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9 ハイエルフ族の少年

 ――苺を探しながら、あたりを探検する。


 ――探検しながら、あたりに苺はないかと探す。


 この文言は似ているようで、かなり否だと《(くう)(じん)は思う。

 森へ入りかけたころの白の皇帝は、それこそ最初は早く見つけて《空》神といっしょに食べようと明確な目的を持っていたのだが、森へ入ってわずかもしないうちに白の皇帝の興味はあっという間に、森のなかでの散策や探検気分に意識が切り替わってしまった。

 日ごろから、よほど《()(がみ)から気安く散歩に出てはならない、ひとりで出歩いてはならないと言われていたのだろう。

 行動範囲の足枷から解放された白き少年の足取りは、いまにもどこかに飛んでいきそうなほど生き生きと動いている。

 はじめは「いっしょに」並んで歩くために繋いでいた手も、こうなってくると彼が好き勝手に歩き回らないように、そういった意味で手を繋いでいないと危なっかしくて落ち着かない。


 ――ああ、なるほど。


 これでは《地》神が安全を優先に白の皇帝の行動を制限してしまうのも、分からないではない。

 そんな《空》神の心配をよそに、白の皇帝は足もとに咲いている花を見つけては、


「これはグリッタの花だよ。黄色が可愛いよね」


 と言って、そのわずか奥のほうにある木を見て、頭上にある緑豊かな葉を見て、


「わぁ、コーファの木だ。いまは葉の色が緑だけど、収穫期になると紅く色が変わってね、すっごく奇麗なんだ」


 そう言って、葉に向けて指をさす。

 白の皇帝にとってはかなりの頭上にある葉であったが、《空》神の身長ではさほどの距離はない。葉を見やると、何だか小さな手にも見える形状が何となくおもしろそうに見えた。《空》神にとっては、言われて初めてそれらに気がつくていどの感覚であったが、白の皇帝はとにかく何かを見つけては目を輝かせて、つい、あちら、そちら、と目を動かして、すぐさま足を向けてしまう。

 しまいには、


「あっ! いま川のなかで何か光った! 鉱石かな? 玉かな?」


 そう言って、川べりから覗きこむならまだしも、白の皇帝は躊躇うことなくパシャパシャと川のなかに入って、光って見えたものが何なのかを確かめようと、川水面のなかに手を深く伸ばしていく。

 白の皇帝はもともと素足、着ている服にしても丈はかなり短いものなので、素肌の部分が多少汚れたり濡れたりしても、さほど気にするようすがない。

 むしろ、竜の五神たちのそばにいて、彼らの居城で見せているようすよりも年ごろの少年らしく生き生きとして、活発で、彼はこんなにも明るくはしゃぐ面もあったのかと、見ているこちらがおどろきを隠せない。

 とくに楽しげに遊ぶ姿が初見の《空》神は、「ああ」と魅入ってしまう。

 長い水色の髪が水面に垂れて濡れる。腕や足に雫として流れる水の玉は、まるで珠のようにも見えて、水を跳ね上げて遊んでいても、彼は繊細で美しい。


 ――自分を前にする、白の皇帝はいつも……。


 そう。

 どうしたら自分のそばにいてくれるだろうかと、一目で少年の虜になってしまい、手籠めてしまった結果、《空》神を見ればいつも怯えたようすしか印象がなかったので、のびやかな自然体の少年はほんとうに美しくてならない。


 ――白の皇帝の生まれには、ふたつの自然元素がうまく混ざり合っているという。


「光と水に祝福されし、至高の存在」として誕生した白の皇帝は、水の属性が強く、竜の五神《水》神がとにかく贔屓にするほど、《水》族に近い気配を纏っている。

 それもあって、川のなかで光るものを探しながら、パシャ、と水を弾いて遊ぶようすは、静寂で清涼でありながら、どこか自然が織りなす美しさがあって、水というものはもともと彼のためにあるのではないのか……そんなふうに思えてしまうほど、日差しに煌めく水面と一体化したような白の皇帝は優美極まりない。


 ――ああ……。


 楽しげに笑い、はしゃぐ自然体の白の皇帝を見て、《空》神はただただ見惚れてしまい、いつかは自分を見てそのように美しく煌めいてほしいと、心のなかで願ってしまう。

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