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27.初めての夜、ふたりの世界


 ロゼリア老公爵夫人からの手紙は、ジュリアンとリシェルにとって、改めて「世継ぎ」という現実を意識させるきっかけとなった。だが、それは焦りではなく、互いへの深い愛情と、二人の関係が新たな段階へと進むことへの、甘い期待を募らせるものだった。ジュリアンは、リシェルとの間に育まれた愛が、今、より具体的な形を求める時が来たのだと感じていた。リシェルもまた、ジュリアンとの未来を思うと、胸が高鳴るのを感じていた。




 その日の午後、公爵邸の執務室で、ジュリアンは完全に手につかない状態だった。書類の山は彼の視界に入ってはいるものの、彼の脳裏を占めているのは、ロゼリア夫人の手紙の文面と、それによって赤くなったリシェルの愛らしい顔だった。


(『可愛い世継ぎ』……まさか、このロゼリア夫人が、ここまで直接的に……!)


 ジュリアンは、自らの頬が熱くなるのを感じた。普段、完璧な無表情を保つ彼が、今やその顔は微かに紅潮し、耳の先まで赤く染まっていた。彼は、椅子に深く座り込み、目を閉じた。彼の頭の中では、今夜、リシェルと過ごすであろう時間が、まるで幻のように駆け巡り始める。どんな風に彼女の部屋を訪れようか。どんな言葉をかけようか。そして、彼女の柔らかな肌に触れたら、どんな感触がするだろうか。彼の心臓は、これまで経験したことのないほど、激しく高鳴っていた。彼は、自分のこの動揺が、リシェルに悟られていないか、不安になった。だが、彼の理性の箍は、完全に外れかかっていた。彼の「可愛いものが大好き」という本能が、今、最高潮に達し、リシェルを求める声が、頭の中で響き渡っていた。




 一方、自室で読書をしていたリシェルもまた、ロゼリア夫人の手紙の内容を思い出し、顔を赤らめていた。


(世継ぎ……それは、つまり……ジュリアン様と、夜を……!)


 リシェルの心臓は、ドクドクと激しく脈打っていた。彼女の頭の中では、ジュリアンとの夜の時間が、まるで物語の一場面のように展開されていく。彼の大きな手が、自分の頬に触れ、優しい瞳で見つめられる。そして、彼の唇が、自分の唇にそっと重なる……。想像するだけで、リシェルの体は熱くなり、指先まで甘い痺れが走った。彼女は、読んでいた本を思わず閉じて、胸元に抱きしめた。普段の「男前」な思考はどこへやら、彼女の脳内は、ジュリアンとの甘い夜の想像でいっぱいになっていた。


(だ、だけど、私に、そんなことができるのかしら……? 公爵夫人としての務め……いえ、ジュリアン様との愛を深めるためなのだから……でも……)


 リシェルは、ベッドに腰掛けていたが、落ち着かず、何度も立ち上がったり座ったりを繰り返した。窓の外では、太陽がゆっくりと傾き始め、空が茜色に染まっていく。夜が近づくにつれて、リシェルの胸の高鳴りは増していった。彼女は、部屋のキャンドルの炎を消し、月明かりだけが差し込む薄暗い部屋で、ジュリアンが訪れるのを待った。




 夜も更け、公爵邸全体が静寂に包まれた頃、コンコン、と控えめなノックの音がした。リシェルは、思わず息をのんだ。そのノックの音だけで、彼女の体は熱くなった。


「リシェル、入ってもいいか?」


 ジュリアンの声は、いつもと変わらぬ穏やかさだったが、その中に、わずかな緊張と、そして抑えきれない期待が感じられた。リシェルは、震える声で答えた。


「は、はい……どうぞ」


 ジュリアンが部屋に入ると、温かい空気がふわりと満ちた。彼の存在そのものが、部屋の雰囲気を一変させた。彼は、ゆっくりとリシェルのベッドサイドへと歩み寄った。月明かりが、窓から差し込み、二人の間を優しく照らす。その光は、まるで二人の愛を祝福しているかのようだった。

