第1話:母の声が呼ぶ方へ
――母さん、会いたい。
その想いだけが、彼を動かしていた。
少年・シュワルツは、森の奥を目指して歩いていた。空は灰色に覆われ、しとしとと降る雨が肩を濡らしている。黒いマントの下、握られた拳は白くなるほどに力がこもっていた。
「……ごめん、母さん。俺、あのとき……言えなかった」
母が亡くなったのは、たった三か月前のことだった。明るく元気だった母が、ある日突然倒れ、帰らぬ人となった。病名も原因も分からず、ただ理不尽に命が奪われた。
「ありがとう」「大好きだよ」――言いたかった言葉は喉まで出ていたのに、怖くて言えなかった。伝えられなかった想いが、今も胸の奥で疼いている。
彼が向かっているのは、幻の泉。
“死者に会える泉がある”
そんな言い伝えがある森に、シュワルツは三日も前から分け入っていた。古びた文献に断片的に記された情報と、旅人の噂だけが頼りだ。
地図にも載っていない森の最奥――そこに泉はあるという。
「……もう、戻れない」
濡れた靴の中はすでに冷たく、体力も限界に近い。だが、それでもシュワルツは進んだ。何度もくじけそうになりながらも、母に会いたいという一心が彼の背を押していた。
そんなとき、木々の隙間に、苔むした石の柱が見えた。
「……遺跡?」
それは崩れかけた古代の神殿のようだった。石段を登り、朽ちたアーチをくぐると、中央に一つの石碑が立っていた。表面にはびっしりと文字が刻まれている。
『幻の泉、かの者に現る』
「……!」
まさか、伝説が本当だったとは。
シュワルツは指先で文字をなぞる。雨粒が石碑を濡らし、文字の凹みに溜まって光る。
『雨の日、五つの称号を持つ者、死者に託を言える者』
五つの称号? 条件の一つである「雨の日」は偶然満たしている。が、その先の文を読んで、彼の手が止まった。
『地・水・火・風・空を司る五つの精霊に認められし者、その魂に紋章を刻まれし時、泉は姿を現す』
「精霊……試練……?」
そのとき、石碑の奥から風が吹いた。
濡れた空気の中に、なぜか暖かい気配が混じる。耳元で、聞き覚えのある声がささやいた。
――シュワルツ。
「……母さん!?」
思わず叫ぶ。
だが、返事はない。
代わりに、石碑の奥の壁に五つの紋章が浮かび上がった。
それは――
黄色の光:地の紋章
白色の光:水の紋章
赤色の光:火の紋章
黒色の光:風の紋章
青色の光:空の紋章
「これが……精霊の試練?」
そのときだった。石碑の裏側、倒れかけた石壁の隙間から、鈍い輝きが漏れていた。
「……あれは?」
シュワルツが近づくと、そこには半ば埋もれた剣があった。
錆び付き、折れかけた鞘。だが、柄の部分にだけ、奇妙な光が宿っている。
彼が手を伸ばすと――
キィィン……という高い音が、頭の中に響いた。
そして、剣の柄に触れた瞬間、視界が白く染まる。
次の瞬間、彼の脳裏に映像が流れ込んできた。
――闇の中、剣を振るう青年。
――その背には、翼を広げた精霊たち。
――そして、少年を抱く女性の姿。
「……っ!」
現実に戻ると、彼の手にはその剣がしっかりと握られていた。先ほどの傷や錆は消え、黒銀に輝く刃が現れている。
剣の柄には、うっすらと五つの紋章が刻まれていた。
「これは……“精魂の紋章”?」
それが何なのか、詳しくは分からない。だが、この剣がただの武器ではないことは、直感で理解できた。
きっと、この剣は――母と、自分の運命に深く関わる何かだ。
「……待っててくれ、母さん。俺は、ここから始める」
少年は剣を背負い、立ち上がる。
伝説は本当だった。
そして、これから始まるのは――五つの精霊との試練を超える旅。
その果てに、亡き母への最後の言葉を届ける日が来ると信じて。
※この物語はAI(ChatGPT)の草案を元に作者が加筆修正しています。詳細はあらすじ欄をご覧ください。