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神々の記憶置き場#4

新章準備の書き溜めのため、更新を約1週間ほどお休みします

少々お待ちください!

とある神の観測記録

□▲〇⊿.GBM


【とある制作秘話#2の記録】

【記憶を再生します】



 ――さて、先日は西の大陸と北の大陸に話を聞きに行った私は、今度は南と東の大陸へと伺うことにした。まずは用事もあるので東の大陸を優先することにして、いつものように彼に抱きかかえられながら空を飛ぶ。


「ん、今日はいい天気ですね」


 その言葉に彼は頷く。

 なんだか素敵な日になる予感を感じながら視界を下に移せば、海を泳ぐ船が大蛸に襲われて沈没し、その大蛸に対して魚人族の人たちが待っていましたとばかりに現れて狩りが始まった。

 ……うん、大丈夫。いつも通りの平和な日常だ。そして、船乗りも慣れたものなのか壊れた船の木片にしがみつきながら魚人族と海の上で談笑している。あの、大蛸と戦っている横なんですけど。


(というか、船が壊れていいんでしょうか?)


 そんな疑問を感じながらも、東大陸の港へとやってきた。彼に降ろしてもらった私は、そのまま港の中に入る。

 ――そして驚くのは、その活気だ。


「おおい! その金属は一番港にもってこい!」

「木材が足りねえぞ!」

「うるせえ! こっちだって足りてねえんだよ!」

「食料はこっちに! 酒はこっちだ!」

「それはうちの工房のだ!」


 船乗りたちが他の大陸から積んできた荷物を運び、それを降ろす。そして東大陸の職人たちが騒がしく受け取りながら必要な場所へと運んでいく。あらゆる人と物が集まる東大陸は、今一番活発な大陸だといえるだろう。


「ええっと……」


 騒がしい喧噪の中を掻き分けながら人を探す。

 ここは……違う。蛇人や馬人、人族や獣人などの多様な種族に話を聞きたい欲求を抑えて、さらに探していく。そうして港の荷物を検分している職人たちの中に、私は目当ての人を見つけた。


「イストさん!」

「ん? ああ、賢翼ちゃんじゃないか」


 それは、優し気な表情を浮かべている岩人だ。

 イストさん。彼こそ精霊となった道具を作り出し、今も世界中で求められる様々な道具を作り出す名工だ。検分している手を止めて、私を見て笑顔を浮かべる。岩人族にしては珍しく背が高く線も細いのだが、髭だけは立派なのでちょっと不思議だ。


「お久しぶりです。まずはこちらをどうぞ」

「うん、ありがとう。いつも助かるよ」


 彼は私からの手紙を受け取ると、嬉しそうな表情を浮かべてその手紙を懐にしまった。

 ……彼はセツナさんの文通相手だ。エトラールちゃんの事から知り合って、それからずっと文通を続けている仲らしい。内容を見たことはないが、お互いに楽しそうなのできっと素敵な文通をしているのだろう。


