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最初の一年

昔々、南の国にリーナという姫が、北の国にレイというみなしごがいました。


リーナは、領主の娘として何不自由なく育ちました。リーナは末っ子でした。


一方、物心つく前に親を亡くしたレイは、知り合いの家を転々としていました。レイは自分より下の子の世話や仕事を積極的にしました。少しでも居候として、力になりたかったのです。

皆、レイに感謝しました。しかし北の国が貧しくなるにつれ、皆の心の余裕がなくなりました。ある日、いつも通り仕事が終わり夕食までいようとすると咳払いをされました。レイはその日は夕食を遠慮しました。そうすると、行く先々で咳払いをされるようになりました。何かあった時に、関わりがあると面倒だと、皆はレイを除け者にしていました。

ある時、誰か奉公に来てほしいという、恰幅の良い男が現れました。不安はあったものの、レイは手を挙げ、男についていきました。レイはレックスと間違えて呼ばれ、そのまま覚えられてしまいました。

男は非道い仕事をしていました。籍のない田舎の人を、危ない仕事に引き合わせていたのです。特に子供は、言うことを聞かせやすかったのです。


リーナの父親は領主でしたので、隣国、つまり北の国と争う事もありました。北の国の捕虜も、多く捕まえていました。

ある日、捕虜達は集団脱走をしました。しかもそれだけに留まらず、リーナ以外の家族を討ったのです。リーナは誘拐され、北の国の牢屋へ入れられました。


レックスは、鉱山で働く予定がありましたが、運良くその予定は無くなりました。奉公先の男には、マルという息子がいました。マルはいつも機嫌が悪く、世話をしてくれた人を悪く言う始末です。養父からの評価を気にする奉公人達は、マルの世話をレックスに押し付け始めました。

養父からの評価は、レックスが一番良くありませんでした。「引き合わせの仕事が見つかったら、お前が一番だ」と言ったのです。


リーナは、牢屋へ入って数ヶ月で参ってしまいました。元々、贅沢な暮らししかしていなかったから、という理由だけではありません。見張りからのいじめです。南の国は北の国を脅かし、豊かになっていく一方で、北の国は貧乏になっていました。見張りはその鬱憤を、事もあろうか子供のリーナに当てつけたのです。


ある日、レックスはマルと一緒に歩いていました。マルは興味の向くまま突然飛び出し、危うく車に轢かれそうになりましたが、レックスは体を張って阻止しました。「周りをよく見て!」とレックスが伝えるとマルはしょんぼりしました。レックスは、しまったと思いました。また、養父からの評価が下がってしまうと思ったからです。


リーナは、見張りにご飯を横取りされ、悪口を浴びせられ、無視されました。その事実が発覚する度に、見張りは交代させられました。リーナは下手に出ると言うことを知りません。黙っているとエスカレートします。遂には、狂ったふりをする様になっていきました。


意外なことに、マルはレックスに懐くようになりました。マルはある時、「お父さんばっかりじゃなくて、僕も見てほしい」ということを伝えました。レックスはなるほど、と思い、友達になりました。

ある日、養父は「仕事だ。ここに行きなさい」とレックスに伝えました。マルが寝た時に、レックスに更に伝えました。「南の国の犯罪者を看病するらしい。身代金を取るために、健康でいて貰わなくてはならない。しかし、伝染病であるという噂もあるから、心していきなさい」

当日レックスが向かったのは、街から離れた一軒の小屋でした。小屋の中には牢屋があり、ハエに集られる子供が、柵の向こうで寝ていました。汚く、見窄らしかったのです。「自分だ」そう呟いたレックスは、涙が溢れました。


リーナは起きると、人の気配を感じました。新しい見張りだと思いました。この前の見張りはリーナを散々苛めた挙句、ついにリーナに噛みつかれると辞表を出して逃げていきました。また虐められないように、狂ったふりをして、見張りのレックスを呼びつけました。「お湯!お湯が欲しい!早くしろ!」暫くすると、自分の背丈よりやや小さい位の子供が現れたので、リーナは面食らいました。「は、早くしろ!」「準備するから騒ぐな!」そう言った声は正に同年代の子供でした。リーナとレックスの出会いでした。


