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神隠し  作者: 星群彩佳
1/2

噂のオバケ屋敷で起こったこと

ガタンゴトンっ…


電車の振動が体を揺らすたび、心が重くなる。


「はぁ…」


アタシの周囲には、楽しそうな友達の笑顔がある。


今年高校に入学したばかりで、みんな知り合ったばかりなのに、仲が良いと評判。


男女入り混じったグループの中に、アタシはいた。


人付き合いが苦手なアタシは、それでも浮いた存在ではいたくなかった。


だから中学生の時、同じクラスだった女の子に頼んで、このグループに入れてもらったのだけど…。


…ちょっと後悔していた。


思い出すこと一週間前。


そろそろイロイロなことに慣れ始めた仲間達は、刺激を求めはじめていた。


だけどここは田舎で、若者が遊べる場所なんて限られていた。


そのうち、1人の男の子が言い出した。


彼は電車で通学しているのだが、窓から見える空き家がどうやら『出る』と評判らしい。


なので肝試しに行こうと言い出したのは、アタシ以外の全員だった。


多数決で決定。


肝試しは次の休日に、と。


とっとと予定は組まれてしまった。


何とかして断ろうとも思ったけれど、結局言い出せず、アタシは仲間達と一緒に電車に乗っていた。


やがて、言いだしっぺの彼が窓を指差した。


そろそろ例の空き家が見えるはずだ―と。


仲間達は意気揚々と、身を乗り出し、窓の外を見ようとした。


アタシは遠慮したかったけれど、仲間の1人に腕を掴まれ、引っ張られた。


アンタも見てみなよ―と。


イヤイヤながらも外を見続けると、電車は森の中に入った。


木々が次々と流れる中、ふと木の姿が消えたかと思うと、一軒の大きく、そして古い和風の屋敷が見えた。


けれどそれもすぐに流れてしまい、仲間達は残念そうに席に戻った。


一瞬だけど見えたあの家…。何だかイヤな感じがした。


古くて大きい屋敷だったせいか、暗くて重い雰囲気があった。


見ただけで背筋が寒くなるような…そう、純粋な【恐怖】を感じた。


霊感なんてアタシには無いハズだけど、あそこはヤバイ気がする。


でも仲間達は何も感じなかったようで、明るい笑顔に戻っていた。


…これじゃあ口を出しても、周囲を白けさせるだけだ。


アタシは周囲に悟られないよう、静かにため息をついた。


やがて電車は駅に着いた。


好奇心に満ちた眼で歩いていく仲間達の後ろ姿を追いかけながら、周囲を見回して見た。


辺りに民家はあるけれど、田んぼや畑に囲まれていて、一軒一軒が遠い。


…交流あるのかな?


