応戦
"それ"は目の前で止まった。
一瞬走馬灯のような、死ぬ前の瞬間がゆっくりに見えると言われているものかと思った。
しかし、その直後"それ"は落下した。
ここで初めて気がついた。
この鉛玉は軌道を変えたのだ、と。
次々と自分のほうに玉が飛んでくる。
しかしそれらはすべて停止し、落下するのだった。
これが、魔法か?
なんとなく優越感を得ていた。
しかし、それを自慢する暇はなく、攻撃をしていた主が出てきた。
それは女性だった。
飛び道具での攻撃がすべて弾かれたからであろうか。
直接攻撃をしに来たようだ。
手にはナイフが見える。
しかし、僕の魔法の能力が「攻撃を弾く」というものならこの攻撃も脅威ではないだろう。
円方もおおよそそのようなことを思っていたようだ。
しかし――
「危ない!」
そう言って美沙原はその女を突き飛ばした。
女は少し怯えたような表情の後、階段を駆け上り、逃げていった。
「あのままでいけば倒せたんじゃないか」
円方が僕の意見を代弁するかのように質問をする。
「魔法の能力がはっきりとはわからないからです。
物を弾くとかだったらいいんですが、
鉛の軌道を操るとかだったら今頃首が落とされていますよ」
「でも、あのときなら俺も応戦できたぜ」
「安全第一ですよ、この状況ですから慎重に行きましょう。
今のうちに確かめておきましょうか」
そう言ってさっきの女性が落としたナイフを拾い、取っ手の方をこちらへ突き立てようとした。
しかし、やはりそのナイフは弾かれ、その無機質な音をたてた。
「やっぱ俺のほうが正しかったじゃんか」
円方と同じくそれを不満に思いながらも僕は美沙原にはなにか考えがあるように思えてならなかった。
嘘を言っているように感じたのだ。
もしかしたら、あの『危ない』という言葉は僕に向けて言ったわけではないんじゃないか。
僕の魔法がどのようなものか元から知っていたのではないか。
そのような疑念が浮かんできたのだ。
「もしかしたら例の事件の犯人かもしれません。
追いかけましょう」
「ああ」
円方は簡単に了承したようだが、僕はこの言葉にも疑問を抱かざるを得なかった。
あの怯えた表情からそんなことを想像するとは思えないからだ。
しかし敵意は感じない。
こいつは…美沙原は何がしたいんだ?
階段は慎重に上がった。
円方の魔法で、空を飛んでもらい偵察してもらうという方法もあったのだが、
円方は僕と違い防御用の魔法ではない。
もし飛んでる最中に攻撃されたら危険だ。
「なあ美沙原、敵は何で攻撃してきたかわかるか?」
「そうですね、鉛玉を飛ばしてきたわけですが、形状と大きな音がしなかったところからして
銃ではないのは明らかですが…パチンコとかですかね?」
「なるほどな」
パチンコ。玩具でない実用性のあるものをスリングショットと言う。
相場は1000円から3000円ほど…
こういうことはネットで知っているのだが、こんなにも役に立たないんだな。
「何円ぐらいするもんなんだろーな」
「2000円ぐらいだ」
役に立った。
二階。
ここには多目的室らしきところがあるぐらいで、特に目立ったものはなかった。
しかし、やはり物音一つない。
三階。
階段はここで終わっており、大きい扉が前にあった。
「二階で奴に出会わなかったからどう考えてもここにいるよな」
「すれ違ったとかってないのかー」
「絨毯が荒れてますから、いまさっきここを通ったとみていいでしょう」
そう言うのでよく見てみると絨毯が逆立っているところが飛び飛びで残っている。
「ほんとだ、すげー」
「美沙原、おまえ頭いいな」
「ありがとうございます。
それと、よければ純って呼んでください」
そう言うものの、やはり敬語を崩さない。
いろいろと不審なところはあるが、その洞察力は利用するべきだろう。
注意はするものの、一応僕は純を信頼することにした。
「それでは、開けますよ」
「ああ」
先程見た敵はすぐそばに居るはずだろう。
どのような攻撃を仕掛けてくるのか、あらゆる方向に気を付けなければならない。
扉は開かれた。