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3 空と《空》神

 彼ら竜族は、世界を最初に創世した一匹の竜《原始(げんし)》によって端を発する。

 世界の《祖》であるすべての自然をたった一匹でコントロールするのが困難になった《原始》は、自身の自然を《空》、《水》、《風》、《火》、《地》の五つの元素に分け、なおかつそれを司る最初の竜たちを「(りゅう)五神(ごしん)」と定め、なおかつそれぞれの司に部族を与えて、彼らを長として多くの竜族が誕生をしている。

 不思議なことに幼竜が生まれるのが稀で、すべては成竜の姿で自然から誕生する。

 雄は竜騎士、または竜騎兵として半人半竜、雌は人化。どちらも部族の長である族長のためだけに存在している。

 その竜族たちの背は、ヒトの感覚でいうと一五〇センチに満たない白の皇帝からすれば雄も雌も等しく大きくて、雄は二〇〇センチ近く、雌も一八〇センチは平均としている。その彼らの部族長である竜の五神たちはさらに大きく、《(くう)(じん)は最長の二三〇センチを有している。


 ――その彼が突如として現れたのだ。


 これを驚かずにはいられない。

 けれども、上背はかなりあるが、均整の取れた身体は大柄という印象はなかった。容姿も気配も穏やかに澄んで、威圧など感じるものはないのだが、悠然としているようでひと目で他者が本能的に制されてしまうような威風がある。それでいて、髪も瞳も空の色のようでまたちがった風合いを持ち、肩にかかるていどの髪はまばら、唯一特徴的なのが、竜族特有の尖った耳元付近で髪を細い縄編みのように結ってくるのがそうだろうか。

 足の踝が隠れるほどの長衣、青色の系統が美しい多様な鳥の羽で織られたローブをまとい、《空》神はそこに立っている。


 ――ただ彼は、何かぼんやりとしたようすで空を見上げていた。


 白の皇帝にとってはそれがめずらしく見えて、何を見ているのだろうか、と腰を下ろしたまま《空》神を見上げる。

 彼は目にこそ見えるが気配がまったくなく、大地に立っていても広大な空そのもので、悠然としている。

 とても不思議な神さまだなぁ、と白の皇帝は思う。


「《空》神……?」


 声をかけなければ、ずっと天空を見上げたままかもしれない。

 白の皇帝にはそう思えてしまい、つい声をかけると、はっ、としたように《空》神の表情が動いて、ようやくのことで彼は足もとにいる白の皇帝まで視線が動く。


「あ……」


 それでもわずかの間、《空》神の表情はまだ呆けたような感じにも見受けられたが、白の皇帝が立ち上がろうとするのをやんわりと制し、《空》神が視線を合わせようと自ら膝をついてくる。


「申し訳ありません、白の皇帝。あなたのそばにいながら、べつ場所に気を取られてしまうなんて」


 本来であれば、ハイエルフ族の白の皇帝よりも彼ら竜の五神のほうが遥かに高位な存在なのだが、彼らはみな、白の皇帝に永遠の忠誠と愛を誓い、敬意を払い、高慢な態度はけっして取らない。


「ううん、俺こそごめんなさい。声をかけちゃって」


 本当なら、もうすこし天空を見つめさせてあげればよかったのかもしれない。

 そう思って白の皇帝は詫びるが、《空》神はやんわりと笑んで頭を振る。


「私には、あなたよりも大切な事柄はありません」


 そうきっぱりと言って、


「ただ……、こうやって直截大地に足をつけることが久しくて、ましてや自分を仰ぎ見るなどほとんど経験もなかったので、少々不思議な感覚に囚われていました」

「自分を、見る……?」


 どういうことだろうと思い、白の皇帝が小首をかしげると、《空》神は天空を指差し、


「天空……あの空のすべてが、言わば私なのです。いまはこのように可視化できるよう人化しておりますが」

「空が全部……?」

「はい」


 彼はこの世界の自然――竜の五神の筆頭で《空》を司っているのだから、そうと言われればそうなのだが、まだすぐに「そうだね」と納得できるほど白の皇帝には感覚が薄い。

 白の皇帝は何となく遥か頭上の空を、天空を見上げて、そして目の前にいる《空》神を見やる。


 ――目に映るのは、空は空で、彼は彼だ。


 まだそうとしか思えない。

 だが本人がそうと言うのだから、ひょっとすると彼には鏡を見ているような感覚なのだろうか。

 そんなふうに考えて、う~む、と眉間にしわを寄せてしまうと、《空》神が苦笑する。


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