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鯛の天ぷら

ええ、元和に改元して約1年。ワシは駿府で病に伏していた。数々の武将を屈服させ、江戸に幕府を開いたのは良かったのじゃが、病には屈服させられるんじゃのう。この前、食ったタイの天ぷらが良くなかったのじゃろうか。


鯛はめでたいからと食べたが、まさかめでたく召されるのはワシじゃったか。いや、「召し上がれ」とは言われたが、まだ召されて上がりたくはないのう。旗印には「こんな世を捨てて素晴らしい世界に行きたい」の意味を持つ「厭離穢土欣求浄土」を掲げてきたが、いざ離れるとなると、やっぱりこんな世でも過ごしてみると悪くはなかったかもしれんと思えて来るから不思議なものじゃ。


別に親父ギャグを言いたくて江戸に幕府を開いたわけじゃない。厭離穢土欣求浄土、江戸だけに。なんて言わない。


「ご隠居様。江戸だけに厭離穢土欣求浄土とはご自身の旗印をなんとお心得か?」

幕府を開いた時、わしが適当にこぼした「江戸だけに厭離穢土欣求浄土なんてな」を康政はこういって居ったな。


「そうですね。戦乱と言う穢土を離れて平和な江戸になるといいですね。絶対に穢土とは呼ばせない最高の国をともに作って参りましょう。とはいえ、老臣、権を争うは亡国の兆し。わたくしは家康様の作られる国を眺めてますよ。中心からは外れますがね」と。


思い起こせば、この前平八郎(忠勝)も死んだし、康政も10年前に居なくなった。築山と信康に関しては、今の大御所、秀忠が生まれたころにわしの手で殺さねばならんかった。


数々の女を抱いて来たが、築山は別格じゃった。ワシの正室は秀吉のクソ禿から押し付けられた旭姫を除いてアイツしかおらん。アイツのテクは大したものではなかったかもしれん。じゃが、可愛かった。アイツはワシの好みじゃった。


厭離穢土欣求浄土をいつ旗印にしたかは覚えておらん。遠い昔じゃ。だが、築山を殺したとき、本気で厭離穢土欣求浄土と思った。信長様は凄かった。確かに武田と通じたやつも居ったじゃろう。あの時期だったのは良くなかったかもしれん。


ワシだって武田の旧臣を召し抱えたしたしな。でも、偏諱を与えた信康までやるか?偏諱かどうか忘れたが信長様と同じ信だしな。覚悟試す意味では効果的だったとわかる。理解はできる。でも、いまだに築山の件は忘れていない。


マジで反吐が出そうだった。心から「穢土」という言葉が出そうだった。別に音が一緒だから江戸にしたわけではない。だが、築山を思う気持ちがここを選ばせたのかもしれない。


瞼が重い。信長のクソ野郎が援軍を送ってくれなかったせいで漏らした三方ヶ原。逆にその雪辱を果たした長篠の戦い。信長のクソ野郎、いやでも天才だったから尊敬もしておる。


だからあのクソアニキと出会った清州。同盟もそこで結んだしな。築山の件は恨んでいる。だから、光秀に「信長倒すなら本能寺だぞ」と返しておいた。書類は燃やした。律儀に謀反の証拠なんか残さない。じゃが、天才の作る世界を見て見たかったという心もあった。


長曾我部にいた光秀の家臣の兄を助けたいとのことで起こしたらしいが、アイツは生真面目で情に厚く、凄かった。秀吉のクソ禿ネズミ多指症野郎より100倍カッコよかった。政略結婚とはいえ、義理を通すためとはいえ、築山と同じ椅子に座らせるのが44のババアなのはいただけない。


だからワシの真の正室は最後まで築山1人と言い続けて行こうと思う。書類上は2人でも。あの蛇顔のような切れ長な目が妖艶で、好きじゃったのに。あのクソアニキめ。あの世に行ったら覚えとけよ。8回ぐらいげんこつじゃ。


それさえも見越して、「残念、先に神に話通してるから極楽ではありませーん」とか返して来るんじゃろうのう。なんじゃアイツは。


アイツの次男はドラだったが、あのクソアニキは本物の天才だと思う。人を見る目が天才すぎた。堅実で交渉の天才の光秀も、築城の天才長秀も、頭の切れるクソ野郎秀吉も皆優秀だった。特に光秀は天才だったと思う。


あのクソ禿をどうにかできていれば信長のクソアニキが作ろうとした世界よりもっといいものができたかもしれん。光秀は鉄砲の扱いも足利野郎の扱いもうまかったからのう。


先見の明はあのクソアニキとも張るぐらいはあったじゃろう。見て見たかった。だからワシが作り上げた。今のこれが江戸にあっているかはのちの人々が証明するじゃろう。


流れる世は諸行無常。こうして落ちるのが運命ならそれもまた仕方ない。うんめぇ鯛の天ぷら食べて死ぬ運命だったのかのう。


さぁ、浄土へ参ろうか。お休み、ワシ。









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