「それで、今日は僕から話を聞きたいんだったかな? それじゃあ、あっちの建物は使えるからそっちで話そうか」

「いいんですか? イストさんは忙しいんじゃ……」

「はは、忙しくてもこのくらいの時間は作れるよ」


 ……周囲の職人さんたちの、「今抜けるのか?」と言いたげな視線を笑って受け止めているイストさんは間違いなく大物だと思う。

 そして人々の喧騒から離れた静かな建物の中で、一息ついたところでイストさんから質問される。


「ところで、セツナさんは元気にしてたかな? その、体調とかにもお変わりはなく?」

「ええ、とても元気でしたし、いろんな話をしてくれましたよ……イストさん、そういう話はお手紙に書いているんじゃ……」

「うん、いや、まあ、それはそうなんだけどね? ほら、もしかしたら手紙に書いてない可能性もあるし、他の人からの様子も聞きたいっていうかさ……」


 恥ずかしそうにいうイストさん。

 ……なんでも彼はセツナさんのファンなのだそうだ。東大陸にセツナさんがやってきた時に、その姿を一目見てファンになったんだという。私にもそういう気持ちは分かる。


「っとと、そうだった。それで、何の話が聞きたいんだい?」

「東大陸の戦争……獣王クズノとそれにかかわった皆さんの話を聞きたいんです。だから、イストさんにお願いしようと思いまして」

「……あれ? その話は前にクロノたち三兄弟に話を聞いたんじゃなかったっけ?」

「聞いたけど無理でした……まとめるような内容にならなかったので」


 ……確かに彼らは凄い人だった。いろんな意味で。

 クロノさん、シラサギさん、キスケさんの三兄弟は『三つ首の怪物』と呼ばれる凄腕の狩人であり、その実力だけは誰しもが認めるものだ。

 ただそれ以外は問題児なのだが。


「フワフワしすぎて参考にならないのもそうなんですけども……なんというか、こう……真っ当に話をしてくれないというか。せめて説明をするのにズバーンとかドカーンみたいな言葉は辞めてほしいです……本人たちは真剣ですから猶更言えないですし」


 確かに彼らの人気は高いのだが、話を聞く前に東大陸の関係者たちからは「難しい話は聞かないほうがいい」「調子の乗らせないほうがいい」「というかバカなので向いてない」と言われた。そして実際に話してみて「……あの忠告、全部本当だったんだ」と実感したものだ。


「あはは……まあ、3兄弟はそういうのは向いてないからね。とはいえ、僕も前線には出てないし武器を用意しただけだからね。あまり詳しく語れないよ?」


 そういわれると困ってしまう。これでは誰から聞くべきだろうか? 当事者として事情を詳しく知ってる人がいいのだけども。

 イストさんは、何かを思いついたと私に提案をする。


「ううん、そういうことなら……コオウに話を聞いてみるかい?」

「えっ!?」


 突然の提案に驚いてしまう。

 コオウといえば、獣王クズノの暴虐を止めるためにクズノと同じ立場でありながら協力をしてくれたという気高い狼の名前だ。決して人に慣れあわず、己の領分を定めて縄張りから出てこないという彼の話を聞けるのであれば、とても嬉しいけども……。


「えっと、大丈夫ですか? 私が話を聞ける相手なのかなって。確か、人の世界と関わるべきじゃないってことでしたけど」

「まあ、僕からの頼みだといえば大丈夫だと思うよ。はい、これを見せればコオウも納得するはずだ」


 笑顔でそういうイストさんは、私に小さなアクセサリーを渡してくれた。これがあればコオウさんは気づくらしい。


「えっと、いいんですか? こんな貴重そうなものを……」

「うん。ある程度渡す相手は選んでるから大丈夫。君は僕とセツナさんのために手紙を運んでくれているから、人格は保障できるさ。それに――」


 そうして、嬉しそうな顔で彼は答えた。


「僕が作った精霊……エトラールのことを覚えてくれる人が増えるならこんなに嬉しいことはないからね」


 イストさんの言葉に身が引き締まるような思いになる。

 私が作っている本は今を生きる人たちの話を記録している。だから、この本が残るのであれば……時代の流れで忘れ去られてしまうかもしれない誰かも、後世に伝えられることになるのだ。

 それは長い時間を眠り、知っている人が居なくなるかもしれない精霊にも言える話だろう。


「エトラールが生まれたのは本当に偶然だったんだ。だから今も挑戦しているけど、あの子のような精霊を作ることは出来ていない……僕はただの岩人だ。きっと、あの子が起きるであろう時に僕はいないだろうね」

「それは……そう、ですね」


 長い命を持つ森人が、時代の流れと共に他種族の友を失い心を病む話は珍しくない。そして、その痛みを理解して慰められるのは同族だけだろう。

 目が覚めた時に、大切な人が誰も居なくなっているのはとても悲しいはずだ。


「だから、あの子が寂しくないように、あの子を忘れないように……君の残す本が、エトラールの事を残してくれると嬉しいんだ。本当の慰めにはならないかもしれない。でも、あの子を孤独にしないことが嬉しいんだ」

「はい……任せてください。きっと、私が書き残しますから」

「ありがとう、賢翼ちゃん。君に負けないように僕も諦めずに挑戦しないとね。あの子のために、家族を作ってあげたいから……っと、引き留めすぎたね。ごめんごめん。コオウの話を聞きにいかないといけないだろ?」

