13)♪ローンドバシ、おちた~
翌日、港区へとお引越ししたアリス国大使館にはパンツスーツで決めたラムダ女史の姿を一目見ようと、聞いたことが有るような無いような国々の大使館職員たちが某雑居ビル周辺で目撃されるようになる。ちなみに凛道は学園で使用するジャージの試着中だったので以下略。
ラムダは一人、絶対座標を使い地球上を観察して回った。見られたのは引っ越してきた今朝の1度だけ、大変だったのは英国大使館だ。今朝ダイアナ妃を見たといった情報があちこちで囁かれたためだ。物理的に1番の被害が出たのも日本ではなく英国だった。ラムダが英国を視察中に民間人がメディアに報告と問い合わせをしたものだから、人々がどんどん集まりだし一目ラムダを見ようと追いかける者、回り込もうとする者、人、人、人、の大観衆が集まった場所はラムダの怒りにふれ大事故を起こしパニックとなった。ロンドン橋は落ちた。
凛道はというと6感のさらなる使い方を試していた。生き物は絶対座標を使えないという研究結果を元にしたものだった。まず確認されているのは情報として、生き物も到達座標場までは到達しているという事。ただしそこでの情報の再構築ができずにドロッとした何かになり死亡が確定する。その研究は哺乳類、爬虫類、両生類、鳥類、魚類、昆虫、植物、単細胞微生物まで幅広く実験を行ってきたと記録野にはあった。動いている恐竜で実験すべきかどうかの論争があったことも。アンドロイドを追いかけさせるという結果だけでも大躍進となったことがしるされっていた。
結局何度も行われた実験に量産型のアンドロイドを使い座標に情報を記録させることで光速を超えることが証明された。その後にアンドロイドダイブが流行してしまったのを何の危機感も持たずに開放してしまったことが、その惑星の運命を決定づけてしまったことを知る者は創造主、凛道、ラムダだけとなってしまっている。
そこでバカと天才が紙一重凛道君は、創造主がオニ封じのために作った自分の体では失敗するのか。あるいはオニはどうか。己の中にあるつぎはぎだらけのおかしな記憶と体験は、己にとってどんな意味があるのか。いろいろと考えた結果はというと、”Youやっちゃいなよ”であった。
結論、できた。できてしまった。ほんの100mほど先にではあるができてしまったのである。頭の中に完全な形でラムダが設置した絶対座標が記録されていく。次の瞬間凛道はファイティングスタイルをとってぐるぐると体を動かす。何も起こらない。創造主は見逃したのか、それとも凛道が生き物と判断されていないのか。創造主もまた気まぐれなのだろうか。
「はっはっはっ創造主の弱点は俺だったか。えーーーそれはすごく嫌なんですけど」
その後は6感を利用した衝撃波にゴーストソニックバーストと名付けたはいいが、ギャランを入れていないことで悩む時間の方が長かった。転移は交通手段以外に使い道を考える事すらなかった。
次は海辺まで音速で移動し。ブラックホールの実験をした。大きさは砂1粒程度だったが凛道も理論上できるはずが無いと高をくくっていた事もあり転移で逃げなければやばいほどの重力のせいで奪った海水の場所へと一気に波が打ち寄せる。震災時の津波とは比較にならないほど小さいが、局地的には移動した凛道をも飲み込み凪へと戻ろうとする。
「本当なんだ、津波にのまれた金髪の兄ちゃんが海中から歩いて戻ってきたんだ」
「4月1日だもんな、そういうこともあるかもな」
1部ではそんな事が噂にもならずに、つまんねぇとかいわれてたりする。
新しい部屋にちゃんと戻ってこれたのは、奇跡でも偶然でも絶対座標でもない。
スクランブル交差点とは不思議な場所だ。人が一人突然現れたというのに流れは途切れない。たとえそれがびしょ濡れの学園ジャージで海の匂いをプンプンさせていたとしても、信号が変わるまでは横断が途切れたりしない。
