幕間 春を待つ
懐かしい匂いがして顔を上げた。
アンベルは養護施設の子供たちと畑を耕している最中だったのだが、ふと羅勒草の香りが鼻先を掠めた気がしたのだ。愛しい、春の匂い。
「……ディルクス様?」
父の凶行から助けてくれた僧侶の名を呟く。
人を殺した罪を、背負ってくれた彼の名を。
その時、遠くで雷鳴がした。
西の空から雨雲が迫ってきている。
鍬を振るう手をすっかり止めて空を見上げたアンベルに、周りの子供たちは不思議がって声をかける。
「どーしたの?」
「なにかあった?」
「ちょっと休むー?」
施設の子たちの言葉に、アンベルは我に返る。
それから、優しく育ってくれたという感動を覚えて頬がゆるむ。
「なんでもないわ。雨が降りそうねと思って」
「そだねぇ、やだねぇ」
「髪の毛ぼさぼさしちゃうー」
「雨きらーい」
「ええ、そうね。でも……」
アンベルはかつて流した涙を思い出して、ふっと笑った。
「雨のあとには作物がよく育つわ」
どゆことー? と口々に疑問を浮かべる子供たちの頭を撫でる。
「はやく耕してしまいましょうってことです。手を止めてごめんなさいね、続きをしましょうか。立派に作物が育つように、ね」
アンベルは子どもたちと共に鍬を振るう。腕には力がみなぎっている。
かつての彼の優しさが今も私を支えてくれる。
「ああ、春が待ち遠しいわね」
雨のあとに育つ作物が楽しみでしかたなかった。
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