レックスのお陰で、リーナは健康になりました。衣食住に不安がなくなったのです。しかし、レックスは無口で、何を考えているかわかりません。一番の窮状を脱したリーナは、溜め込んでいたものがふっと湧き出しました。ある時、「私はどうせ、除け者だと、お前も思っているんだろう!こんな仕事辞めてやりたいと、早くいなくなれと思っているんだ!」と喚きました。レックスは、とても悲しくなりました。何故なら、レックスはリーナに、自分自身の事を大切にして欲しかったからです。レックスは自分自身を大切に出来ないかわりに、リーナを大切に扱っているつもりでした。


ある日、レックスは街での諸用を済まし、小屋に戻ると昔の看守達が急いだ様子で身支度をしていました。レックスを見るなり「なんだ」と言ったような顔をし、「反逆者を教育してやった。お前は舐められていたようだから、徹底的に教育してやった」とのこと。リーナはひどく疲弊していました。何があったか聞いても、明後日の方向をぼんやりと見つめていました。

その夜、「お前が見張るのをサボったせいで、昔の見張りに虐められた」ということを伝えられました。レックスは謝りました。人の気持ちになれと理不尽に当たられました。

翌日から、リーナは熱にうなされました。辛うじてよく眠れたと目覚めた時、レックスがそこら辺の材の端切れで、風を扇いでいました。感染るからと断りを入れても、心配そうな顔をしながら、今更だからと耳を貸しません。リーナは今更だからという言葉を不思議に思いました。そして、久しぶりに素直に、次起きた時、悪化していたらどうしようと相談しました。すると、危険な様子になったら起こすと、伝えられました。安心したリーナは、少し食べ、深い眠りに落ちました。


リーナは夕方に起きました。体調もかなり良く、安心しました。その時、隙間風が吹いたのです。「扉を閉めて!」そう伝えても返事はありません。よく観察すると、牢屋の柵が開いています。リーナはチャンスだと思いました。外に出られるかもしれない、、はやる気持ちを抑えて、音がしない様に牢屋の外に出ました。小屋の扉に手をかけた時、物音がしました。振り返るとレックスの足が、間仕切りの向こうに見えました。恐る恐るリーナが覗くと、レックスが倒れていました。リーナと同じ症状が出ていたのです。だから言ったのに!リーナはレックスを看病しました。虚ろに、「大丈夫か」と言いだした時には、リーナは、どの口が言ってるんだと思いました。


リーナはレックスに、狂わずに接する様になりました。レックスを利用して、今自分のいる状況を良くしたいと思ったリーナは、駄目元で、逃げないから外に出たいと伝えました。レックスは何度も伺いを立てました。すると、なんとリーナは街に出ることを許されたのです。


リーナは条件付きの外出許可でした。見張りから離れないこと、街から出ないこと、指示に従うこと。素直になったリーナは、どんどん信用を獲得し、普通の生活を送り始めました。


暫くすると、外出許可が出たタイミングで任を解かれたレックスはどこに居るのかと気になり、見張りに聞きました。見張りは、レックスは孤児であり養父は引き合わせをしていること、危険で割りの良い仕事としてやっていた訳だから、今も恐らくそういう状況で、どうなっているか分からないと言いました。

リーナは呆然としました。その様なことは聞いていなかったからです。見張りにしつこく聞くと、見張りの仕事ではないと突き返されました。リーナは考えた挙句、見張りが興味を示した南の国の音楽を教える代わりに、レックスの居場所を突き止めてもらうことができました。


久しぶりに会ったレックスは、びっくりした様子でした。リーナが気に留めておいてくれた事に感謝しましたが、レックスは自分に会う理由が無いというのです。レックスは、除け者の自分自身は利用される事が他人への関わり方だと慣れていたため、それを自分の役目だと勘違いしていました。リーナは居た堪れない気持ちで、ため息をつきました。リーナは少し躊躇った後、良く世話をしてくれたのは何故か、自分自身の職を手放して自由にしてくれたのは何故か、自分自身が恵まれていないのに、人に施せるのは何故かと問い質しました。レックスは、リーナが可哀想だったということ、そして自己投影もしていたと告白しました。リーナはレックスに、自分自身ももっと大切にしろ、自分を大切にできるのは自分だけだからと言うと、レックスははいと答えました。


リーナは、レックスを気に掛け、よく会いにいきました。興味を持つ、笑う、またぼけに対して突っ込みが必要なタイミングで、リーナは目力をレックスに向けるのです。レックスの表情は、とても彩り多くなりました。


