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11 忘れないで…

 白の皇帝にとって今日の苺摘みは、大変満足のいく収穫ばかりだった。

 苺の実りは素晴らしく、大きさも甘さも充分あって、はじめて苺を摘むのにどことなく苦労していた《(くう)(じん)をとなりで見るのはおもしろかったし、摘んだ苺を直截その場で食べることなど経験もなかった彼が苺を食べて、


「……おいしいですね」


 そう言って表情を綻ばせたのを見ることができて、白の皇帝はほんとうにうれしく思えた。


 ――そして……。


 彼が今日のことをすこしでも長く心に、記憶に留めておいてくれるとなお嬉しいな、と思う。

 こうして苺摘みに出歩いたこと、道中さまざまな探検をして、些細なことだったかもしれないが、川遊びをして、可愛い花を見つけて。それらが楽しかったからまた出かけましょう、と、今度は《空》神のほうから誘ってくれたらなお嬉しい。そう思うが、


 ――でも、彼はそれを口にすることはないだろう。


 それは《空》神が気恥ずかしさを感じて口にするのを躊躇うのではなく、出来事のすべてが、風のように彼から通り過ぎていってしまうからだ。

 そんなことを考えてしまうと、これまで楽しかった出来事が落胆に変わってしまうが、それが《空》神という存在ならば、仕方がない。


 ――忘れられたら、また誘えばいいのだ。


 白の皇帝はそう思うことにした。

 彼はときどき怖いと思える気配を出してくるのに、どうしてだろうか。今日みたいな些細なことでも、彼には覚えていてほしいと思う自分がいる。

 覚えていてもらうために、いっしょにまた何かをしようと思っている自分がいる。


 ――どうしてだろう……?


 それは、よくは分からない不思議な気持ちだった。

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