出会い 106
燐は虐められていた男に歩み寄る。
「大丈夫かしら?もう大丈夫よ」
燐は手を貸そうと屈みかけたが、男は一人で立ち上がった。
立ち上がった男は無言で燐を見つめる。
男の目は深く洗練された輝きをもっており、燐は一瞬吸い込まれそうな錯覚を起こす。
「ど、どうしたのよ、大丈夫?」
燐はじっと見つめられているのが恥ずかしくなってたまらず声が出た。
「いや、何でもない。すまなかった。」
彼のそれは感謝ではなく謝罪の一言。
すまなかった。
男は寂しそうな声でもう一度そう言ってその場を去っていった。なぜだろうか、燐はその背中から最後まで目を離すことが出来なかった。
野次馬のなかには燐の友人もいたようで男が去ると、直ぐさま駆け寄ってきた。
「何なのあいつ?助けてもらったのに。」
友人はそう言って不機嫌そうな顔をする。
燐もそれには頭を抱えるしかなく肩をすくめて苦笑い。
「女に助けられたことが恥ずかしかったのでしょう。許してあげなさい。私も服が汚れてしまったから部屋に戻るわ。」
そう言って歩き出す燐の心にはとても満足感があった。
それは自分が戦士よりも強いという確固たる自信によるものだった。
やっぱり自分は一人でも十分戦える。戦士の力など必要ない。今日のそれは、そう感じるには充分な結果だった。