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第17話:焔の記憶と剣の真実

夜。


 浮遊山脈を離れた一行は、山裾の小さな洞窟で火を囲んでいた。


 外では風が唸りを上げ、空の精霊との邂逅がまるで夢だったかのような静けさが辺りを包む。


 


 「これで……五つ全部、揃ったんだね」


 ミナが火を見つめながら呟いた。


 その言葉に、シュワルツは黙って頷いた。


 


 腕に浮かぶ五色の《精魂の紋章》――黄色(地)、白(水)、赤(火)、黒(風)、そして青(空)。


 それぞれの試練が、心と体に深く刻まれている。


 


 だが、彼の視線はそれらよりも、膝の上に置かれた一本の剣に注がれていた。


 “焔剣《エル=カリバーラ》”


 炎の試練を超えたとき、突如として姿を現した不思議な剣。


 紅玉のように輝く刀身、持ち手には古いルーンのような文字。


 その剣は、シュワルツが触れた瞬間から、何かを“思い出させよう”としていた。


 


 「……やっぱり、何かあるよね。あの剣」


 ティオが慎重に言葉を選ぶ。


 


 「感じるんだ。“懐かしい”って。……でも、理由が分からない」


 シュワルツはその言葉を口にしながら、刃にそっと手を当てた。


 


 そのときだった。


 


 焔剣が淡く光を帯び、炎の揺らめきの中に、光の粒が浮かび始める。


 空気が震え、意識が引き寄せられるように、シュワルツの視界は炎の中へと沈んでいった。


 


 ――それは、過去の記憶。


 


 石造りの古い神殿。


 そこには、若き剣士と、女性の精霊が向かい合っていた。


 


 「あなたにこの剣を預けます。いつか、運命を変える者が現れる時のために」


 


 女性精霊の声は、どこかミナに似ていた。


 若き剣士は静かに頷く。


 その剣士の横顔――それは、若かりし頃のシュワルツの父だった。


 


 「えっ……」


 現実に戻ったシュワルツは、焔剣を見つめたまま、呆然と立ち尽くしていた。


 


 「……父さん……?」


 


 剣は、父がかつて手にしたものだった。


 精霊との契約を果たし、この剣を受け継いだ男。


 それが、今の自分の父である――その事実が、確かに映像として刻まれていた。


 


 「シュワルツ、どうしたの?」


 ミナの声で我に返る。


 


 「この剣……父さんのものだった。精霊と契約してたんだ。あの人も……“選ばれし者”だった」


 


 「でも、どうして……それをお前が?」


 ティオが問う。


 


 「たぶん……何かを“託された”んだ。剣と一緒に。精霊の願いを……」


 


 そして、焔剣の柄が再び光る。


 まるで応えるように、剣のルーンが蒼く輝いた。


 次の瞬間――


 剣から吹き上がる炎が、シュワルツの腕の《精魂の紋章》に触れた。


 


 「熱っ……!」


 


 だが、痛みは一瞬だった。


 炎が収まると、シュワルツの掌には“新たな印”が刻まれていた。


 


 《緋焔の誓印ひえんのせいいん


 それは、精霊との完全な契約の証。


 そして――


 


 「……スキルが……見える」


 シュワルツの頭の中に、文字が浮かび上がった。


 


 《緋焔剣術【烈閃】:一時的に剣に精霊の焔を纏い、敵を焼き払う精霊技》


 


 それは、精霊剣と紋章によって初めて解放される力――《精魂技せいこんぎ》。


 


 「これが……俺の、力……」


 


 シュワルツは拳を握る。


 母と再会するために、乗り越えるべき試練はまだ続く。


 けれど、もう彼は迷わない。


 この剣が、父からの想いを宿しているのなら――


 


 「俺は、この旅を絶対に無駄にしない」


 


 焔剣が再び、静かに輝く。


 それは、過去と現在、そして未来を繋ぐ“意志”の光だった。



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