05 - おもちゃ
「どうして言うことが聞けないの!」
母親の怒声が響き渡った。
デパートのおもちゃ売り場で子供が「買って買って」と泣きわめいている。
俺はスーツのボタンを外し、ネクタイを緩めながらその親子に近寄っていく。
そばまで近づくと、そのまま勢いよくごろんと子供の横で仰向けに寝転がった。
「ああー!! ママー!! 買って買って買って!!!」
そう叫びながら、俺は肩を軸に、足を使って床の上でぐるぐると回転した。
子供は俺を見てピタリと泣き止んだ。
母親は一度驚いた後に、ひきつった顔を見せている。
彼女は俺を軽蔑した眼差しで見ながら、子供の手をつかむと店から逃げるように出て行ってしまった。
子供は途中、何度もこちらを振り返りながらも、ほとんど抵抗せず素直に母親に連れられていった。
そしてスーツ姿で床に転がり、
駄々をこねる格好をした俺だけがぽつんと残された。
なんでだよ。俺にもおもちゃ買ってくれよ。
見かねたのか、女性店員さんが近寄ってきてくれた。
ああ良かった。きっと俺におもちゃを買ってくれるんだな。なんて天使な方なんだ。
「あの、すみません。他のお客様のご迷惑になりますので…」
なんということだ。俺もお客様なのに。
泣いちゃうぞ。いいのか。本当に泣いちゃうぞ。
「ママー…」
俺はそう言いながら店員さんにすがるように手を伸ばした。
サッと避けられた。
オーマイゴッド…ドミネ・クオ・ヴァディス…神は死んだ!
まぁ日本には八百万の神がいるって言うし、新しい神を見つけるか。
あと七百九十九万…あぁなんでもいいや。
俺は反動をつけて起き上がると、スーツを脱いでバサッと肩にかけた。
そのまま店を出ると、雲一つない青空が広がっており、
燦々と輝く太陽が俺を待っていた。
はーあ。今日も一つ、いいことしちゃったかな。




