表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
えしん  作者: 心情を綴ったハンドルネームはだいたいすでにある
2/11

意外

この日から僕は奇妙な夢をみるようになった。

しかし、この夢の意味を僕はまだ知らなかった。

(この光は――)

(大丈夫だきっとあなたは――)

そして、その夢には決まって父の声が入る。

(この結晶はなんだ――)

(これをどうにかして――)

(~!…~!)

(おい!)

「誠司!」

目が開く。


「…夢か」

午後一時。

気がついたのは森の中でだった。

見たことのある木や見たことのない木がそれぞれに生えている。

どうにか混乱している頭を鎮め、よく考えた。

きっと、あのあと轢かれて意識が飛んで即死だったんだろう。

しかし、それはこんな場所にいる理由にはならない。

するとここは死後の世界だろうか。

しかし、天国でも地獄でもなさそうだし、そもそも三途の川を渡った覚えはない。

それともありがちな異世界に飛んだ、というやつだろうか。

そういう話では決まって魔法というものが登場するはずだが。

それを確かめるため右手を前に出し、左手でそれを持ちぐっと力を込めた。

が、魔法らしきものは全く発生しなかった。

見えている景色は至って現実的だから、異世界ということはないか。

ここがどこなのかはさておき、この先どうするか考えよう。

よくよく考えると肩にかけていたはずの鞄も無くなっていることに気がついた。

とりあえず高いところに登ろうかと考え、近くの木に登ったが、木が生い茂り過ぎていて結局周りが見えない。

木から降りようかと目線を下にずらしたとき、見覚えのある日の丸を模した弁当がそこに落ちていることに気がついた。

…いろいろ考えることはあったのだが、それを最後の手段として持っていくことにした。

地面に落ちていた木の枝を目印になるように突き刺した。

僕、原樫誠司は服(Tシャツと上着)とズボン(ジーンズ)と服、ポケットに入れている携帯電話そして日の丸弁当を持って当てもなく太陽の方向に歩き始めた―――のだが、

さて、いきなり開けた場所に出た。

どうやらここは山脈にある森らしい。

そして前に見えるのは半島。

その奥に見えるのはただただ青い海と地平線である。

しかし、それ以上に僕の目を奪ったのは建物だった。

地面が森で見えない半島のど真ん中に構えているとても大きい豪邸が見える。

模様などから考えて豪邸なのだが、大きさは一流企業の会社、というぐらいだ。

一日に万単位でお金を使う知人の家でもこんなに大きくない。

というか、普通に考えてこんなに開発されていないところにそんな豪邸があるのがおかしい。

さて、どうするか。

「グー」

丁度よくお腹が鳴ったので、とりあえず考えるのをやめてとりあえず日の丸弁当を食べることにした。

が、お箸がなかった。

…仕方ないか。


口の中が酸っぱい。

さて改めてどういう状況か考えた。

お腹が空くのであの世ということは考えづらい。

夢でもない。

よくある転生とかいうやつでもない。

姿も変わっていないし、自分が魔法やら使えて強いわけではない。

そういえば、力はどうだろうか?

近くにある細めの木を力いっぱい押してみたが、微動だにしない。

これ、むしろ前より弱くなっているんじゃないか?

特に他に思いつくものもないので、ここを現実世界だと仮定すると、ここはどこか。

そもそもここは日本だろうか。

あと、誰がどのような目的でここに運んだか。

というか、なぜ轢かれたはずなのに無傷なのか。

よくよく考えるとどこかわからない場所で食料も尽きているこの状況はまずいんじゃないかと考え、とりあえず連絡をとろうと思って携帯電話を開いたが、電源が切れている。

今考えてわかったのは、今考えてもなにもわからないということだ。

とりあえず豪邸に行ったら連絡とかできて、きっとどうにかなるだろう。

というかそれしかできることはない。

僕は安易な考えを持って豪邸の方向にまっすぐ向かった。


彼の携帯は充電が切れていた。彼はすっかり忘れているが、家でフル充電してそのまま使うことのなかった携帯が、である。

携帯といえば、使い続けても3日持つのが当たり前なこの時代では、異常なことである。

外傷もないし、故障した様子もない。

ではなぜ動かなくなったのか…?

彼の携帯の内部時計は2082年を示していた。


この森を舐めていた。

早くも来た方向と向かうべき方向を見失った。

何故かシャツの胸ポケットに入っていた方位磁石を見たが、どの方位から来たかわからないんじゃ意味がない。

その瞬間閃いた!

そうだ、太陽の方向は覚えている。

上を見れば――視界一面を青々とした葉っぱが覆っていて、全く見えない。

そして、方位磁石の南はさっきと違う方位を指していた。

すこし動くだけで針は方向を変える。

磁力を持った石がある。

なにもかもが計画通りにならず、僕は若干泣きそうになっていた。

しばらくなんとも無く歩いていると、空を覆っている葉が赤みを帯びてきた。

このままでいくと、野生動物に食われて死ぬのだろうか?

夜は危険だということを本能で知りながらもその感覚に違和感を覚えていた。

そんなことを考えていると、前方に少し明るい部分が見えた。

まさか、森を抜けた?

