出会い 105
戦いの火蓋はすぐさま落とされた。
二人の殺気にも似た覇気を感じて辺りに一瞬の静けさが生まれたと同時に戦いは始まった。
シュンが剣を抜き、燐に突進する。
「死ね!」
一筋の閃光が燐の胴体を真っ二つする勢いで襲う。
初撃、横凪ぎの一振りが空気を切る。
豪雷の名にふさわしいその剣を燐は強化の魔術によって足を強化して何とか回避する。
「ちっ、速い!距離をとらないと」
そう言って燐は飛び上がる。
「ハッ、逃がすか!」
燐を追うようにシュンも飛び上がり剣を振る。
燐は魔術によって足を強化していると言っても、素体は女の体。それに対し、相手は鍛え上げられた戦士の体だ。当然逃げ切れるはずはない。
「_ハッ!」
燐はすんでのところで追ってきたシュンに向かって短い詠唱とともに炎の玉を5つ飛ばす。
空中でシュンは3つ叩き落としたが残りの玉2つは命中しシュンは地面に叩き付けられる。
しかし、燐が地上に降り立つ前にシュンは立ち上がり目の前の敵に突進する。
燐の足が地に着くかどうかという時に、初撃よりも殺意を込めた二撃目の剣が振るわれる。
それは再び横凪ぎの一閃。ごうと唸りをあげて空を切る剣は燐を仕留めるために音速に近い速度で振るわれる。
「…!」
燐はとっさに目の前に風を生み自分ごとシュンを吹き飛ばす。
「あいつ…やるわね」
燐は誰にも聞こえないように呟く。そう言いながらも燐の目は獲物を狙う肉食獣のようで負けることを一切考えてはいなかった。
「へぇ詠唱なしで使うとは驚いた。」
対して仰向けで倒れていたたシュンは笑いながら言う。
本来魔術とは詠唱ありで発動させるのが基本であり、原則である。
魔術師が魔術を使用するとき、体内の魔力の波長を調節することによって魔力の放出を円滑に行う。それに対して無詠唱で魔術を使うことは体外に無理矢理魔力の通り道をこじ開ける様なものであって、魔力の燃費が悪くなると共に体への負荷が大きくなる。更に魔術の威力が減少するというおまけ付きだ。
しかし、それ以上に無詠唱魔術は高度な技術であり、並の魔術師が使えるものではなかった。
「伊達にトップ張ってる訳じゃなぇようで安心したよ。続きをやろうぜ!」
立ち上がり剣を再び構える目の前の敵は満足そうに笑っている。それを見たとき、燐は悪寒を感じた。あぁそうか、こいつはただ、自分の力を振り回したいだけなのか。
「なんて下衆な男…」
燐の口からわずかに漏れた言葉が聞こえたのかシュンの顔がわずかに歪む。
「ふん、安心しなさい。もうすぐ終わるから、お楽しみの時間はここまでよ。」
そう言って燐は呼吸を整える。
「なんだと?」
案の定それが彼の感に障ったのだろう、挑発に乗りシュンは攻撃に移る。
「なめてんじゃ…ねぇぞ!」
再び高速の突進。
「そこでおとなしくしてなさい!」
短い詠唱とともに飛び出したシュンを地から生えた岩の壁が包み込む。
突然の遮蔽物に遮られ、その一撃は失敗する。燐は攻撃の手を止めない。
とどめの一撃を食らわすためにさらに詠唱を続ける。
一方シュンは壁を破壊するべく壁を切りつける。詠唱が終わるのが先か、壁が壊れるのが先か。それが勝敗に決する。
野次馬が叫ぶ。
「壁が壊れるぞ!」
「燐さんの詠唱は終わっていないわ!」
燐は心のなかで叫ぶもう少しだけもって!
その時、ドゴッという音とともに岩の壁が崩れ、中からシュンが現れる。
「…ぶっ殺す!」
シュンは全速力で走り出す。
まだ詠唱は終らない。
もう二人の距離は10m程しかないが燐は詠唱を続ける。
あと2歩、3歩のところでシュンの剣は動く。
「死ね!」
「_!ハァ!」
激しい衝撃波とともにシュンは吹き飛ばされた。
立ち上がることの無いシュンを見てそこにいた全員が勝敗を認めた。
結果は燐の勝利で終わった。