8)だ、大丈夫かな
東京オリンピックは、史上最も「歪んだ」大会として歴史に刻まれることになった。 金メダルの数も、新記録の樹立も、すべては前座に過ぎなかった。観客も選手も、そして全世界の視線も、いつあの「ラギッドベア」が国立競技場の空を切り裂くのか、そればかりを待ち望んでいた。
開会式で見せた、音速の壁を突き破るあの「空走」。 スタジアムの上空に刻まれた、巨大なベーパーコーンの轍。 世界中のメディアは、五輪のマークよりも「空を走る凛道」のシルエットをトップニュースに掲げた。
しかし、その裏側は醜悪な綱引きの戦場だった。
「有栖川君は、もともと山で発見された『事象』だ。警備の観点からも、警察庁が身柄を確保するのが筋だ!」 「ふざけるな。筑波での実験データはすべて防衛省の管轄だ。彼は我が国の安全保障を根底から変える『至宝』なのだぞ!」
警察は「有栖川という高貴な出自」を盾に、自衛隊は「身体能力の軍事利用」を狙い、内閣官房は「国の象徴」として彼を囲い込もうと躍起になった。 そして迎えた閉会式。 全世界が、20億の瞳が、再びあの「奇跡」が起きるのを待ち構えていた。 だが、夜空には何も現れなかった。
その時、少年は筑波の高級な個室に閉じ込められていた。 目の前には、各省庁のトップたちがズラリと並び、おのれの組織への「勧誘」という名の、果てしない椅子取りゲームを繰り広げていたのだ。
「……ねえ、アイちゃん。カワさん」
少年は、高級なソファに深く腰掛け、ボロボロの子熊の皮を弄りながら、窓の外の静かな夜空を眺めていた。
「この星の人たちは、不思議だね。俺に『道』を作れって言ったくせに、いざ走り出したら、自分たちの小さな箱の中に閉じ込めようとする。……もしかして、みんな『空を走る』のが、本当は怖いのかな?」
黒川は、少年の問いに答えることができなかった。 彼女は、少年を救うために「有栖川」という名を捏造したが、今やその名前が、少年を縛り付ける強固な「檻」となってしまったことに、激しい後悔を覚えていた。
「……有栖川君。今日はもう、走らなくていいのよ」
「いいよ。どうせ、あそこに集まってる人たちは、俺が走る姿じゃなくて、『自分の期待通りに動く神様』が見たいだけだろ? そんなの、おまるさんの標本を見てるのと変わらないよ」
閉会式の空には、華やかな花火だけが虚しく打ち上がった。 世界中が失望に包まれる中、少年はただ一人、この星の文明の「ちぐはぐさ」と「臆病さ」を、冷めた目で見つめ続けていた。
結局この案件は、公安の抑えているている江戸川区のアパートのの一室を与え、自衛隊の軍事演習に参加し、内閣官房が生活の補助を担当するという形で決着がつく。日課の空中高速ランニングで一度も海に落ちることが無かったのが後の悲劇、いや、喜劇へと繋がる。
次の春には中高一貫の中学1年生として学生となるための詰込み授業を行うが、教員係の大学教授たちがこぞって少年に教えたがるくらいに呑み込みが早く、全教員が東大レベルのあらゆる学部の学問まで教えすぎた。
有栖川凛道の学園生活は、地獄のような「満員電車」から始まった。 身長150センチに満たない彼は、大人たちの肉の壁に押し潰され、目の前に現れた柔らかい弾力に顔を埋めることになった。
「……あんた、大丈夫? 胸に大きな『たんこぶ』が二つもできてるよ。左右対称なんて、どんなひどい殴られ方をしたんだい?」
女性の胸を本気で心配そうに見上げる碧い瞳。その無垢すぎる視線に、周囲の空気は凍りつき、当の女性は顔を真っ赤にして固まるしかなかった。電車の揺れに慣れていなかった凛道は咄嗟に掴んだ、女性の後ろの手すりを。何だこれ、この日の朝、六感の新しい使い方を楽しんでいた。手の数以上の感覚で誰かが座っている座席の背もたれや、床、天井などなど。己の手は動かすことなく無数の手でいろいろな場所の感覚を調べていた。この人間の頭頂部にはなぜ毛が無いのだろうとか、そっと撫でてみたりするとそのおじさんは頭に手をやり不思議そうにしている。
降りる駅の名は藍に説明を受けたが、問題は改札口だ。電車から降りたはいいが、改札口で「トールトールトール」とぶつぶつ言っている金髪碧眼で制服を着た小さな男の子という絵面が完成していた。
ほとんどの子が車で送られてくる中、凛道は一人で歩いて学園に向かっていた。建物の陰から黒川が心配そうに後を付けて来ている事は内緒のようだ。
豪華な講堂で行われた入学式。凛道の目は、ステージ上に鎮座する車椅子の高等部生徒会長に釘付けになった。
「……あれこそが、この群れの『王の椅子』か。移動機能を備えた玉座。無駄を省いた合理的な選択だね」
