして三秒。

「あっ、ごめんなさいごめんなさい」

前原は飛び起きてこちらに頭を下げた。

全員呆れた様子だった。

でもまあ、こいつが無事なら何もなかったということだ。


さて、集会所の中に入るとなかなか香ばしい匂いが部屋を満たしていた。

「お、帰ったか。

丁度できたところだ」

夜鬼は手にすすを付けてそう言った。

そういえば丘本のところでは機械が使えないと言っていたが…

「電子レンジとか使えたのか?」

「ああ、なんか電気が入らなくてな、ガスコンロ使った」

こっちでも使えないのか。

「で、あの豪邸どうだった?」

「ああ、中に人がいて食料は分けられるって」

「じゃあ無理やり料理作ったの無駄だったかもな」

「ああ…………ちょっと待て、無理やりってなんだ」

「食料庫に飲料水と乾パンしかなくてな、料理作ろうと思ったら無理やりにしないとな」

とても嫌な予感がしてきた。

「腹減ったー」

そういう声が聞こえた。

「夜鬼、あいつに先に食わしてやってくれ」

「いいのか」

「いいから」


夜鬼はいつも形から入る。

エプロンをつけ、どこから持ってきたのかコック帽を被り、

それとなく熟練者の雰囲気を醸し出しながら紙皿に乗った料理を持ってきた。

「はい、円方様こちら本日のシェフの気まぐれメインディッシュの

『砕き乾パンをまぶした乾パンのミルフィーユ

トースト=ドライ=ブレッド添え~得体の知れない液体をつけて~』

です。ごゆっくりお召し上がりください」

やはり先に食べなくてよかったと思う。

長々と言っているが、結局は乾パンしかないのだ。

円方は一度たじろいだものの食べ始めた。

「むしゃむしゃ…うん」

なんとも言えない顔をしている。

味は特に変わったわけではないだろうから、当然といえば当然だ。

味気ないのは仕方がない。

まずくはない。

ここまでは。

しかし、得体の知れない液体が問題だ。

ありのままの見た目を言おう。

『ぶどう酒のような赤みのかかった液体かと思ったら若干赤みのあるドス黒くて臭い液体だった』

何を言っているのかわからないと思うが、僕もどう形容したらいいのかわからなかった。

嗅覚がおかしくなりそうだった。

隠し味だとか苦味を楽しむとかいう感じでは一切ない。

もっと恐ろしいものだとわかった。

「得体の知れない液体をつけてお召し上がりください」

「これ何」

「お召し上がりください」

「だからこれ何」

「どうぞ」

円方は何かを諦めた顔をして、乾パンを"それ"にくぐらせ、口に運んだ。




その後の様子はあえて書かないでおく。

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