 ジュリアンは、ベッドの縁に腰掛け、リシェルの手を取った。彼の大きな手が、彼女の小さな手を優しく包み込む。その触れ合いは、リシェルの体中に甘い痺れを走らせた。


「リシェル……」


 ジュリアンの声は、低く、しかし感情に満ちていた。彼の瞳は、リシェルの瞳を真っ直ぐに見つめ、その深い愛を伝えていた。リシェルは、顔を赤くしながら、彼の瞳を見つめた。そこには、愛おしさ、優しさ、そして彼女への深い欲望が混じり合っていた。その視線は、言葉以上に多くのことを語っていた。


「わたくし……」


 リシェルが何かを言おうとしたが、ジュリアンは彼女の言葉を遮るように、そっと親指で彼女の手の甲を撫でた。その優しい触れ合いが、リシェルの心をさらに解き放った。


「君を、愛している。君と、共に未来を築きたい。世継ぎを、君と共に……」


 ジュリアンの言葉に、リシェルの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それは、喜びと、彼の深い愛への感動の涙だった。彼の口から直接「世継ぎ」という言葉が発せられたことで、彼女の心は、期待と幸福感で満たされた。彼女は、首を縦に振った。その頷きは、彼の全てを受け入れるという、彼女の決意を示していた。

 ジュリアンは、リシェルの涙をそっと拭い、彼女の頬に手を添えた。彼の指先が、リシェルの柔らかな肌に触れるたびに、甘い熱が広がる。そして、ゆっくりと顔を近づけ、その唇に優しいキスを落とした。それは、先日よりも長く、そして深い口付けだった。ジュリアンの唇が、リシェルの唇を優しく辿り、甘く吸い上げる。互いの吐息が混じり合い、部屋の中に、甘く、そして情熱的な時間が流れた。そのキスは、二人の間の全ての隔たりを取り払い、心を一つにするかのようなものだった。

 リシェルは、その温かさに身を委ね、そっと目を閉じた。彼の唇の動きに合わせて、彼女の心も溶けていく。彼の腕の中で、リシェルは、これ以上ないほどの幸福を感じていた。

 口付けを終え、ジュリアンが顔を離すと、リシェルは瞳を潤ませながら、彼を見つめた。彼女の瞳は、愛おしさと、そして彼への期待に満ちていた。ジュリアンは、そんな彼女の瞳に、愛おしさと、そして抑えきれない欲望を宿らせていた。彼の視線は、リシェルの全てを包み込むかのようだった。


「リシェル……今夜、君と、共に過ごしたい。君を、私の全てで満たしたい」


 ジュリアンの言葉は、低く、しかし確固たる決意と、深い愛を含んでいた。リシェルは顔を真っ赤にしながら、しかししっかりと頷いた。彼女の頷きは、彼の愛を受け入れるという、彼女の心からの願いだった。


 その夜、二人は初めて、夫婦として一つの寝室で夜を過ごした。窓から差し込む月明かりが、二人の姿を優しく包み込む。温かい肌の触れ合い、甘い囁き、そして互いを求める情熱。ジュリアンの優しい手がリシェルの柔らかな肌を辿り、その熱が全身に広がっていく。リシェルは、ジュリアンの腕の中で、彼の一挙手一投足に身を委ね、最高の幸福を味わっていた。彼の唇が、リシェルの首筋に優しく触れ、甘い吐息が彼女の肌をくすぐる。ジュリアンの「可愛いものが大好き」という本性は、リシェルへの愛として、惜しみなく、そして深く表現されていた。彼の愛情は、リシェルの心と体を満たし、彼女はジュリアンの全てを受け入れていた。二人の吐息が混じり合い、部屋の中に、甘く、そして情熱的な時間が流れた。


 完璧な公爵と、子リス系令嬢の愛は、今、新たな、そして最も甘い段階へと進んだのだった。二人の世界は、今、より一層深く、そして美しく彩られていた。

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