疑問に思っていると、喫茶店を見つけた仲間の1人がお昼にしようと言い出した。


そして流れるように、喫茶店に入った。


喫茶店には優しそうな二人の中年男性と女性がいた。


各々メニューを見ながら好きに注文した後、男性に思い切って話しかけてみた。


あの空き家について。


すると男性の笑顔が曇った。


どこか困り顔で、アタシ達に肝試しに来たのかと尋ねてきた。


慌てて仲間達が否定するも、信じてはいないようだった。


女性が料理を運んできたので、会話は一時中断した。


そのまま食事を終え、食後の飲み物を男性がご馳走してくれた。


仲間は素直に喜んだものの、どうやら男性は足止めをさせたいらしい。


アタシ達に、この町に伝わる話を語り出したから。


この町には昔、幼いながらも頭が良い子供が1人いた。


その子供は大地主に気に入られ、その家の養子となった。


おかげで町や大地主の家は大変栄えた。


ところが大地主には多くの妻と子供がいて、養子となった子供を歓迎はしていなかった。


なので大地主が他の町へ行っている間に、子供を殺そうとした。


だがその目論見は失敗した。


大地主が家に帰ると、そこに生きている者はいなかった。


全員、殺されていたのだ。


その子供以外は―。


ところがその子供はいくら捜しても見つからなかった。


大地主は絶望し、家を捨て、町を出てしまった。


それ以後、その家には誰も住んでいないはずなのに、時折灯りがついたり、人の声が聞こえるという。


その家とは、くしくも今からアタシ達が行こうとしている屋敷だった。


男性は話し終えた後、あの屋敷に入ろうとした人が次々と行方不明になっていると言った。


だからアタシ達に、近付かない方が良いのだと…。


仲間達は少し暗い気分になったものの、すぐにお会計を済ませて店を出た。


さすがに不安になったのか、仲間の1人が行くのを止めるかと聞いてきた。


しかし言いだしっぺの彼が、意地になって行くと言った。


その気迫に押されて、アタシ達は再び歩き出した。


―あの屋敷を目指して。


電車で見た時は感じなかったが、あの屋敷は駅から結構遠かった。


しかも森の中だ。


迷ったらそれこそとんでもないことになるだろう。


けれど仲間の歩みは止まらない。


アタシは歩きながらも、さっき聞いた話を思い出した。


例の子供の行方について。


普通なら、殺しに来た人達を返り討ちにして、逃げたと考えるだろう。


でも逆の発想をすれば、それは不可能に近いのではないだろうか?


1人対複数。この図式はあまりに不利と見える。


しかも屋敷に居た全員を殺めたというのは、いくら子供が優秀でも成せることとは思えない。


…まあ昔の話だから、どこまでが真実なのかは全然分からないんだけど。


やがて例の森の入り口にたどり着いた。


…着いてしまった。


森の入り口には1つのお地蔵さんがいた。


お地蔵さんを見ているうちに、ふと何かが引っ掛かった。


それはお地蔵さんに供えられているお水とお饅頭だ。


どちらもまだ新しい…。


ついさっき、誰かがそなえたみたいだ。


今時お地蔵さんにおそなえをする人なんて、珍しいな。


そう思いながら、森の中に足を踏み入れた。


道は土道ながらも一本道。


昔は馬でもひいていたのだろう。幅が広くて歩きやすかった。


…歩いて20分ほど経ち、アタシ達はとうとう例の屋敷の前に来てしまった。


そこで仲間の1人が割り箸を取り出した。


どうやら番号が書かれているらしく、ペアを組んで行こうと言い出した。


そして引いたら…何故かアタシだけがペアを組む人がいなかった。


それもそのはず。


アタシ達は男4人に女3人。ペアにしようとすれば、必ず誰か1人はあぶれてしまう。


仕方無いので、1番目に行くペアが戻ってきたら、3人で行くということになった。


…別にここで待っていても良いんだけどな。


でもそんなアタシの思いも虚しく、1番目のペアが屋敷の門をくぐり、中に入って行った。


アタシは深く息を吐いて、仲間の中から離れた。


ちょっと周囲を見てくると言って。


周囲は木ばかりで、ここから近くの家まで歩いて30分以上もあるだろう。


…だから屋敷で起こった惨劇の真実は、この屋敷にいた人間以外、誰も分からない。


「本当にその子供だったのかなぁ」


などと呟きながら、屋敷の周りを歩いていると、裏側に小さな社を見つけた。


小走りで近付いてみると、どうやら屋敷とは背中合わせのように建てられている。


だから鳥居も家とは逆方向にあった。


でも…ここでも同じだった。


森の入り口のお地蔵さんと同じで、お供えされた水とおまんじゅうが置いてある。


同一人物がやったことかな?


社も鳥居も年季は入っていたけれど、ボロイというところまではいかなかった。


手入れがされている。


こういう田舎町では、森の中の神様まで大切にしているのか。


そんなことを考えながら、鳥居を潜り、社を覗いて見る。


社の中には、小さなお地蔵さんがいた。


優しく微笑んでいるけれど…どこか薄ら寒く感じるのは何故?


でもとりあえず、何かお供えしたほうが良いのかもしれない。


屋敷の中では、仲間達が肝試しなんかしているし…。


…そう言えば町の中を歩いてて気付いたことだけど、この町には神社やお寺を見つけられなかった。


もしかしたら町外れにあるかもしれないけど、でも電柱や案内板があってもおかしくはないのに…。


不思議に思いながらも、カバンからお菓子をいくつか取り出した。


チョコ、クッキー、アメ、ポテチ…。


おっお供えになるのって、アメぐらい?