感心する凛道に、生徒会長が優しく「何でも気軽に聞いてね」と微笑みかけると、彼は待ってましたとばかりに、黒川に渡された制服の不条理を突きつけた。
「黒川からは、これは『統一感のための制服』だと聞いた。なのに、なぜここにいる個体は、股の下が二つに分かれている個体と、一つに繋がって短い個体に分けられているんだ? 形状の差異は機能の差異だろう? それに首回りの形が2種類、色が6種類……この色分けは、情報の処理能力の階級か何かか?」
「男女別」や「学年」という概念を、軍事的なスペック分けのように解釈する少年に、会場は静まり返った。
「この後生徒会室に来てくれるかな。わかっていないのは君だけのようだから」「よかろう」式典が終わると車いすの後ろを歩いてついていく。凛道は理解はしたが納得はできないと言い残し自分の教室がわからないまま生徒会室を去った。
やっとの思いで到着したがすでに全員が自己紹介を終えていたため自分だけ今からそれをする事になり、「源の、違う、有栖川凛道だ」とだけ言い残し教室から出ようとするのを担任が引き留めるという一場面もあった。
「今日から1週間ほど部活動の仮入部、お試し期間というやつだが担任の俺に迷惑はかけるなよ」と言い残し、解散となった。
体育館に到着した少年にバスケットボールが転がってくる。それを拾い上げ手に持ったまま歩き出し、フリースローレーンから飛び跳ねるとリングの上に着地し手に持ったボールをそっとリングに降ろして入れた。その後は大きく上がったトスを最高到達点でぶったたき、破裂させると逃げるように外へと飛び出していった。
何人かの生徒たちが「9秒58ってどんな世界なんだろうな」といった会話をしていたが、凛道には9秒58だけが聞こえた。白線の内側の適当なところで立ち止まった制服の金髪白人君はそのまま走り出し9秒58で100Mを走り終える。「こんなんじゃ空は走れないぞ」と小声でつぶやき去って行った後に「ねぇ今の子早くなかった?」とか、「誰も測定なんかしてないだろ」とか凛道が野球のグランドに到着するころの体育館ではバスケ部があれはダンクなのか?とつぶやくと、バレー部があれはパンクだろ。と微妙に食い違う意見でのやり取りがあったりもした。
野球部では見から始めた。右で投げる人左で投げる人、右で打つ人左で打つ人。それらを全てやってみて、つまらんと言い残し去っていった。身長が160Cmにも満たない制服を着たちびっこが高等部エースの148キロのストレートを右でも左でも投げて見せ、打てば打ったで右でも左でも弾丸ライナーでフェンス直撃というその前に打ってた人の真似をしたつもりだった。
問題が起きたのはその後だ。いや、問題ばかりだったが水泳部での問題は異質だった。部員たちのコスチュームを見渡し、おもむろに全裸となりプールに飛び込んだ。確かに飛び込んだんだ、ほとんど全員が見ていたのだから見間違いではない。凛道はプールの底で飛び込んだ体制のまま沈んでいた。浮かんでこない。全員があっけにとられ動けなかった。
沈黙を破ったのは、一人の高等部女子だった。「みんなあの子を助けて女子更衣室へ拉致るわよ」そこからの女子は素晴らしい連携で素っ裸の凛道を女子更衣室へと連れ去り「息をしていないわ」「人工呼吸は私が、えーーーっ」「ぷはっどう?」「うらやまし、えーーーっ」「だったら私はチンコ呼吸をって、えーーーっ」「これが勃起」「少し短くなった鉛筆みたいね」「もういい、だったら私はこうよっ」えーーーっばかり言っていた女子が水着を脱ぎ去り鉛筆チンコに上から乗った状態で致し始めた。「もっと痛いと思ってた。どうすると終わりなのかしら」「出血したんだから選手交代」高等部の女子が一通り致した後に、血まみれちんちんを洗う係をしていた中等部の女子が「先輩、今これがビクビクってなりました」え、何も出てないわね。えっ何か出るの?知らないわよ。とかなんとか姦しい会話の途中で「もういいかな?」と言いながら上半身を腹筋一つで起こすと女子更衣室を素っ裸で後にした。この時の少年は精通はまだだった。性行為は創造主が付けた2番目のロックだった。1番目に射精を設定していたため凛道に変化は起こっていない。射精といっても凛道のは大気に触れると消えてしまう純度100%のホワイトマターなのだが口、膣、尻、といった部位からの経口摂取がもう一つの星の変態天才博士がそうしたのだが、創造主はそこに最初は予備5Lが満タンになってからでなければメイン70L にはカウントされないといった面白そうな設定を加えていた。




