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自由の翼を君に捧ぐ  作者: フランボワーズ
出逢い編
3/17

第二話 倒れていた少女

――痛い

  イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ

  なんで、どうして…

  前はあんなにも優しかったのに…


  やめて……ッ


そこで、目が覚める。

黒いどろどろとした過去の夢から逃げ続けてきた。

ああ、つらい。少女は嘆息する。


目を開くと、少女は見知らぬ屋敷にいた。

慣れない匂いがした。石鹸の匂い。長いこといでいなかった『清潔』の匂い。まとわりついて離れなかったお香の匂いはだいぶ薄れていた。

ふかふかの布団に寝かされていた。まるでお姫様のように。

(ここは、どこだろう……)

少女は音もたてず、するりとベッドから抜け出すと、震える足を引きずるように窓辺へと近づいていった。

カーテンにすがりつき、自らの体重をかけるようにして、カーテンを引いた。

すると薄暗かった部屋に、夕暮れの茜色の陽光が差し込む。

ほぅ…とため息をついて少女はまた目をつむった。

今までのことは全て夢だったのでは?あの悪夢は、考えすぎだったのでは?――そう、思いたかった。しかし、ボロボロだったワンピースは見慣れない美しい寝間着に代わり、ボサボサだった髪の毛はきちんと整えられ、傷ついた手足には包帯がきちんと巻かれていた。

その包帯こそが、彼女の苦痛を示していた。

(誰が……)

少女が大きな窓ガラスに触ろうとした、その瞬間。


カタンッ…と音がして、一人の青年が入ってきた。


「……目覚めていましたか。気分はいかがですか?」

サイドテーブルに、持ってきたコップと水差しを置いて青年は柔らかに微笑んだ。


少女は素早く振り返り、髪の毛と尻尾・・を逆立てて威嚇するように短い声を発した。

青年は驚いて一歩後ずさったが、好奇心に満ちた目を少女に向けた。

「〈獣人〉の方ですか……お会いするのは初めてです…」

少女の鋭い耳は、青年がもらした小さな囁きを逃さなかった。なんと素晴らしい。彼はそう言った。


(ここは、奴隷商人の屋敷なのだろうか。でも、これは、伝え聞いたものと大分違うような……)


「よく、眠れましたか?」

少女は警戒を解かずにこくりとうなずいた。


***


さかのぼること数分。

少女の眠る客室からほど近い応接室で、一同は少しくつろいでいた。

ジャスティアは皆に飲み物を配り、ハルトとロイは武具の手入れをする。仕立て屋のサーシャとマーシャは数少ない女性隊員であるユノと、和気あいあいと話し込んでいた。


「……目覚めませんね…」

柱時計を見やってジャスティアが言った。

「少し、様子を見に行ってきます」

「気をつけて、領主さま。なにかあったらお呼びください」

ハルトがそう声をかけてきた。心配することはありません、と言って部屋をでた。


夕暮れ時でほの暗い廊下。突き当たりの窓から差し込む夕陽が、ジャスティアの横顔を照らした。

お盆にのせたコップと水差しに細心の注意を払って客室へと向かう。


客室のドアを静かに開けると、カーテンが開いていてその前にあの少女が立っていた。

痩せ細った体は、今にも倒れてしまいそうな程か弱そうで、立っているのもやっとのようだった。

綺麗になった白髪はくはつが夕陽を受けてきらめいていた。


「……目覚めていましたか。気分はいかがですか?」


と、次の瞬間少女はものすごい勢いでジャスティアの方を振り返り、髪の毛と尻尾・・を逆立てて威嚇するような声をあげた。


(尻……尾…?)

「〈獣人〉の方ですか……お会いするのは初めてです…」

ジャスティアは、素晴らしいと思わずにはいられなかった。

逆立てられながらも曲線を描く尻尾、猫のような瞳、先程一瞬だけ見えた猫耳。

(猫系の〈獣人〉は愛玩用として人気があると聞いたことがあるけれど、こういうことだったのですね)

一人納得し、また尋ねる。

「よく、眠れましたか?」

少女は警戒を解かずにこくりとうなずいた。

「……お腹がすいたでしょう、ご飯にしませんか?少し早いけれど…」

少女は首を横に振るが、彼女のお腹は誤魔化せなかった。

きゅるるる、と音をたてるのを聞いて少女は赤くなり、ジャスティアはくすくすと笑った。

「こちらへ。助けてくれた皆が貴女あなたを待っています。簡単なものくらいしか出来ませんが、早めの夕食にしましょう」

ジャスティアにいざなわれ、少女は客室を後にした。


ふらふらと歩く少女を見守りながら

「………抱えてさしあげましょうか」

とジャスティアは聞いた。

その途端、少女の顔はさっと青ざめ、先程とは比べ物にならないスピードで首を横に振った。

「そ、そうですか……」

思っていたよりも強く拒絶されてしまったジャスティアは、配慮が足りなかったかと悔やんだ。

(きっと以前、愛玩用として……。それで逃げ出してきたのだろう。奴隷用の首輪がついていたから…)


法律上、奴隷を持つことは罪ではない。しかし奴隷の逃亡は逃亡した側もさせた側も大罪である。逃亡奴隷をかくまうのも罪ではあるが、首輪を見る限り正式な奴隷登録はされていないようだった。つまり、彼女は訳も分からず奴隷扱いを受けていたということだ。

だから、人の肌を拒むのだろう。

ちなみにその首輪はすでに()()()()()()()()()()()いる。


「さぁ、ここが応接室です。皆ここにいますからこの部屋で待っていてくださいね」

そう言うとジャスティアは扉を開けた。

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