などと考えてながら走ってみると、建造物が目に入った。

しかし、それは豪邸でなく廃れた市役所のように横に長い建物だった。

とりあえず、人がいるかの確認と共に、ここに入ることにした。

さすがに夜に外で一人でいるのは危険だろう。


「誰かいらっしゃいませんかー」

原樫が声を出したのは五時間ぶりだった。

しかしその質問に答えたのは木の軋む音だった。

彼は少しさっきよりもうなだれながら、扉がついていたであろう横長の穴から中に入った。

誰もいなくて施錠していないのだから、使っていいだろうと勝手な解釈をするほど、彼の心は孤独のせいで荒んでいた。

中は案外広かった。

しかし、それと塗装の剥がれた壁が相まって廃墟らしさを一層醸し出していた。

彼は少し侵入する罪悪感を感じながらもなんとなく二階にあがった。

高い天井、長い廊下、高さのない蛇口、そしてその廊下から見えるそれぞれの部屋にある下げた看板のようなもの。

これだけ見れば洞察力のない原樫にもここがどんな施設だったかはわかる。

「小学校か…」

何を思ったか、彼は蛇口をひねった。

当然、水は出てこない。

水道はとっくに機能していないのだろう。

叩くと黒い物体が出てきた。

しかし、全くぬめりけを持っていないことがさらにこの小学校が使われなくなって長いことを感じさせた。

教室はどれもぼろぼろだった。

「腐ってるなー、ははは」

そう言う彼の目はうつろで、口は閉じる力を失っただけにも見えた。

どうしてこんな状況になったのか。

日頃の行いは悪くなかったはずだが、誰が何の恨みがあって…

彼の行き場のない怒りは彼自身に向いた。

「もうここでいいか」

そういって一番汚臭のする教室に入り、寝っ転がった。

なにもかもがうまくいかず、やけくそ、という状態になっていた。

「ああ、臭いなあ…」

風の音さえしない静寂の中、彼は自分がひとりごとをいっているのも忘れて、寝返りをうった。

臭いにも慣れたころ、その異常は訪れた。

地面を通じて木が強くきしむ音が聞こえてくる。

ここには自分しかいないはずでは?

そのような考えがすぐに彼の脳裏をよぎった。

瞬間、体を急いで起こした。

下手に動かず、息を潜める。

次第に、その"何か"が近づいてくるのがわかった。

荒い鼻息、一歩一歩が遅い。

"何か"の正体によっては、当然取るべき行動は変わってくる。

そこで問題だ。この何もわからない状況でどうやってこの場をやりすごすか?

原樫は三つの選択肢を考えついていた。

一、聡明な誠司は突如天才的な方法を思いつく

二、誰かが来て助けてくれる

三、どうしようもできない。現実は非情である。

それでも、この物音一つない状況からして二はありえない。

となると、一だが"何か"が何であろうと、気付かれなければ何の問題もない。

では、どこかに隠れられる場所は…

ロッカー、閉まらない。

教卓、穴だらけ。

カーテン、丸見え。


………

三、か。


扉の向こう、そこに"何か"は来ていた。

全身が黒い、ゴリラのような容姿。

そして目は赤く光っていた。

直感でわかった。

こいつに捕まるのはまずい、そう直感が告げていた。

「ウオオオオオ!」

激昂したゴリラのような声で咆哮したあと、その"何か"は向かってきた。

しかし、原樫は逃げることはなかった。

これは先程のやけくそ、というやつではなく、一生懸命判断した結果だった。

「野生動物にかけっこでは勝てない」

ゴリラの最高速度はどんな人間をも上回る。

だからこそ、取った選択は

「咄嗟で避けてそのまま逃げる!」

ドアも閉めたらいけるはず、そう続けるつもりだったが、

野生動物はそんなものを、特に腐った扉はなんてことはなく壊せることには思い至らなかった。

そもそも対面してで避けられるというところからすでに現実味がない。

時間と、冷静さがなかったのだ。

しかし、その最初の一歩を踏むことすらできず、足をもつらせ、その場に倒れこんだ。

死を覚悟したそのとき、轟音がした。


"何か"がいたはずの場所には穴が開いていた。

そして土煙が派手にあがっていた。

覗きこむと、穴からみえる一つ下の階には巨大な岩があった。

しかし、その横にはひとつ動く人影。

「なんだコイツ…」

原樫は、その呟く人影に見覚えがあった。

「夜鬼か?」

その人影は周りを見渡した後、上を見て気づく。

「ん、ああ原樫か。ちょっとまてよ、よっと」

その軽い掛け声で夜鬼は消えたかと思うと、いつの間にか後ろにいた。

夜鬼(やき) 裕二(ゆうじ)

小学校の同級生だったが、中学校で別のところに入ってからあまり会っていなかった。

科学の出し物のとき、弁当の中身が空だったヤツだ。

原樫は自分の目で見たものが夢であるように感じてきた。

「えっとまあ、聞きたいことはいっぱいあるんだが…」

「何だ?」

「あのだな…」

原樫は自分の言う台詞が古風でありがちであることをなんとなく恥じらい、そしてまたしばらくしてからこう続けた。

「頬を引っ張ってくれ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