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10 川遊びを終えて

「……あ~あ、残念。玉じゃなかった」


 ようやくのことで拾い上げた石を指先でつまんで見分し、白の皇帝は少々落胆したようにつぶやいたが、日差しの光を受けてわずかに煌めいていただけの意志を丁寧に川底に戻し、さて、今度は……などと考えを浮かべていたとき、突然ハッとする。


「ああっ、《(くう)(じん)! ごめんなさいっ!」


 ――どうして気がつかなかったんだろう……。


 白の皇帝は無意識に《空》神の手を握ったまま川のなかに入ってしまったらしい。

《空》神は長衣を着ているため、すぐに足もとは水に浸かって濡れてしまった。遊びに夢中になってからは、白の皇帝は繋いでいた手も自然と離してしまったが、だからといって最愛の少年から離れることなどせず、《空》神は白の皇帝がひとしきり遊びきるまで、ずっと長衣を濡らしたまま川のなかに立っていてくれたようだった。


「ど、どうしようっ、ごめんなさい! 俺、全然考えていなくて……」


 白の皇帝はあわてて《空》神の手を引いて川から上がったが、


「お気になさらずとも。まだ遊んでいらしてもいいのですよ」


 と、《空》神が気にしていないようすで言うものだから、かえって好きに遊んでしまったことを申し訳なく思ってしまう。


「ううん、俺、もう遊ばないっ。いっぱい遊んだから、もう大丈夫っ」


 あわてて言って、白の皇帝は《空》神の濡れた長衣を気にしながら、どうしよう、乾くかな、と心配になって覗きこむ。気にするなといったのに、かえって気にする白の皇帝の優しさに《空》神はただ微笑み、


「大丈夫ですよ。すぐに乾きます」


 そう言って、自身の長衣を軽く手でひと払いする。

 つぎの瞬間、


「へっ?」


 手で払われた長衣から弾かれたのは、霧雨のような粒子だった。それはすぐに光の粒子となって、ふわり、と宙を舞ったようにも見えたが、瞬く間に何事もなかったかのように消えてしまった。

 ほんとうに、一瞬の出来事だった。

 あれ、と思って白の皇帝はあたりを見まわしたが、すでにそれらは跡形もない。そのまま彼の長衣を見ると濡れていた部分に名残はなく、ただいつものようすの《空》神が立っているだけだった。


「《空》神、すごい! どうやったのっ?」


 濡れた水分を瞬時に光の粒子に換えて、飛ばしてしまうとは。

 白の皇帝は興奮ぎみに《空》神を見上げるが、彼は何とも言えない表情で、いつものように悠然としながら、


「そうですね。やってみたのは、いまがはじめてです。払えば飛ぶかな、と」

「ええっ、それだけ?」

「はい。思いのほか奇麗に飛んだので、それほど濡れていなかったのかもしれません」

《空》神はそのようなものだろうといったようすで語るが、たとえば《火》神のように温かな熱で乾かすのではなく、水を光に換えて飛ばすとは。それもやってみたらできた、とは。


「やっぱり、空の神さまはちがうなぁ」


 白の皇帝はしみじみ感心して、自分にも《空》族に近しい属性があることを思い出して、もしかしたらできるかもしれないと思い、濡れた自分の足で似たようなしぐさで真似てみたが、濡れた水滴はそのまま。光にも粒子にもならなかった。


「う~ん、払いかたがちがうのかな?」


 むむぅ、と頬を膨らませながら眉根を寄せると、《空》神が、くすり、と笑った。

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