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えしん  作者: 心情を綴ったハンドルネームはだいたいすでにある
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怪力

「でっか」

思わず口に出る、そんな大きさの部屋。

その正体は図書室だった。

壁にはすきまなく本棚が立っている。

それが上に何階も重なっているのが吹き抜けから見える。

そして、この三階には吹き抜けの代わりにおぞましい数の本棚が並んでいるのが見えた。

原樫はネットで見た世界最大の図書館を思い出していた。

「たしかあれの蔵書数は2082年現在で3000万とか...」

期待が言葉になって口から出ているのに本人は気づいていなかった。

それらの大量の本に釣られ、図書館の入口を不意に一歩踏み出したそのとき。

例の女がゆらめいて本棚のわきから出てきたのが、原樫の目に映った。


両手にはなにかの取手を持っており、その大きさからして普通のものではないことがわかる。

普通なら身構えるだろう。

しかし原樫は注意緩慢になっていた。

物を弾く魔法。

中学生のとき大多数は、未知の能力に憧れる。

たとえそれがしょぼいものでも、自分が特別な存在になったような優越感を感じられるからだ。

原樫はその優越感、転じて全能感さえ感じていたのだ。

故に、自分の防御魔法を破る手段はないと感じ、警戒する必要はない、そう考えてさえいた。

女に歩み寄り、こう言った。

「どんな攻撃をしても無駄だ。

僕らは強盗をするためにここに入ったわけではない。

それより、協力し合わないか」

しかし、女の耳は部外者の言葉など聞き入れていなかった。

女はその体を大きくひねり、そして持っていたものを原樫にかざした。

それは大鎌だった。

原樫はそれを見ても驚くだけで別段、避けようとはしなかった。

しかし、弾かれると思われた大鎌は原樫の首を狙ったままその位置に留まった。

その瞬間、原樫の表情には焦りが見え出した。

自らの優越感の根底となるものが崩れてしまったからである。

そして、すぐ、その死の鎌は動き出した。

が、空を切った。

「貸しができましたね」

美沙原は原樫の服を掴み、引きながらそう言った。

「ちっ、さっさとくたばりなさい」

女は憎悪の念を込めて舌を打ち、こちらに向かってきた。

「別に戦いたいわけではないのですが、そっちがそういう対応を取るならこちらも

攻撃魔法を使わざるを得ないですね」

そう言いながら美沙原はガラスの瓶の蓋を開けた。


「やめろ! 」

重圧感のある声が場を支配した。

双方動きを止め、そちらを見た。

吹き抜けからこちらを見ていたのは原樫達と同い年に見える巻き毛の少年だった。

「なにしてんねん、こんなとこで」

そして、方言が入っていた。

「あなたはこの豪邸の人ですか」

質問に質問で返したのは美沙原だ。

「ああ、そやけどな、勝手に入ってきてその態度はないと思うで」

「いえ、すみません、すこし非常事態なもので」

「へぇ、おもしろそうやな、聞かせてもらおか」

「逞様、侵入者の言うことなんて聞く必要はございません」

口を挟んだのは女だった。

従者と主人の関係なのだろうか。

先ほどの口調とは打って変わってとても丁寧に話している。

「なるほどな、お前から勝手に攻撃して今に至るって感じか。

アホ、よう考えてみいや、うちのセキュリティ抜けてきてて何もアラームなってへんねんで。

緊急事態やなくてなんやねん。

話はよう聞かせてもらうで」

「ずばりその通りですね。

賢明な判断、感謝します」

「ふん、こちとら伊達に丘本家の血継いどるわけちゃうからな」

巻き毛の男はそう言って口を歪ませた。


自己紹介から始まり、全員が置かれている状況を改めて整理し、話した。

謎の場所に来ていること。

魔法が使えるようになっていること。

そして誰にもその間の記憶がないこと。

「なるほどなあ、ずばり漫画みたいな状況ってわけや。

こういう場合なんか突然謎のゲームみたいなんが始まったりするけど…」

さっき逞と呼ばれていた男は、なにかぶつぶつと呟いていた。

それにしてもこの男、ウキウキである。

「それよりも、あなたの名前を教えていただけますか」

「おっと、ごめんな俺は丘本(おかもと) (たくま)や。

方言入ってんのは気にせんでええで。

で、こっちの…まあ平たく言ったらメイドさんや。

ほれ、自己紹介は礼儀や」

女は少しこっちを睨んだ後、ばつが悪そうに少し目線をずらした。

「私の名前は佐々(さっさ) 左見(さみ)

さっきは早とちりしてごめんなさい。

あと、メイドさんって呼ぶのは勘弁して」

「へえ、メイドさんなんか初めて見たなあ」

話を聞いていなかったのか、円方はそう言い、佐々に睨まれていた。

「おもしろいやつやなあ。

そや、こっちもこうなった経緯について話そか。

あ、そや、一応方言抜きにして標準語で話すこともできるんやけどそっちのほうがええか?

いやなあ、いっつも外向きのときは標準語で話してんねんけどなんかとろいし、

なんか堅苦しい感じがしていやなんやんな。

せやけど…」

「逞様の話は恐ろしく要領を得ないので、こちらからお話します」

「え、ああ、助かりますが…いいんですか?」

「逞様は話している最中は周りが見えてないのでその間にすれば問題ないですよ」

「じゃあ、お願いします」

ここに、男が壮大に独り言を語り、従者がその内容を伝えるという奇妙な構図が生まれた。

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