でもこのアメ、ジュース味だしなぁ。


本当はお饅頭や金平糖など、ちょっと昔の和菓子も持ってきていた。


けれど仲間達全員に配ってお終い。


手持ちは安っぽい洋菓子しか残っていない。


途方に暮れていたせいか、背後の気配に全く気付かなかった。


―ねぇ、お菓子くれない?


「えっ?」


慌てて振り返ると、2人の少年がいた。


まだ12歳ぐらいだろうか?


1人はニコニコしていて、1人はブスッとしている。


―おねーさん、屋敷にいる人達のお友達?


あっ、もしかしてこの町の子供かな?


ここへ入っていくアタシ達を見かけて、追いかけてきたとか…。


まあ大人達のように、咎めたりはされないだろう。


「えっええ…。どうしてもこのお屋敷で肝試しがしたいと言ってね。アタシはあんまり乗り気じゃないんだけど…」


―でも一緒にいるなら、同罪だ。


ぶすっとしている男の子に言われ、胸にグッサリ言葉の矢が刺さる。


「そっそうね。結局は同じよね…」


シュン…となると、ニコニコ顔の少年がアタシの頭を撫でた。


―ゴメンね。コイツ、口悪くてさ。


いや、キミも結構…。


そう思った時だった。


仲間の声が聞こえた。


どうやら1番目に行ったペアが戻って来たらしい。


「あっ、いっけない! そっそれじゃあお菓子、どれが良い?」


慌ててカバンの中を開けて見せるも、2人は仲間を見ている。


―ねぇ、おねーさん。他の人にも会わせてよ。


「えっ? 何で?」


―お菓子、もっと欲しいから!