「あ、そうですね!」


 慌てて立ち上がる私に優し気な表情で見送ってくれるイストさん。


「それじゃあ、失礼します。本当にありがとうございました。また、お手紙を取りに来ますね」

「うん、お手数をかけるけどお願いするよ。お互いに頑張ろうね」

「はい!」


 そういってイストさんと別れる。

 彼に抱えられて飛びあがり、コオウさんの元へと行く前に彼につぶやく。


「……私の仕事を期待してくれてる人がいっぱいいるんですね」


 その言葉に彼は優しく頷くのだった。


「イスト! てめえ、さっさと仕事しろや!」

「羨ましいぞ畜生!」

「なんでお前ばかり……髭か!? 髭なのか!?」

「そんな羨ましいお前に依頼がドン! さらに倍だ!」


 ……飛び立つ前に聞こえた騒ぎは聞こえないことにした。



 ――そしてコオウさんの元にやってきた私は正直、腰が引けていた。

 コオウさんはとても大きい。体の大きさは私の何倍もある。そして、本能的な恐怖がつい出てしまう程に、圧倒的な力を感じさせるのだ。話している限りでは協力的で優しい狼なのだが、それでも体が勝手に震えてしまう。

 でも、ちゃんと話を聞いて記憶はしている。偉いですよ、私。


『――というわけだ。クズノ、あれはただの獣だった時からの知り合いでな……まあ、性根は悪いが知恵が回る面白い奴だった。とはいえ、あれが力を持てば暴走するのは目に見えていたからな』

「な、なるほど……クズノとは昔からの知り合いだったんですね」

『うむ。わざわざ人里の餌を狙って他人をバカにして喜ぶような性悪だったからな。飢えてもないのにわざわざ人里に行く辺りは筋金入りだ』

「それは……なんとも凄かったんですね」

『あ奴は狐だったから非力故に鬱屈とした感情もあったのだろう。力をもって変わってしまった。このような力がなければ……そんな風にも考えてしまうな』


 どこか老人のように懐かしんで語るコオウさんの話は、とても貴重だった。

 クズノの過去。そして、コオウさんが何を思っていたのか。そういった話はきっと普通では伝わることはない。だからこそ、この話を残すことは重要だと記憶に刻み付けていく。


「そんな中で、この大陸の人と仲良くなったんですね」

『ああ。あの三人もそうだが……イストにはクズノとの戦いの後に大怪我を負ってから世話になったのでな。人の世とは関わるつもりはないが……恩のある友人の頼みを聞く程度はいいだろう。それに、やり残した事もあるのでまた関わることになるであろうしな』


 優しくいうコオウさんだが、そのやり残したことが気になった。


「やり残したことって、何かあるんですか?」

『いずれ、クズノはまた野望のために動くだろうからな。その時には、身内の不始末だ。我が動くしかないだろう。人に任せきりでは沽券に関わるのでな』

「……えっ? でも、クズノは死んだって聞きましたけど……」

『普通なら死んでいるだろうな。あの怪我で海に落ちたのだから。だが、我の知るあ奴ならば生きているだろうさ。そして失敗を糧にして、より狡猾に動くだろう』


 そう言って遠くを見るコオウさん。決して恨みだけではない。まるでどうしようもない友人を語る時のようだ。

 ……なんとも不思議な関係性だ。お互いの命をやり取りしながらも恨みも何もないというのは。


『さて、これでよかったか?』

「あっ! はい、ありがとうございました! おかげで、獣王戦争に関する話がいっぱい知れて助かりました!」

『ああ。話程度なら聞きに来るといい。こうして誰かに語るのも悪くはない気分だ。では、さらばだ』


 そう言って、ゆっくりと歩いて森の奥へと帰っていくコオウさんを見送る。


「き、緊張したぁ……」


 思わず座り込んでしまう。とても参考になったけど、やっぱり精神的な疲労は凄かった。本当に威圧感がすごい。本気で彼を怒らせてしまったら私なんて睨まれただけで失神してしまうだろう。

 と、私がつかれているのを見たからか、彼はもう帰るか? と視線で聞いてくる。


「いえ、まだ帰りません。南大陸には絶対に行きたいんです!」


 なぜなら……。


「憧れのナナシさんが、あちらの街に居るらしいですから!」


 そう! 私が話を聞く中で中心人物として騒動に関わってきたナナシさんが居るという情報を聞いたのだ!

