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第5話:迷いの森と、閉ざされた門

ティレナ北方の森は、《迷いの森》と呼ばれていた。


 一度足を踏み入れれば、方角を失い、出口を見つけられなくなる――そう噂される危険地帯。

 地図にも“未踏”の文字が残る、古代の禁域だ。


 「本当にここに“試練の門”があるのか……?」


 シュワルツが呟くと、前を歩いていたエルが、振り返らずに答えた。


 「あるよ。ただし、歩いて見つかるものじゃない。精霊の“導き”が必要になる」


 「導き……?」


 「うん。だから精霊の紋章を持つあなたが鍵。私だけじゃ、門は見つけられなかったから」


 エルはそう言いながら、杖の先を小さく振る。

 青の光――《空》の精霊の気配が、霧のようにあたりを包んだ。


 リシェルが鼻を鳴らす。


 「こういう森、嫌い。風が読めない。獣も気配を隠してる……」


 森の奥深くは常に湿気を含んでおり、微かな獣の足音すらかき消される。

 だが、その沈黙がかえって恐ろしい。


 その時、シュワルツの腰に携えた剣が、かすかに“震えた”。


 (……まただ。この感覚)


 古剣の鍔が、光も熱もないのに脈動しているように感じる。


 その瞬間、森の空気が変わった。

 エルが足を止める。


 「……出るよ。精霊の気配じゃない。あれは……守護者」


 低く唸るような音。

 立ち枯れの木々の間から現れたのは、鋼のように固い外殻を持つ獣――


 《黒鉄のクマ》、迷いの森に出没する中級魔獣だ。


 「こいつ、今までの魔物と違う!」


 リシェルがすばやく双剣を抜く。

 だが黒鉄のクマは、突如として右前脚を振りかざし――


 「ぐっ……! くっそ、硬い!」


 リシェルの斬撃を受けても傷ひとつない。


 「エル、援護を――!」


 「了解。〈空鳴の矢〉!」


 エルの杖が青く光り、宙に魔法陣が展開された。

 空気が裂けるような音と共に、見えない矢が魔獣を貫く。


 「効いてる……けど、足止めにしかならない!」


 そのとき――再び、シュワルツの剣が“震えた”。


 彼の手の中で、剣が淡く赤く光り出す。


 「これって……まさか!」


 《炎纏剣えんてんけん》が、再び目覚めようとしている。

 赤い光が剣の刃を包み、まるで意思を持ったように燃え上がる。


 「うおおおおおっ!!」


 シュワルツは剣を振るい、黒鉄のクマの脇腹を斬りつけた。


 ズバァッ――!


 炎の斬撃が、堅牢な外殻を焼き裂き、クマの体勢が大きく崩れた。


 「今だ、リシェル!」


 「任せて!」


 風の加護を纏った双剣が、炎の傷跡をなぞるように切り裂く。

 ついに、黒鉄のクマが呻き声を上げ、地面に崩れ落ちた。


 「……やった、か」


 全員が肩で息をする。

 その直後――


 森の奥に、霧が晴れたような一角が現れた。


 「……見て」


 エルが指差す先、そこには古びた“門”があった。


 石でできた二枚扉。表面には五つの紋章の意匠――

 赤(火)、白(水)、黄(地)、黒(風)、青(空)が描かれている。


 「これが……“試練の門”……!」


 門の中央には、くぼみのような窪みがあり、まるで“紋章”をはめ込む場所のように見えた。


 「たぶん、五つすべて揃えたときに、この門が完全に開く……」


 その時、シュワルツの手の甲に刻まれた《火》の紋章が反応し、わずかに輝いた。


 同時に、門の赤い紋章も、一瞬だけ光を放った。


 「一つは、解放されたってことか……!」


 「残り四つ。水、風、地、そして……空」


 エルが真剣な眼差しで言った。


 「あなたの中に眠る“剣”……それが導く先に、必ず答えがある」


 シュワルツは頷いた。

 旅はまだ始まったばかり。

 だが確かに、彼らは第一の扉を“開いた”。


 そして、ここからが本当の試練――五大精霊との邂逅の始まりだった。



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