…輝かんばかりの笑顔で言われても…。


「会わせるのは良いけど…くれるとは限らないわよ?」


正直言って、まだ精神的に幼い人達ばかりだ。


悪い人ではないのだけど…好奇心が強いと言うか…。


―良いから。早く行こうよ。


ぐいっと手を掴まれ、引かれた。


「わっ分かったわよ」


でも…その手はとても冷たかった。


渋々屋敷の入り口に戻ると、仲間は2人の対照的な少年を見て、きょとんとした。


そして案の定、どうしたのかと尋ねてきた。


なので苦笑しながら、お菓子が欲しいのだと説明すると、一気にイヤな顔をされた。


そして次の瞬間、口々に飛び出るのは文句ばかり。


なのでアタシは少年2人の腕を掴み、社の前に戻った。


「やっやっぱりダメだったね。ごっゴメン」


息も切れ切れに、両手を合わせて謝った。


―う~ん。まあ良いよ。ある程度、予想はついていたしね。


ニコニコ顔の少年も、さすがに苦笑している。


「おっお詫びと言ったらなんだけど、アタシの持っているので良かったら、好きなだけ持ってって良いから」


カバンを再び下ろして、中を開く。


―ホント? じゃあ、コレとコレと…


―コレも。あとコレだな。


さっきまで不機嫌だった男の子まで、カバンに手を突っ込んだ。


…おかげでほとんど無くなってしまった。


まっ、いっか。


駅付近には商店街があったし、帰りにそこで買えば。


「じゃっじゃあアタシは戻るわね。キミ達も暗くならないうちに、早く家に帰った方が良いわよ」


―うん。お菓子、ありがとね。おねーさん。


―じゃな。


「うん。じゃあね」


軽くなったカバンを持ち直し、アタシは駆け足で仲間の元へ向かった。


―…おねーさんだけは見逃してあげるよ。


―ああ。アンタだけは、な。


2人の少年の呟きが、風に乗って聞こえたけれど、アタシは振り返らず進んだ。


…この後起こることを知らずに。


仲間達の元へ戻ると、すでに2番目のペアは行ってしまったとのこと。


少々空気が悪くなっていたけれど、それでも10分が経ち、次のペアが行った後は少し雰囲気が柔らかくなった。


でも2番目のペアが戻ってきていない。


そのことを1番目のペアの2人に言うと、中は散らかってはいたが、進もうと思えば奥まで進めるとのこと。


だから奥まで行っているんだろうと言っていた。


この肝試しにはまず、地図が無い。


はじめての所なので、みんないろいろ見て回りたいのかもしれない。


中は薄暗かったが、そんなに怖くなかったと言うのが少しありがたい。


2人とも不気味さはあったけど、今は平気な顔をしていたから…。


やがて10分が経った。


2・3番目のペアが戻って来ていないけれど、アタシ達の順番が来たので、屋敷の中に足を踏み入れた。


中は確かに薄暗く、そして散らかっていた。


どのぐらい昔の建物かは分からないけど、崩壊していないだけスゴイ。


床も歩いたら踏み抜くこと無い。つまり床板は腐っていないということだ。


…かなり立派な造りなんだろうな。


中に進んでいくけれど、先に行った4人には会わない。


それどころか声や気配すら感じない…。


さすがに2人も気付いたのか、不安そうな顔付きになった。


山の中なだけにケータイは通じず、使えない。


中は薄暗かったけれど、懐中電灯を使えずとも中が見える。


けれど見当たらない。


アタシは2人に、4人を探そうと言い出した。


だけどもしかしたら、どこかに隠れてて、アタシ達を驚かそうとしているのかもしれないと、引きつった顔で言われた。


だから奥へ、奥へ、足を進める。


だんだん暗さが濃くなっていく。


だけど耳に、ふと話し声が聞こえた。


それは先に歩いていた2人の耳にも届いていたらしく、2人は慌てて声のした方へ向かった。


少し怒りながら走っていく2人の後ろ姿を見ながら、アタシは何故か追いかけようという気にはなれなかった。


だって…あの声は、4人の声じゃなかったから…。


そして奥の方からは、2人の足音が途絶えた。


息を飲みながら、アタシは歩いた。


このまま歩いていけば、行き止まりだ。だから右手の廊下に進むしかない。


けれどそこは台所となっていて、誰もいなかった…。


ああ、やっぱり…。


辺りを見回してみたけれど、誰かが隠れていたり、ここにいた形跡は何も無い。


アタシはぐっと奥歯を噛み締め、元来た道を戻り始めた。


…静かだ。


アタシの歩く音しかしない。


誰の気配も無いけれど、何かの存在は感じる。


声は聞こえないけれど、空気は震えている。


そして…アタシを見ている視線に気付く。


けれどその存在に気付いた姿を見せれば、きっと囚われる。


走り出したい、叫び出したい衝動を抑えながら、一歩一歩を踏みしめて歩く。


だけどそろそろ限界かもしれない…。


叫んで、ここから逃げ出したい気持ちが心を占める。


手を組み、胸に当てて必死に堪える。


逃げ出したらダメ。捕まってしまうからダメ。


捕まれば、二度と逃げられない。戻ってこられない。


冷や汗が背中までダラダラ流れる。


足がガクガク震えだした。


目の前がくらっ…と揺れた。


あっ、これはヤバイ、な…。


もう…1人では耐えられない。


がくっと膝が折れるのと同時に、意識が遠のいた。


けれど、両肩を支えられ、意識が戻った。


「えっ…?」


―大丈夫? おねーさん。


―しっかりしろ。こんな所で倒れたら、ただでは済まされないぞ。


あの、2人の少年だった。


「どっどうしてここへ…」


―説明は後でね。それより早く行こう。


―出口はこっちだ。


2人がそれぞれ手を掴んで引っ張るので、アタシは歩き出した。


呆然としながらも、頭が真っ白だった。


それは安心感がどっと訪れたから。


薄暗い中、2人の少年はそれでもしっかりした足取りで歩く。


―ねぇ、おねーさん。この屋敷の話、知ってる?


「んっと…、噂話程度なら。ここで多くの人が亡くなったとか…」


―その話なんだけどね。


笑顔の少年がクスクス笑いながら、そして無愛想の男の子は不機嫌に語り出した。


かつてこの屋敷であったことを―。




昔、この屋敷の主人は多くの女性と関係を持ち、子供がたくさんいた。


その中で、よりにもよってこの地方の神様を祀る女性に手を出し、男の子を産ませた。


その男の子は頭が良かった為、主人は母親から男の子を奪い、この屋敷に連れ去り、養子とした。


だが周囲の者達は、その少年が主人の実子であることに薄々気付いていた。


そして跡継ぎに、少年を選ぶのではないかと囁かれ始めた。


やがて疑惑は悪心を呼び起こし、主人が遠出している時、ついに家の者は少年を手にかけようとした。


しかし―逆に家の者が、皆殺しにあった。




「…そこまではアタシも知っているわ。でもその少年は…」


―うん、行方不明になったって言われているね。でも大事なこと1つ、忘れていない?


