表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/23

第14話:精霊の揺らぎと沈黙の扉

夜が明け、シュワルツたちは山道を越えて北東の秘境「ラザリア渓谷」へと足を踏み入れた。


 ここは地図にもほとんど記されていない秘境であり、伝承によれば《死者の泉》へと続く最後の試練が眠る場所とされている。


 だがその道は、険しかった。


 


 「……風の精霊の気配が、薄れてる……?」


 リシェルが眉をひそめた。黒色の紋章が刻まれた彼女の腕輪が、かすかに震えている。


 ティオも剣を握りしめ、辺りを見回した。


 「妙だな。風も、土も、水も……それぞれの精霊の気配が、まるで揺らいでる。まるで、迷ってるみたいな……」


 


 その言葉に、シュワルツも思わず剣を見下ろした。


 彼の剣に宿る五つの精魂の紋章。


 黄色、白、赤、黒、青――それぞれの属性が、いつもよりも淡く光を落としていた。


 


 「精霊たちが……混乱してる?」


 


 そのとき、空が揺れた。


 雷鳴ではない。だが、空そのものが震えるような重たい音。


 そして空の青が、一瞬だけ濁ったように見えた。


 


 「おかしい……精霊たちに何が……?」


 ミナが震える声で言った。


 


 直後、渓谷の奥にそびえる崖の斜面が、わずかに開いた。


 ごうっ――と地を割るような音と共に、そこには古びた《石の扉》が現れる。


 


 「……あれが、“最後の試練”の扉……?」


 リシェルが一歩前に出た。


 


 扉には、五つの紋章がそれぞれの色で刻まれていた。


 黄色(地)

 白(水)

 赤(火)

 黒(風)

 青(空)


 その中央に、淡く光る“未完成の紋章”が存在していた。


 


 「これは……六つ目……?」


 


 だがそれは“未完成”だった。


 どこか欠けている。不確かな、空虚な力。


 シュワルツはその模様に、剣に宿っていた《紅蓮の幻影》を思い出す。


 


 「……この扉、“もうひとつの試練”がある」


 


 その言葉に、誰もが息を呑む。


 


 すると、扉が静かに語りかけるように、淡い音を鳴らした。


 精霊の声――ではない。


 もっと深く、もっと古い、魂の底から呼びかけてくるような音。


 


 『精魂、揺らぎの果てに、真実の選択を問う』


 『選ばれし者よ――魂の源を見極めよ』


 


 その瞬間、扉の紋章がゆっくりと淡く滲み、そして光を失った。


 


 「閉ざされた……?」


 ティオが駆け寄るが、扉はぴたりと動かない。


 その代わり、足元に新たな紋様が浮かび上がった。


 五色の円。まるで“試練を超えた印”が、再び問われているかのような輝き。


 


 「まだ……足りないんだ」


 シュワルツが、静かに言った。


 


 「俺たちは試練を乗り越えたつもりだった。でも、精霊たちはまだ――俺たちを見てる。選んだ理由を、心の底から問おうとしてる」


 


 リシェルが呟く。


 「それが、“本当の意味での最終試練”……」


 


 沈黙が降りる。


 それでも、誰も諦めようとはしなかった。


 


 「……行こう。扉が閉ざされても、ここに来れたのは無駄じゃない」


 ティオが前を見据える。


 


 「この先にあるものが何であれ、俺たちは“願い”を叶えるために来た。だったら、立ち止まる理由なんてない」


 


 シュワルツが剣を腰に収め、ひとつ頷く。


 


 「扉が開くそのときまで、俺たちは進み続ける。その想いが、きっと精霊に届くから」


 


 新たな道は、まだ見えない。


 だが確かに、彼らは歩き始めていた。


 


 ――魂の選択へと至る、本当の旅が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