凛道の学園ジャージがびしょ濡れのボロボロであっても、その学園ジャージを知っている者はいた。悪そうなやつらは大体友達な6人ほどだろうか。「ちょっと来い」倫道は親切な奴らについて行く事にした。古びたマンションの一室に入るとロープや結束バンドで体の自由を奪ったつもりの悪そうなやつらの一人が、「無事に帰りたいなら素直に金を持ってこさせろ」などと言いだすが理解できない凛道だった。
「ガシュッ」凛道の首の付け根から肩にあたる場所へと金属バットを叩きつけた音がそれだった。「頭でもいいんだぜこっちは」凛道はいい事を思いついていたため無言だった。「なぁ、なんでこいつびしょ濡れで海臭いんだ」「知らねぇよ白人様のすること何ざぁよ」「もうちょいといたぶっておくか」あちこちを叩きまくっても声一つ上げない凛道に一人がナイフを肩にさしてみた。この間ラムダに指示を出していた凛道が次は藍へと連絡した、「ああ、俺だ、藍ちゃんで合ってるか」何だこいつ霊でも見えてるとかか、などと茶化しあってる悪そうなやつらは何が起きているのかも知らずにまた殴り始める。「今、貴国の国民に攻撃を受けている。宣戦布告もなしに奇襲とは、お前たちの国は何も学んでいなかったのか、これより報復の戦闘行為へと移行する。内閣にちゃんと伝えろよ」5分後、まだ総理にアポイントメントもつかぬうちに、日本中の稼働中原子力発電所が一斉にメルトダウンを起こした。
それからさらに2時間後、馬鹿共がカップ麺を食べ終えタバコを吸っていると警察が乗り込んできた。警察が馬鹿どもを逮捕すると、なんと凛道の拘束を解き始めた。
「おいおいいいのか、俺を拘束しないで」
「我々は外交官特権の前では何もできません」
「はっ、藍ちゃんあたりかな。まぁよい逃げも隠れもしない。来るというならばいつでも歓迎しよう」
そのまま歩いて進むと道路が駐車場のようになっていてヘッドライトが川のようでもあった。交差点という交差点すべてで事故が起こっており信号は沈黙している。パトカーも救急車も音はすれども姿は見えず、ヘリでの救助活動が行われていた。
「ラムダ、夜空の散歩と行こうか」「はい」その場から暗闇が押しつぶそうとする都心部を悠々と散歩しながら帰宅の道をたどる。
「砂一粒くらいの大きさでブラックホールを作れるか」
「マスターが幼児退行しているのかと疑ってしまいます」
「だよな」自分がこの世界の理の一つとなっているのだろうかなどとは言わない。そのほうがっかっこいい場面が来ると信じて。
こうして戦時中であることを忘れてのんびりと帰宅した。空を歩けるまでに能力を研ぎ澄ませてきたのは、奇跡でも偶然でも絶対座標でもない。ただしラムダは絶対座標を使った。
ベランダから侵入して帰宅した凛道たちは相変わらずホワイトマターの注入にいそしんでいたが、ガンガンガンッという強いノックの音で行為を中断する。助かったのは凛道、邪魔されたのはラムダ。当然ラムダが対応する。玄関を強く大きくあけ放つと外では転がっている人たちもいたが、
「何ですか、こんな夜中にアポイントを取ろうとしに来たわけではないはず」
「外は自衛隊が囲み逃げ場はない。世界はアリス国をテロ組織と認定して有栖川凛道を国際指名手配とした」
「…どういたしますか」
「もう日付も変わったしな、いいだろうやれ」
「……任務完了です」
「ご苦労、面倒だっただろう」
「いいえ、ただ大掛かりな仕掛けを連続でしたせいで燃料の残りが少々心もとないかと」
「うぐっ、努力しよう」
「貴様らぁ、何をした」
「宣言しよう、全面降伏しか受け付けない。我が国の属国となるしか道はないと知れ、総理と陛下にご相談してきなさい。表面上は今のままでいい。だが裏では必ず履行してもらうぞ。国民は知らなくていい」「フンっ、バカバカしい。撃て」
パパパッパアン。そんな音がすると玄関前には生きている者がいなくなった。
「さしずめ、座標の面を交換したってところか」
静かにうなずいたラムダは凛道の手を引きドアを閉め行為の続きを所望した。この日、凛道は900mlという自己最高記録をマークした。あとどれくらいなのかと問う凛道に69.5リットルほどかと、と返すラムダ。
「予備分に突入していたのか」
「はい」




