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2 竜の五神《空》神

 そんなことをふと思いながら、天空遥か上にある浮遊大陸にそのひとつをかまえる天空神――ここでは《(くう)(じん)、《(ふう)(じん)を指す――の居宮、蒼穹宮から一歩踏み出すと、《空》神は彼にとっては遥か天下となる大地に足をつけており、《空》神はめずらしくぼんやりと自身の象徴である空……あまりにも遥か上空にある天上を眺め仰いでいた。

 青い色があまりにも美しい天空。

 陽光はまぶしいがどこかやわらかく、その下に浮かぶ雲は多様なかたちをして風に吹かれてゆっくりと流れている。

 天井と天下の間にあるのは、穏やかな空間。

 高くに飛ぶ影は、鳥だろうか。鳴き声が聞こえる。

《空》神は何となく自身に向けて手を伸ばすが、大地にとって天空とはこれほどまでに遥か遠い存在なのか、それを実感するほど手は雲にも、その遥か下を飛んでいる鳥にさえも届きようがなかった。


 ――移動。


 竜族が竜の五神(ごしん)のなかでその手段がもっとも優れているのは、天空の浮遊大陸に住まう天空神である主神の《空》神と彼の従神である《風》神の二神だ。

 彼らはともに巨大な身体に翼を持つ翼竜で、その速さは竜化のときでも人化のときでも変わりはない。

《風》神は文字どおり風になれば竜族のなかで最速を誇るが、《空》神の速さはそれを遥かに凌駕する。

 彼は場所から場所へと移動するとき、足を半歩動かすだけでそれを可能とし、場所から場所、空間から空間へと自在に行き来することができるのだ。


 ――いわゆる瞬間移動能力を持っている。


《空》神は竜の五神の筆頭であり――世界創世の瞬間、最初に自然の元素として誕生したため――、彼自らが空……天上の頂点。

 彼にとって天下とは眼下にあるものすべてを指し、それはすべて《空》神の掌中にあると言っても過言ではない。ゆえに、目的とするものがたとえどこにあろうと、彼に行けぬ場所などないのだ。



□ □



 どちらにいても、かまいません。

 お好きな場所で、お好きなことをしてお待ちくださいませ。

 私はすぐにお伺いいたします。


 苺摘みに出かけようと誘った日、どこで待ち合わせをしようかと白の皇帝が問うたとき、《空》神はそう言って、場所も時間もお好きなように過ごしていてくださいと言った。

 最初、それがどういう意味なのかが分からなかったが、


「私は、すぐにあなたのもとに参ります。ですので、どうぞ普段と変わらぬ過ごしかたをしていてください」


 そう言って、にこり、と微笑んでくれたので、では、どのようにして現れるのかも楽しみにしていようと思い、白の皇帝は特段場所も時間も決めずに《空》神が現れるのを待つことにした。


 ――もっとも、時間に関して言えば。


 大変長命なハイエルフ族と、永久の自然である竜族に「時間」という概念はない。なので、ただ何となく、起きてしばらくしたら、とか、太陽や月が空のこの位置に来たら、とか。そういう感覚で何となく決めている。


 ――《空》神、俺を見つけることができるのかな?


 たとえば、かくれんぼをするようにどこかに身を潜めていても、彼は自分をすぐに見つけることができるのだろうか。実際、そんな相手を試すようなことを白の皇帝はしないが、でも、隠れていても《空》神は見つけることができるのか、それともどこにいるのかわからず困ってしまうのか。

 そんなことを考えながら、くすくすと笑っていたときだった。

 その《空》神が突然目の前に現れたので、彼が来るまで美しい花が咲き誇る草原に腰を下ろして花冠を作っていた白の皇帝はびっくりしてしまった。


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