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第2話:剣に宿るもの、そして旅の始まり

神殿跡を離れたシュワルツは、剣を背に森を下った。

 雨はいつの間にか止み、木々の葉から落ちる水滴が、時折静寂を破るように音を立てる。


 剣は今も黒銀の光を宿し、柄に浮かぶ《精魂の紋章》はうっすらと輝いていた。

 シュワルツはそれを何度も見つめた。


 「……この剣、本当にただの武器じゃないんだな」


 柄を握るたびに、心がざわつく。

 まるで、何かを思い出しそうで、けれどまだ届かない。


 神殿で垣間見た“青年”の記憶。

 そして、彼を包むように広がっていた五つの精霊の姿。

 あれは、自分自身の記憶なのか、それとも剣に刻まれた誰かの想いなのか――。


 そんな思考を振り払うように、彼は背中の剣を握ったまま、森を進んだ。


 やがて、森の向こうに灯りが見えた。

 斜面を下ると、木造の柵に囲まれた小さな町が現れた。

 その名は《ティレナ》。


 「人の声……! やっと……」


 長い森の旅を終えたシュワルツは、町の門をくぐる。

 泥だらけのマントに、顔も手も煤けているが、誰も咎める者はいなかった。


 道端の屋台ではパンやスープの香りが漂い、子供たちが駆け回っている。

 だが、その平穏の中にも、どこか“張り詰めた空気”があった。


 「旅の人かい?」


 声をかけてきたのは、町の雑貨屋の老人だった。

 彼はシュワルツの背の剣に視線をやり、目を細めた。


 「……その剣、珍しいな。どこで手に入れた?」


 「森の奥の神殿跡で……拾ったんです」


 「神殿? まさか、《禁域の泉》の話を信じて?」


 シュワルツはうなずいた。

 老人は驚いたように眉を上げたが、すぐにふっと苦笑した。


 「無謀なやつもいるもんだ……だが、その目、まっすぐだな」


 老人は、町の北側にある“冒険者ギルド”を紹介してくれた。

 「力を借りたいなら、まずあそこに行くといい」と。


 ◇


 木造の扉を押し開けると、そこは喧騒と熱気に包まれた空間だった。

 壁には依頼書が貼られ、カウンターでは武装した男たちが笑い声をあげている。


 その中央で、ひときわ目立つ金髪の少女がいた。


 「……おい、新入り? どこ見てんだよ?」


 凛とした声にシュワルツは振り返る。

 目が合った少女は、白いマントを羽織り、腰には二本の短剣。

 冷たい瞳の奥に、燃えるような情熱を宿していた。


 「ごめん、なんでも……」


 「いいって。あたしはリシェル。このギルドじゃ一応、先輩ってやつよ」


 そう言って手を差し出したリシェルに、シュワルツはぎこちなく握手を返す。


 「シュワルツって言います」


 「いい名前じゃん。で、その剣……精魂の紋章が見えるんだけど?」


 「えっ……見えるの?」


 「ふふっ。そりゃあね。あたしも“風”に認められてるから」


 リシェルは胸元の黒い小さな紋章を見せた。《風》の象徴――黒い渦を描く精霊の刻印。


 「……やっぱり、いるんだ。試練を越えた人が」


 「試練っていうか……選ばれるって感じかな。あんたも、選ばれたんでしょ?」


 リシェルの言葉に、シュワルツは少しだけ救われた気がした。


 自分は間違っていない。

 この旅には、確かに“意味”がある。


 「泉を目指してるんだ。死者に会えるっていう……」


 「……なるほど」


 リシェルは一瞬、表情を曇らせたが、すぐに微笑みに変えた。


 「ならさ、あたしと一緒に行動しなよ。ここのギルド、仲間がいなきゃ何も始まんないから」


 「えっ……いいの?」


 「もちろん。新入りの面倒を見るのも、先輩の仕事だからね」


 そう言って、リシェルはシュワルツの肩を軽く叩いた。


 その時、ギルドの奥で鐘の音が鳴り響いた。


 「緊急依頼だ! 西の道に盗賊団が出た!」


 ギルド中が一気に色めき立つ。


 「行ってみる? あんたの剣の“目覚め”には、ちょうどいいかもよ?」


 リシェルのいたずらっぽい笑みに、シュワルツはこくりと頷いた。


 運命の剣と、《精魂の紋章》をその手に――

 少年の旅は、ここから本当の意味で始まっていく。



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