 神出鬼没で、話を聞きにいっても会えなかったナナシさんに会えるとなれば、休んでいる暇はない。そして、私は頼んで急いで南大陸へと向かうのだった。



 ――南大陸で、ナナシさんが泊っているという宿で私は崩れ落ちた。


「ナナシなら数日前にどこか行ったよ。相変わらずの自由人だよね」


 その宿を経営しているという蟲人のお姉さんが苦笑しながらそう答える。

 なんていうことでしょう。まさか、数日前に居なくなっていたなんて……。


「そんなぁ……!」

「ナナシに何か用事あったの?」

「いえ……話を聞きたくて。私は本を作っているんですけど、その中でいろんな話に出てくるナナシさんに憧れていて……ずっと探してるんですけどどうしても出会えないんです」

「あはは。確かにそういう子も多いね。好き勝手に生きてるから出会いたいときに限って出会えないんだよね」


 まるで昔から知っているような口ぶりでそういう蟲人のお姉さん。

 ……ふと気になって聞いてみる。


「えっと、お姉さんはナナシさんと親しいんですか?」

「まあこっちの大陸でナナシが色々とやってた時に面倒見てたからね。なんなら、私がこの宿を始めたのもナナシが原因だし」


 ……なんと! そんな人がいたとは知らなかった!

 南大陸ではナナシさんはあまり活躍をした逸話が流れてこなくて、あまり話を聞いていなかったのだが……お姉さんから聞けば色々とわかるかもしれない。


「えっと、すいません。そのお話について色々と聞いてもいいですか? こっちの大陸で何をしていたのか全然情報がないからナナシさんの武勇伝を聞きたいんです」

「まあ、そのくらいならいいかな。鳥人族の子ならいろんな話を広めて宣伝もしてくれそうだし」

「うっ……き、きっと宣伝します」

「あはは、まあ期待しないでおくね。それじゃあ何から話そうかな……」


 そして、蟲人のお姉さんはナナシさんがこの大陸での行ってきた伝説を色々と教えてくれた。蟲人の巣崩壊事件。蜘蛛の巣炎上事件。森のヌシ化事件。偽ナナシ事件。ナナシ拉致監禁事件。森人号泣事件などなど……初めて聞くような話題が沢山だ。

 どうやら、ナナシさんを泊めているうちに彼が色んな人に頼れると彼女の名前を出して面倒だから家を宿に改装して、そのまま始めたらしい。


「――てなわけで、蟻の蟲人に対してナナシが「まあ、仲良かったし」で本人が監禁されてることに気づかなくてねぇ。で、「そろそろ外の空気吸うから」って言って監禁部屋から普通に抜け出して戻ってきたんだよね。そのせいで心が折れちゃって」

