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【オニ】を内包した不思議な老人の魂  作者: 桃井ルルール
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1)むかし、むかし、あるところで

ガチっぽい始まり方には憧れてました。

――昔話をしよう。

およそ48億年前とある銀河系のとある太陽系にとある惑星が誕生した。後に地球と呼ばれるその星は、一つ隣の硫酸の雨が降り続く惑星とほぼ同じ大きさの裸星となる。


最初のディープインパクトがこの裸星に起こり惑星はいたるところがひび割れると突如として中心部が活発に脈動し始める。それらの影響で地軸は傾き地表に高所と低所がばらけて再生することとなる。マグマは噴出したとたんに冷やされその場所をまたしてもマグマが突破するといった現象がこの惑星での日常となった。結果そこに大気が生まれる重力に捕らえられた大気はやがて、雨を降らせる、熱波にかき消されるを繰り返し今日の海と地上の原型となり生物が誕生する。


恐竜と呼ばれる大型の爬虫類が弱肉強食の頂点となり10億年とも20億年とも推測されるその食物連鎖を打ち破ったのは、またしてもディープインパクトだった。


その際に起こった変化は月の地球方面にだけできてしまった大量の礫の衝突によるクレーターと、大きな大陸を半壊させ海底へと沈ませることで別地点が陸地となってユーラシア大陸に衝突し、そこが隆起することでエベレストを含むヒマラヤ山脈を作り上げた。


惑星が再構築されるに伴い、数多の命が潰えたその場所で、放出された「魂」たちは霧散することを拒むように土星と木星の中間地点に凝集を始めた。  それはかつて創造主が設計したどの物理法則にも当てはまらない、異形の胎動だった。


 やがて、その場所から一体の生物が這い出した。  身の丈は星を跨ぐほどに巨大であり、その体躯は木星の直径にも匹敵する。地球という小さな揺り籠を粉砕しかねないその質量を維持しているのは、数億の死から生まれた「破壊への渇望」というエネルギーだった。


 創造主は、初めて「生物」という個体に目を向けた。  自身の構築した宇宙の中に、自身の意志とは無関係に蠢く巨大な意思。観測対象としての興味。しかし、その興味は即座に「脅威」へと塗り替えられる。


その巨獣が真っ先に向かったのは、美しく調律された土星であった。  創造主がかつて、幾何学的な愉悦の中で完璧な配置を施した、あの繊細な輪。宇宙の静謐な美しさを象徴する『リング』。


巨獣は、その巨大な腕を土星の環へと叩きつけた。  創造主がミリ単位の誤差もなく作り飾ったリングは、野蛮な力によって弾け飛び、ただの瓦礫へと成り果てる。完璧な円環は無惨に引き裂かれ、美しかったリングはその姿を瓦礫の集合体として残った。


 創造主の中に、未知の感情が芽生える。  それは、愛でていた観測対象を壊されたことへの不快感か、あるいは「理」を根底から覆す者への明確な殺意か。


創造主の怒りは、銀河の鳴動となって現れた。  だが、完璧に調律されたはずの彼自身の宇宙において、その巨獣は唯一「消去不能エラー」な存在となっていた。魂の渇望から生まれたその命は、創造主の意志を拒絶し、そこにあるという事実を曲げない。


 消せぬのならば、隔離するしかない。  創造主は現実世界に密接して重なる、厚みのない薄氷のような異空間――『異次元』へと巨獣を叩き込み、限界までその質量を圧縮した。    「この災厄の源は、あの惑星にある」  創造主は、魂を噴出させた地球そのものを牢獄の礎に選んだ。異界に閉じ込めた巨獣が漏れ出さぬよう、現実世界地表の数箇所に強固なくさびを打ち込む。  その一つが、後に老人が登ることになる山の山頂にある、無骨な一枚岩であった。――創造主はこの封じた生物を【オニ】と名付けた。



鉛のように重い体を引きずり、男は名も無き小山の頂にある一枚岩に辿り着いた。  カバンの中の包丁が、歩くたびにカチカチと不吉な音を立てる。うつ病を患ってからというもの、世界は灰色に塗り潰されていたが、手元にある一升瓶のラベルだけが妙に鮮やかに見えた。  岩の上に這い上がり、男は『鬼殺し』を掴み取る。  作法も何もない。ラッパ飲みで流し込むと、強烈なアルコールの臭いが鼻を突き抜けた。飲み込みきれなかった酒が、服の胸元をぐっしょりと濡らしていく。  一気に空っぽにする。胃の奥が熱い。それだけが、自分がまだ生きていることを証明する唯一の感覚だった。


