第四話 状況整理と現状確認
おおかた食事が終わった頃、ロイが口を開いた。
「……皆食べ終わったことだし、状況整理と現状確認しないか?」
老練の剣士にはお見通しですか、とジャスティアが笑った。
「何が起きるかわからない状況ですからね、確認しておくのがいいですね」
ユノも薄々感づいたようだ。
「ええ。では、確認を始めます。
まず、街のことですが、今日は警備を強化し、山の門も海の門もしっかり閉めてもらいました」
「じゃあ街の警備は大丈夫ってことね」
サーシャが安心したように言った。するとマーシャが、
「でも、どうしてそんなに厳重にする必要があるのん?」
と訊いた。
ジャスティアは少女をちらりと見ると言った。
「……今夜また彼女が襲われる危険性が高いからです」
少女の体がぴくりと反応する。
「ということは、魔獣が押し寄せてくると?」
ハルトが真剣な顔つきをして訊ねる。
ジャスティアは頷いて続ける。
「この屋敷は、街から少し歩いた小高い丘の上にあります。狙われやすいという弱点もありますが、相手の姿が見えやすいという利点もあります。
屋敷周辺――ちょうど敷地分くらいですね――には塀がありますが、多分魔獣相手には意味のないものである可能性が高いです」
「あいつらの脚力は恐ろしいからな」
ロイは苦い顔をした。
「ええ、軽々と飛び越えてしまうかと。ですから、我々は塀の内側にいた方が良さそうですね」
「では、塀の外には松明をつけたほうがいいですよね」
「うん、私もそれがいいと思うわ、ハルト」
「「アタシたちもハルトさんの意見に賛成ですわ」ーん!!」
ジャスティアはにっこりとして頷いた。
「次に、誰をどこに配属するか、ですが……これはロイの判断に任せます」
「俺の……?」
「ええ、私にはさっぱり分かりませんから」
(相変わらず人をたてるのが上手いことだ)
ロイは思わずにやけそうになる顔を引き締め、皆を見渡した。
方頬に手をあてて微笑む姉妹。うつむいている少女。その隣で心配そうにしているユノ。少なからず興奮している緊張状態のハルト。意味ありげな顔をするジャスティア。
さあ、俺が指揮官だとするとどうする。
「……この屋敷で一番高いところにある部屋に、サーシャとマーシャ。二人には屋敷全体の防御を頼む」
「分かりましたわ」
「了解よん!!」
「君も一緒に行くんだよ」
少女は不安げに頷いた。
「ハルト、ユノ、ジャスティア殿と俺は外で迎撃しよう」
「「「了解」」」
「表口にジャスティア殿、海側にハルト、山側に俺、裏口にユノだ。互いの存在に気を配ることを忘れるな」
「皆、確認できましたね。それでは来るべき襲来に備えましょう」
「「「「「了解ッ!!」」」」」
***
「うわっ、外、意外と寒いなぁ…」
「もう、秋ですからね」
松明を設置しようとでてきたジャスティア、ハルト、ロイ、ユノの四人は急いで物置小屋へと向かい、松明を抱えてでてきた。
「私、火をつけられないんですけど、どうしたらいいですか?それにどこに設置すれば」
「ああ、ついてなくて構いませんよ、ユノ。ちょっとした細工がしてあるんです。
場所は……持ち場に設置することにしましょう。そうしたほうが戦いやすいはずですから」
というジャスティアの提案に従い、彼らは各々の持ち場へと散った。
……はずだったのだが。
玄関の方へ向かおうとするジャスティアを呼び止める者があった。
「……ジャスティア殿」
それは、ロイだった。少し硬い表情をしているのが、沈みかけた夕日の光のおかげで見える。
「何でしょうか」
とジャスティアが応えた。
「人生というものは数奇なやつですな」
「なんですか、しみじみしたりして。いっそう年よりくさく感じますよ」
くすくすと笑う。
ジャスティアがこのように小さな刺を混ぜた言葉を飛ばせるのはロイだけだった。
「なんです、年よりって……まぁ、実際若くもありませんがね…」
暗がりの中、二人の顔が曇った。
「そんな寂しいことを言わないでください。まだ死ぬには早いですよ。奴隷用の首輪を素手で破壊できるくせに、なにが若くないですか」
衰えを知らないようなロイの体つきを横目で見て言う。
「……最近、あいつが夢にでてくるのです」
「……あいつ…?」
「俺の、妻ですよ」
ロイはぽそりと呟く。
「……っ、ばあやがですか」
「幼い貴方を連れて歩いてくる姿です。初めて会ったときのように」
それで、頭を下げるんですよ。
この子を頼みますって。
「ばあや……よっぽど心配なんですね、私のこと」
二人は泣きそうで笑いそうな顔を見合わせた。
「ロイ……頼みがあります」
「昔からよく知ってる貴方の頼み事、断れる訳がないでしょう」
なんですか、とロイは問いかける。
「私、いえ、僕のこと、昔みたいにジャズって呼んでよ」
甘えるような口調でジャスティアが言う。
「それは……」
躊躇うロイに畳み掛けるようにして。
「もう、僕にはロイしかいない。首都にいる両親なんて本物じゃない。ほったらかしにして、連絡もくれないのだから。ロイは僕のお父さんも同然なんだよ」
僕のお父さんも同然。
その言葉がロイの心を溶かした。
「……戦闘中の効率も考えて、そうすることにします」
ジャスティアは満足そうに笑ったが、「二人きりのときくらいは敬語はなしにしてよねー」と口を尖らせた。
「……さて、仕事を片付けますか」
「ああ、そうだな……ジャズ」
そうして二人は持ち場に行き、松明の設置にかかった。
これからは2日おきの投稿もできなくなるかもしれません……
少なくとも週に1度は更新する予定ですので気長にお待ち頂ければ幸いです。
ごめんなさい!!