―大事なこと?


―ああ。その少年の母親が、巫女だったってことだ。


巫女…そう言えば、説明された中にそんな風な言葉があったっけ。


「でもそのことと、少年のことがどう関係するの?」


―この地域の神様ってちょっと変わっててね。この町にお寺や神社がないこと、知ってた?


「えっええ。看板も見当たらなかったわね」


―それはこの町に、寺や神社が必要ないってことだ。


「でも少年のお母さんは、神様に仕えていたんでしょう?」


―…まあそこがちょっと複雑なところでさ。


少年達の説明は続く。


この町には寺や神社は存在しない。


ここの神様は土地の神様で、町に点在するお地蔵さん自体がご神体となっている。




…だからお地蔵さんには、新しいお供えがしてあったんだ。




そして少年の母親は、お地蔵さんを統一する家の者。


少年はその家の最後の1人だったと言う。


だからその少年に何か被害を及ぼそうとするのならば…。


お地蔵さん達が、黙っていない。




……それじゃあ家の人達は、少年に返り討ちにされたのではなく、お地蔵さん達に…?


心に浮かんだ疑問を、言葉としては出せなかった。


言った途端、何か恐ろしい目に合う予感がしたからだ。


―お地蔵さんにもいろんな種類があってね。子供を守る優しいお地蔵さんもいれば、自分を祀る者を傷付ける者に厳しい罰を与えるお地蔵さんもいる。


「…じゃあ、この屋敷の人達を手にかけたのは…」


―ああ、守り神ってことだ。


「じっじゃあ、少年はどうしたの? お地蔵さんに連れてかれちゃったの?」


―そうじゃないよ、おねーさん。その少年は元の居場所に戻っただけだよ。


元の居場所?


