5 《空》神という存在
――《空》神はけっして、物事に関心も興味も持たない。
聞いたことも、見たことも。
すべて、目の前から流すだけ。
それらは風に吹かれた雲のように、ただ空の下を……彼の眼下を流れていくだけ。
――心に留めることは、けっしてないのだ。
以前、なかなか《空》神の人柄を理解するのが難しくて、「どういう神さまなの?」と尋ねたことがある。
これに関して、司る領域が異なる大地神――《地》神や《火》神は、彼ら自身も天空神の主神を目にすること自体が稀なことなので返答のしようもなかったが、ただひとり明確に彼の人となりを教えてくれたのが、《空》神の従神である《風》神だった。
――わかりやすく言えば、あいつはほんとうに物事に関心がない。
それはけっして冷淡でも虚無な性格なのではなく、物事のきまりごと……定めた秩序に綻びが生じぬかぎり、あるがままに流れているのなら、それはそれでかまわぬと思っている節があるのだという。
――天下の物事の一切は、天空……天上が関わることのない物事。
天上の頂点として、瑣末でも関心を持ち、わずかでも偏りを生じさせることはならない。その感心によって、万が一にでも秩序に綻びを生じさせて、大変な事柄に「何か」がかたむいてしまってはならない。だから関心は持たない。
《空》神はそのように秩序を重んじ、領域を重んじている。
それが自分の存在なのだ、と定めているのだという。
――だから、あいつは竜の五神のなかでも《水》神以上に姿を見せることがない。
天空神の居宮である浮遊大陸の蒼穹宮にいても、空と同化しているか、寝そべってただ空を見ているか。
ほんとうに、それくらい物事に関心を持っていないのだ。
そう《風》神が教えてくれた。
つまりはどういうことなのだろうか、と白の皇帝が悩むように眉根を寄せると、《風》神が、くっくっ、と笑い、遥か天空に向かって指を伸ばす。指につられて顔を仰ぐと、そこにはまさに蒼天の色が果てしなく広がっていた。見上げる立場の者はただただその美しさに心を奪われて、超然とした存在に無意識に平伏したくなる。
空を見上げて思う心は、理屈ではないのだ。
「つまりは、そういうこと」
と言って、《空》神の人となりを教えてくれたことがある。
そのときはまだ、白の皇帝には理解が難しかった。