リーナが北の国に来て一年経とうかという時に、身代金が払われなくなりました。それを理由に、リーナは処刑されることになってしまいました。


レックスはリーナを街の外へ連れ出そうとしました。子供だけの行動なんて、高が知れているとリーナは言いました。しかし、なんとレックスは馬を連れてきました。リーナは、逃げられるかもしれないと心が揺らぎました。レックスは半ば強引にリーナを引き連れ、夜中に街を出ようとしました。しかしながら、気付かれ、追手に馬から落とされてしまうのです。

藪に隠れていると、「リーナを渡せ。お前まで、同じ刑になりたいか」そう伝えられました。混乱するリーナに、レックスは出来ることはやろうと伝えました。レックスは「リーナは南の国の情報を持っている。利用価値がある。協力してくれないか」と大声で伝えました。「お前の言い分だけで、上からの命令に背く訳にはいかない。」

レックスが次の言い訳を考えている時、リーナは最初会った時のように、狂いながら、レックスを蹴りました。

レックスは転び、リーナの方を見るとリーナはこう言いました。

「言わんこっちゃない!もっと早く出ればって言ったのに!お前のせいだ!」

レックスは、流石にその言い草はないだろうと、そもそもそんな事言ってないだろうと、呆気に取られました。何か言おうと口を開いたら、平手が飛んできたので何も言えません。

「お前は私の言う事だけ聞いていれば良かったんだ!馬鹿!阿呆!」

リーナが連れ戻される直前、最後まで一緒に居てくれてありがとうと言いました。レックスはリーナの行動の意味がわかりませんでした。

この後、レックスは自分の罪を無くそうとしてくれているのかもしれないと、気付いたのです。


リーナの刑執行は数時間遅くなり、その代わりに街中を歩かされてしまいました。その後、街外れで刑が執行されたと周知されました。

レックスは、養父に暇を頂きました。夜中にリーナと歩き回った場所を巡りました。マルも一緒です。街外れの刑場に来た時、レックスは崩れ落ちました。


「真に受けんな!冗談だよ、冗談」

「言いたい事あるなら言え?悪口は本人の前で言うもんだよ!」

「言い訳して、いいわけ?」

「この飲み物好きだったでしょ?私最近お小遣い貰えるんだけど、お願いしてくれたら、奢ってあげようかなー」

「あごめん、会って早々暗いから猫騙ししちゃったよ」

「レックスは真面目だなあ、、そういうことは、言わないでよ」

「あ、ごめん手が勝手に、、悪いのは私の手だって!」

「レックスはわざと間違えてくれるからなあ」

「食べられないパンって何でしょう?、、フライパン?カビたパンでしたー!」

「食べられないパンって何でしょう?、、カビたパン?フライパンでしたー!、、なんつった今?なめてる?」

「自分としてはとりあえずレックスをいじれれば良いから、、あっ、いた!いつの間に!?、、え、ずっといる?そうだよそれそれー」

「貧乏ゆすり?、、あ、ごめん、、レックスは謝んないでよ!何でも言いあえるくらい友達になれたって事じゃん。もっと言ってもいいよ」

「こういうのやってみたかったんだよねー、うち制約多かったからさ、、レックスが一緒で良かったかって?うん、なんで」

「わーレックスがいじめるー!、、どの口が言ってるって?私のはいじりだよ、一緒にしないでもらえる?」


いつの間にか寝てしまった様で、夢を見ていました。起きた時にはマルが血相を変えて「南の国が攻めてきた」と伝えました。火矢が放たれている様で、燃えている場所もあります。

街の中心部の方から大変な騒ぎになっているのが伺えました。火矢が放たれてくる方向は、刑場が一番近く、非常に危険でした。しかし、レックスは事もあろうか「見捨てられた訳じゃなかったんだ!」と大声で叫んでしまいました。

早馬らしい者が駆けつけると、レックスは我に帰り逃げようとしました。マルはもうダメだと思いました。

「今叫んだのはお前か」と早馬の男は問い、そこで待つ様に言われました。そして別の馬に乗る様命じられました。

レックスとマルは、隣の街の近くに降ろされ、逃げる様に言われました。その時に「前領主様のお子様は生きている」とだけ伝えられました。

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