…あっ、母親が神道系の者で、少年はその血筋の最後の1人だったなら…少年は『そこ』へ連れ戻されたんだ。


この町の、守り神の手によって。


だから少年は行方不明ということになってしまったんだ…。


―ところが話は終わりじゃないんだ。


突然、明るかった少年の声が低くなった。


―守り神によって死に絶えた人間はその後、悪しきモノとなる。この屋敷の者達全て、悪しきモノへと変貌したんだ。


不機嫌だった男の子の声も、真剣味を帯びる。


「あっ、じゃあ誰もいないはずの屋敷から、灯りや声がするって言うのは…」


―あながち、ただの噂じゃなかったってこと。だから近付かない方が良かった。迂闊に近付けば、彼等に引きずり込まれてしまうから…。


そう言った少年の足がゆっくりになり、ふと横を見た。


だからアタシも思わずそっちを見た。


5センチほど空いた襖の隙間から見えたのは…地獄、だった。


着物を着た男女が部屋いっぱいにいた。


そしてその誰もが、笑っていた。おかしそうに。


…その体を自身の血で濡らしながら。


血は切られた肌や、潰れた体の至る部分から絶えず流れ出ている。


中には臓器や目玉を垂れ下げながら、笑い、踊り狂う屍もいた。


あまりに異様な光景に、気が遠のきそうになる。


―ほら、行くぞ。


けれど無愛想な男の子に手を引かれ、再び気を戻す。


…だけどあの襖の向こうの光景は変わらない。


そして…気付いてしまった。


あの屍達の中には、現代の者と思しき服装や髪型をしているモノもいた。


きっと、彼等に引きずり込まれてしまったのだろう…。


その肌は真っ白で、顔色もすでに生きた人間のそれではなかった。


屍達の宴―終わり無き悪夢だ。


2人の少年が再び歩き出したので、アタシも足を動かした。


「彼等は…もう戻れないの?」


―ムリだな。ああなってしまったのは、自業自得だ。


―それに『戻る』と言うより、『行く』ことができないと言った方が正しいかもね。…もっともあの人達、自分がどこに『行く』のかも分かっていないみたいだけど。


…そう語る少年の声は、少し沈んでいた。


彼等のことを、少なからず心配しているからだろう。


やがて、日の光が差し込んできた。


出口が近いんだろう。


アタシはぼんやりしながら、2人の少年を見た。


アタシの目の前にいる、2人の少年。


彼等のアタシの手を掴む小さな手は、とても冷たかった。


まるで…生きていない人間の手のように。


その後は3人とも無言で歩き進む。


時折、いろんな所から人の声や物音が聞こえてくる。


…楽しそうだ。


それだけが、彼等の唯一の救いなのかもしれない。


例え一生、この屋敷から出られずとも、彼等には心から笑い合える仲間がいるのだから…。


アタシと違って。


屋敷から出て、門をくぐった時、夕日の眩しさに目が一瞬眩んだ。


すでに外は夕方色に染まっていた。


入った頃はまだ、お昼過ぎだったのに…。


「随分…時間が経っちゃったのね」


―この屋敷には、時間なんぞ関係ないからな。


―まっ、戻って来れたのが『今日』なだけ、ラッキーだよ。今なら電車にも間に合うし。


そう言って、2人の少年は手を離した。


冷たい2人の手のおかげで、アタシの心も静かになっていた。


「…ねぇ、アタシの仲間達はどうなったの?」


―あの人達はすでに、彼等の仲間だよ。


笑顔の少年に言われた言葉に、思わず意識が飛びそうになった。


…いや、予想はしていたことだった。


「なら…どうしてアタシは無事なの? …いえ、見逃してくれたの?」


そう尋ねると、2人の少年達はお互いの顔を見合わせ、微笑んだ。


―だっておねーさんは、お菓子をくれたから。


―俺達だって鬼じゃない。ルールは守るさ。


お菓子、ルール…。


…ああ、そうか。確かに仲間達は彼等にお菓子を…いや、『お供え』をやらなかった。


だから見逃してはくれなかったんだ…。


―早く帰りなよ。大丈夫。おねーさんは無関係なんだから。


「…そういうワケにはいかないでしょう?」


この町へ来たことは、いろんな人に見られている。


―いや、そうなんだ。お前はここには来なかった。来たのはあの6人だけだ。


「そんなことがっ…!」


思わず顔を上げて、思い当たった。


この町の人は、地元の神様を大事にしている。…ならば、そういう事実もありとされてしまうんだろう。


「…分かったわ。帰る」


ぎゅっと唇を噛み締めながら言うと、明るい少年が大きく頷いた。


―今日のことはできれば忘れた方が良い。一度は見逃すルールがあるけど…二度目はないよ?


笑顔ながらも、目が笑っていない…!


「っ! 分かったわよ! もう二度と、ここへは来ない! さようなら!」


アタシは2人の少年の間を通り、道を歩き出した。


けれど…どうしても言っておきたいことがあって、どうしようか迷った挙げ句、やっぱり立ち止まり、振り返った。


―あれ? どうしたの?


―早く行け。電車に間に合わなくなるぞ。


アタシは息を吸って、顔を上げた。


「いっ一応アタシを助けてくれて、ありがと!」


大声で言うと、今度はすぐに道を走り出した。


遠ざかるアタシを、2人はしばらくキョトンとした表情で見ていた。


―…あ~あ、残念。どうせ引き込むんだったら、おねーさんみたいな人が良かったなぁ。


―お前のその女好き、絶対父親似だな。


―しっつれーな! …まっ、否定はできないけどさ。


少年は肩を竦めると、男の子の手を取った。


―さっ、おねーさんからもらったお菓子、食べようよ! 美味しそうなの、いっぱい貰ったし。


無愛想な男の子は、柔らかく微笑んだ。


―だな。久々に大収穫だったしな。饅頭にも飽きてきたところだ。


―お饅頭だけってのも、飽きてきたよねぇ。たまにはチョコとかポテチとかアメとかさぁ、食べたいよね。


―しばらくは不自由しないだろう。…まっ、またあんな人間が現れるよう、願うことだな。


―おねーさんみたいな奇特な人、今の世の中じゃ珍しいよ。あ~あ、もう一回ぐらい、来てくれないかなぁ。今度は僕達に会いに、さ!


―…こんな体験をしといて、来る人間なんぞ普通はいないぞ。


―残念★ じゃあしばらくは、大人しくしてようか。

…お客さんが来なければ、ね?


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