「……監禁に気づかない事あります?」

「いやー、あれはいうなら強すぎる弊害かもねぇ。下手な危害を加えられてもなんとか出来るから鈍感になってるんだと思うんだよね」

「なるほど……規格外ですね」

「それにナナシには毒気がないからね。絆されると、何か丸くなっちゃうんだよね。私だって宿に改装なんてしちゃったし」


 南大陸でもナナシさんの活躍は相変わらずだった。圧倒的な暴力でどんな局面も打ち壊して、朗らかな人柄で仲良くなってしまう。

 そんな彼の伝説は聞いているだけでワクワクして心が躍ってしまう。


「私が知ってる範囲だとそんなもんかな。参考になった?」

「ありがとうございます、蟲人のお姉さん!」

「あはは、こんな話でいいならまたしてあげるね。ああ、他にも蟲人の集落とかこっちの森人でナナシを知ってる人がいるからそっちも聞いてみるといいかも」

「本当ですか!? わかりました! また、聞きに行きます!」


 私が興奮している姿を楽しそうに見守ってくれるお姉さんに、ふと気になって聞いてみる。


「そういえば、お姉さんは何の蟲人なんですか? 他の大陸だとあまり見ないから詳しくなくて」

「ん? 私は蜘蛛の蟲人だよ。他の蟻とか蜂みたいなベースの蟲人はもっと蟲っぽい見た目をしてるし、コロニーがあるからそっちで生活してるね」


 なるほど、言われてみれば確かにお姉さんは蜘蛛の特徴を持っている。

 私の本にはいろんな種族の特徴を書くつもりだから、こういった情報も忘れないようにしないと。


「ああ、気を付けた方が良いのは蜘蛛の蟲人は縄張り意識が強いからね。勝手に侵入したら殺されても仕方ないよ」

「えっ!? そ、そうなんですか!? ……あれ? でもお姉さんは……」

「あはは……まあ、私はナナシって奴のせいで蜘蛛のプライドってのは叩き折れちゃったかな……」


 どこか遠い目をするお姉さんに、これ以上は聞けないと口をつぐむ。


「……まあ、それはそれとして。貴方は聞いた話をまとめた本を書くんでしょ? もし出来たら分けてね? うちの宿においてあげるから」

「いいんですか?」

「いいよ。貴方みたいな子は見ていて面白いし、こういう縁は大切にしたいからね。だから、作るっていう本は期待してるね?」

「はい、その時はよろしくお願いしますね」

「あはは、、真面目な子だね。それじゃあ、これからも御贔屓に~」


 そう言って蟲人のお姉さんに別れを告げて、外に出る。

 ナナシさんには出会えなかったが、面白い話は色々と聞けたので結果的には来てよかった。


「ん、よし! それじゃあ帰りましょうか」


 そういった私に、彼はこちらに視線を向けていた。


「どうしました?」


 悩んでいるような彼にそう聞くとこちらを見て意を決した表情を見せる。


「……ナナシ殿が、異性として好きなのか?」

「えっ!?」


 喋った!?

 いや、普段から無口だけど喋れない訳じゃないのは知っていたけども……。


「え、ど、どういうことですか!?」

「君は、いつも彼の話を楽しそうにするから気になった」


 そう言われて、確かに彼から見れば熱烈に追っかけをする私の姿を見てそう思ったのだろう。とはいえ、その勘違いを訂正する。


「違いますよ? 確かに好きですし興味はありますけど……ナナシさんはなんというか、セツナさんとかに対する憧れに近いんですよね。こう、本当の偉人に会ってみたいって感じの」

「そう、なのか」

「それに前に言ったじゃないですか。私はもっと大人っぽい人が好きなんですから」


 もっと落ち着いて知性のある人が好きなので、ナナシさんはそういう対象ではない。

 と、なぜかほっとした表情を浮かべる彼。


「いやあ、店の前で何の話かと思ったけど……青春だねぇ」

「え? 何がですか?」


 と、いつの間にか外に出てきていたニコニコする蟲人のお姉さんにそう聞くと、なぜか同情の視線を彼に向ける。


「……こりゃ苦労するね。頑張りな」


 なぜか頷く彼に、いったい何のことだろうかと思うのだった。



 そして、空を飛びながら彼に話しかける。


「それにしても普段は喋らないのに、いきなり話すからビックリしましたよ」

「……言葉にしないと分かりづらいと思ってな」

「あはは、まあ勘違いさせてごめんなさい。貴方にはいつも苦労をかけてますし、嫌なら断ってもいいんですよ?」

「そんなことはない」


 そう言って彼は笑みを見せる。


「賢翼、君の夢は素晴らしい。昔のようにただ速さを求めて飛ぶよりも……君を連れて、何かを残すために飛び回る方が良い」


 ……微笑む彼に、少しだけ照れてしまう。

 私のワガママに付き合わせているだけで感謝されるのはどこが座りが悪い。だから、誤魔化すように私は彼に伝える。


「ありがとうございます。なら、もっと誇らしくなるように凄い本を作りますからね!」

 頷く彼を見て、夕焼けの空を彼と一緒に飛びながらもう少しだけ……この時間がもっと長く続けばいいなと思った。



「賢翼! ナナシって奴が集落に来てたぞ!」

「は!? 嘘!? 今はどこに!?」

「さっき帰った。なんか、今は色んな大陸を見て回ってるらしい。あと、吸血族が来たら知らないって言えって言われた!」

「そんなぁ!? もっと早く帰ればよかった……!」



【とある制作秘話#2の記録】

【記憶の再生を終了します】

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