出会い 104
放課後、燐は一人で廊下を歩いていた。演習場で魔術の訓練をした帰りである。
校舎に差し込む橙色の光が一日の終わりを迎えようとしている頃、ふと聞こえた声に足を止めた。
声は公社裏からだろうか。男の笑い声が聞こえる。
燐は悪い予感を覚え現場を確認するために走った。
「オラッ、オラッ!ハハハッ、マジで弱っちいなお前は!」
そこで燐が見たのは虐めだった。
虐めているのは2年生だろう、虐められているのは1年生か。
何も反抗しない1年生に対して一方的に殴る2年生に燐は苛立った。
「何て格好の悪いことを。」
燐は物陰に隠れて二人のやり取りを見ていたが暫くして耐えられなくなり、怒りを抱いて声をあげた。
「やめなさいそこの貴方!虐めなんて最低よ!」
そう言って燐は二人の前に姿を現した。
男は笑ったままこちらを向き、なおも笑ったまま語る。
「おやおや、誰かと思えば優等生の燐じゃないか。どうしたんだいこんなところで?」
「貴方には関係のないことよ。それよりもそれ以上はやめなさい。」
挑発的な二人の言葉が空気を一気に凍りつかせる。
男は虐めの現場を見られたというのに慌てるどころか笑ってる。
正気か?と燐は目の前の男の道徳を疑問視する。
「止めるってこういうことか?」
男はドスッと鈍い音を立てて倒れている男を蹴り飛ばした。
蹴飛ばされる男はおよそ1秒宙を舞って地面を2バウンドして転がる。
「やめろと言っているのが分からないの!」
燐は強く吐き捨てる。
それが男の感にさわったのか声を聞き男は不機嫌そうな顔をする。
「うるっせぇなお前。お前にはどうでもいいことだろうが。それともなにか?正義の味方気取りか?全く優等生っていうのはご立派ですねぇ!」
声には先程よりも明らかな敵対心が見える。それは迫力と言うよりも一種の殺意に似たものであった。
「口で言っても分からないみたいね。いいわ、力ずくで止めてあげる。」
その言葉を聞いて男は愉しそうに笑う。
「おいおい俺を誰だと思っている。2年生最強の戦士シュン、豪雷の騎士とは俺のことだぜ。」
彼のことは戦士にあまり興味がない私も聞いたことがある。
稲妻のごとき速さと激しさを兼ね備えた剣技は確かに2年生最強と呼ばれている。
燐は危機感を覚える反面、内心喜んでいた。ここで自分の力を見せれば自分が一人でも戦えるという証明になるのではないかと思ったからだ。
ほんの少しだけあった恐怖心と危機感はその事実の前に気付けば消えていた。
「誰だろうと関係無いわ、貴方が的だというのなら私は敵を倒すだけ。かかってきなさい!」
そう言って燐は腰を落とし、息を吐く。体内で魔力が循環しているのを感じるほどまで集中力を高めて戦闘に備える。
燐の叫び声を聞いたせいだろうか、何人かの野次馬が出来ていたがそんなのはお構い無し。怪我しないように離れていろと心のなかで吐き捨て、戦いに備える。