想いを届ける書きかけの紙飛行機
男子高校生が勉強の息抜きに公園のベンチにもたれ空を見上げる。夕暮れ時で人けはない。
少年がやって来た。向かいのベンチを台にして何かしてる。そして紙飛行機を飛ばし始めた。彼の幼馴染みの弟だ。しばし様子を見てるが、上手く飛ばせてない。
「下手くそ。全然飛ばねぇじゃんか」
少年が振り向く。むすっとした顔だ。すぐに表情を豹変させ近づいてくる。
「うるせぇ、翔。風が吹かねえんだよっ」
「吹いてたぞ。達央、年上には敬語な。それと後、さん付けな」
「なんでだよっ! 翔は翔だろっ」
「俺の弟も呼び捨てか?」
「空斗さんは空斗さんだろ」
「何で俺は呼び捨てなんだ」
「お前は俺の先輩じゃない」
「はいはい、もういいや。貸してみろ」
彼は少年から紙飛行機を取り上げる。すぐに少年は取り返そうするが、翔が右手を上げた。身長差があるので届かない。
「返せっ」
「遠くまで飛ぶヤツ作ってやるよ」
「俺様の最強の紙飛行機を勝手に魔改造すんじゃねぇよっ」
翔は吹き出しそうになるが我慢する。なぜなら、少年が今にも泣き出しそうだからだ。
「分かった、ほらっ」
彼が返すと少年は表情を一変させ凛々しくなる。
「決闘で勝負だ」
「いきなり何だそれ?」
「英語、苦手か?」
「そこじゃねえよ 厨二かよ」
「小6だぞ」
「分ぁった。で内容は?」
「どっちが遠くまで飛ばせるかだ」
「紙ねぇぞ」
「待ってろ」
少年はベンチへ行き、すぐに戻ってきた。作りかけの紙飛行機を差し出す。
「んっ? これ便箋じゃね」
彼は折り目順に広げる。文字が見える。書きかけの内容からするにラブレターだ。相手の名前はない。
「おい! これ誰んだ」
「いきなり何だ。姉ちゃんの部屋の床で拾ったんだ。エコだろ」
「部屋に戻してこい。落ちただけだ」
「なんでだ」
「早く行け!」
彼は少年に凄む。
「わっ、分かったよ」
「またな」
「戦わず負けを認めるとはな。この雑魚が!!」
そう捨て台詞を吐き走って逃げる。彼は動揺中だ。彼は彼女が好きなのだ。そんな彼女に意中の人がいるなんて。
日が暮れ電灯がつく。前方から彼女が走って来た。息も絶え絶えで。
「達央見なかった?」
「紙飛行機持って帰ったぞ」
「中身見てないよね?」
「……」
「なっ、何でもないっ。私、行くね」
彼女が意中の人に伝える前に、せめて自分の想いだけでも伝えようと当たって砕ける覚悟を決める。
「風帆っ」
「何?」
「好きだ」
「……えっ」
「風帆が好きだ!」
「……私もだよっ」
その瞬間、二人の頭上で星が流れた。