男は右手に力を込め、包丁を首の右側、頸動脈が拍動する一点に深く突き立てた。  そのまま、一気に引き裂く。


 迷いはない。肉を裂き、太い血管を断ち切る感触が右手に伝わると同時に、熱い鮮血が噴水のように岩肌へ飛び散った。視界が急速に明滅し、「ようやく、これで終わる」という確信が男の脳をかすめる。


 その時だ。  足元の一枚岩が、まるで悲鳴を上げたかのようにメキメキと音を立てて割れた……そんな気がした。


 朦朧とする意識の中で、男は自分の死が完成するのを待っていた。だが、訪れたのは安らかな無ではなかった。  岩の割れ目だと思っていたものは、巨大な、あまりにも巨大な「口」だった。


 暗黒の淵から現れたそれは、血と酒に濡れた老人を、岩ごと、絶望という名の希望ごと、丸呑みにせんと襲いかかる。  逃げるつもりも、叫ぶつもりもない。  むせ返るような死臭と、生物的な圧迫感。  老人の体は、その底知れぬ大口の中に吸い込まれ、凄まじい力で噛み砕かれた。


 骨の砕ける音が、自分のものか岩のものかも分からぬまま、男の意識は深い闇へと沈んでいった。



数万年。星々の運行という観測記録から見れば、それは瞬きに等しい時間だ。  創造主の確信は「するはずがない」という傲慢に近い計算に基づいていた。異次元に封じられた影が、実数空間に干渉するなど、理が許さない。


 しかし。  うつ病に蝕まれ、生への執着を捨て去った老人が、その楔の上で放った「死の決意」と、不純なアルコールの奔流は、計算外の共鳴を引き起こした。    開くはずのない門が、血に濡れて歪む。  異次元から染み出した巨獣の飢えが、一瞬だけ現実の肉を伴って顕現した。それは「口」だった。数万年の封印を噛み砕くかのような、暴力的な捕食の意思。


 創造主が「看過できない」とした理の乱れは、今、最悪の形で現実を侵食し始めたのだ。


魂の理において、同一種への連続した転生は、針の穴を通すよりも困難な奇跡である。  二度続けば才気溢れる賢者となり、三度続けば時代を動かす覇者となる。それがこの宇宙の法則だった。


 だが、この老人――今回の生を「うつ病」と「鬼殺し」で終えた男の魂は、異常だった。  彼は過去七回、連続して人間として生を受け、そして死んだ。驚くべきことに、彼はその七度の人生の中で「七つの大罪」をすべて経験していた。しかし、それは世界を揺るがす大罪ではない。隣人の幸福を少しだけ妬み、空腹に負けて他人のパンをかじり、怠惰に身を任せて一日を潰す……。そんな、歴史の教科書にも載らないような「矮小で、どこにでもある罪」の積み重ね。


 その八度目の輪廻の列。  実体のない魂たちが淡く発光しながら並ぶ無意識の淵で、老人の魂は、何事もなかったかのように順番を待っていた。


 その光景を観測した創造主は、全宇宙の星々が凍りつくほどの衝撃を受ける。


 自らが怒りに任せ、日本列島を覆い尽くすほどの質量として異次元に圧縮・封印したはずの「破壊の化身」。  創造主の全霊を以てしても「封じ込める」のが精一杯だったあの巨大な災厄の波動が、いま、この「しょうもない前科」を抱えた老人の、ちっぽけな魂の内側にピタリと収まっているのだ。


 創造主の理解を超えていた。  数万年もの間、地球という惑星を重石にして封印していたはずの怪物が、なぜかこの「七度転生した男」という最小の檻に自ら志願して収まったかのような、奇妙な安定。


 噛み殺されたのではない。  老人の魂が、あの巨大な「口」を――異次元の災厄そのものを、内側へ引きずり込み、飲み込んだのだ。





次話からはしょうもないコメディーです。

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