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神々の記憶置き場#3

とある神の観測記録

□▲〇⊿.GBM


【とある制作秘話の記録】

【記憶を再生します】



「賢翼! 賢翼! 大変だ大変だ!」

「……どうしたんですか?」


 私は本を読んでいた手を止めて、呼ばれた言葉に返事しながら多分またくだらない相談なんだろうなぁ……と思いながら彼を見る。

 その姿は鳥人族の中でも一番の狩人だ。その姿を見てなんとなく相談内容にも見当がつく。当たってほしいような、当たってほしくないような……。


「飛べなくなった! 鳥人なのに飛べないなんて、終わりだぁ! どうすればいいんだ!?」

「……」


 予想通りで、やっぱり当たって欲しくなかったなぁと思いながら私は彼の翼を見る。


「……外に出てしばらく日光を浴びて乾かして来たら飛べますよ」

「何!?」

「水浴びしてから、そのまま飛ぼうとしたでしょう? だから翼が重くて飛べないんです」

「なんだと!? そういうことか! 流石は賢翼だ! よし、日を浴びてくる!」


 そう言って走り去っていく狩人さんを見送る。多分、あの勢いで走っていたら乾きそうな気もするけど、走ることに夢中になって他のことが抜けそうだから辞めておいた。

 そして、私は読んでいた本を閉じて天を仰いだ。


(……水浴びして羽が重いから飛べない相談……何回目だっけ?)


 学習を……いや、うん。分かっているのだ。

 飛ぶ行為というのは、とても高度で体力を使う行為だ。飛ぶために鳥人は様々なものを犠牲にする。その犠牲にしたものでも、一番大きなものでいえば……賢さだろう。考える事はとても疲れるし体力を使う。だから飛ぶ力の強い鳥人は大空を飛ぶために切り捨ててしまうのだ。その犠牲もあって、私たち鳥人族は高く、速く、そして自由に空を飛べる。

 逆に言えば、私のような鳥人は上手く飛べない代わりに知性を手に入れた。だからこうして仲間のために知恵を貸すのは仕方ない事……と、そこで自然と過去を思い出して私の心にある特大の傷が抉られてしまった。


「うぐっ……! ううう……! い、忌まわしき過去がぁ……!」


 私の思い出話になるのだが……過去の私はとんでもないバカだった。

 周囲の鳥人たちは天才だ! 賢い翼だ! と持て囃してくれた。私は凄い調子にのった。あらゆる疑問に答えた私は、若くして鳥人族のご意見番となった。天才だから何もわからない事はないと調子に乗りまくった。

 そんな私に転機が訪れたのは……ある日、外から珍しく鳥人族に会いたいという客人がやってきた時だった。その時の私は客人に挨拶をする前にこんな感じで調子に乗っていた。


『ふふん。外からの客ですか。まあ、私の知性を求めて来たのでしょうが……まあ、立場をわきまえているなら賢い私が色々と知恵を授けてあげてもいいですかね』


 過去の私の羽を毟ってやりたい。

 そんな思い上がったままに客人を迎え入れて会話をしていく中で、当時の私は理解したのだ。


『あれ? 私って……もしかして、鳥人基準で賢いだけ?』


 そう! 外の客人の会話はとても楽しかった。知性にあふれて未知なことを沢山教えてもらった。最初こそ、「ま、聞いてやりますか」くらいだった私も「あ、あの、教えてもらっていいですか?」と頭を地面につけてもいいくらいにはのめりこんだ。

 そして気づいたのだ。私の賢さは……あくまでも鳥人族で見るならという前提に。持て囃されてる私の知性が、外の種族基準だとちょっと成長した子供程度だったということに! そして初めて触れる賢い人に打ちのめされてしまったのだ!

 その圧倒的な差に気づいた自分の思い上がりに、客人が帰ってからあまりの羞恥にしばらく寝込んでしまった。そのくらいショックだったし恥ずかしかった。だが、周りに心配されながらも私は寝込んでいる中で触れた知性に感動もしていた。


『……この会話で沢山のことを知れた。もっともっと、外の世界には私の知らないことがあって、もっと賢くていろんな出来事があるに違いない』


 そして、旅人であった客人の苦労話を聞いてある事に気づいた。

 彼が鳥人族の集落に来るまでの旅路は、飛ぶのが得意な鳥人であれば一日二日で行き来できる事に。そして、外の知恵を知りたい私にとっては……仲間の力を借りれば、とても簡単だということに。

 私は仲間の羽を借りて、西に北に、南に東。争いの絶えない中央にすら飛び回り様々な人に教えを請い、そして学び続けてきた。そうして、私は本当の意味で賢き翼となれたのだ。


「でも、それはそれとして調子乗った過去は消えるわけじゃないんですよ……うぐぐぐぐ……!」


 自分の調子乗った過去。「知ってますか? 時間がたつと暗くなるのですよ?」とか「硬い木の実を食べるときに、外を割れば食べやすいんですよ?」みたいなので自慢げにしてた過去本当にキツい。思い出すだけで羽根を毟ってしまいたくなる。


「賢翼! 風が来たよ!」

「……はっ!? もうそんな時間ですか? すぐに行きます!」


 どうやら待ち人が来たようで、あわてて準備をしてから外に出る。

 そしてそこには私を待っていた一人の鳥人が佇んでいた。


「待ちましたか?」


 首を振って待っていないと伝えてくれる。

 彼は「大空の風」と呼ばれている他の集落の鳥人だ。その翼は、風よりも早く飛ぶことが出来ると言われているとても凄い方だ。

 何度か彼に知恵を貸したことで、個人的に私に協力してくれていた。無口だがとても頼れるお兄さんのような存在でもある。


「それでは、お願いします」


 彼は頷くと、私を抱えて大きく翼を羽ばたかせて空を飛んだ。


(……この瞬間はとても気持ちいいですね。他の種族だと味わえないのが勿体ないですね)


 風の受け流し方や温度への対応、空気の差に対する呼吸の変化などを鳥人族は自然と出来るのだが、他の種族では難しいらしい。だから、こうして空の旅を楽しめる私は鳥人族でよかったと思える。

 大空から見るこの世界は、とても大きくて綺麗だからだ。そんな風に考えながら、あっという間に最初の目的地へと到着するのだった。



「――というわけで、ナナシ殿はこの大陸を去っていったのですよ。彼のおかげで、我々の魔物たちを倒すための基礎が作られたわけです」

「なるほど……やっぱり凄いですね。ナナシさんは」


 西大陸の魔物討伐ギルドに来た私は、そこの関係者に話を聞いて回っていた。

 それは、魔物によって被害を受けて滅びを迎えようとしていた西の大陸で、あらゆる種族をまとめ上げて怪物ともいえる大魔獣を倒すきっかけとなったナナシさんに関する話だ。

 彼は大きな力を持ちながらも、その力を使うのではなくこの大陸の皆で協力し合って倒すことが必要だとまとめあげた。その活躍は、まるで御伽噺に出てくる英雄のようだ。


「はは、お嬢さんは相変わらずナナシ殿の話が好きですな」

「だって、本当に凄い人ですし、どの活躍もとっても面白いお話ですから!」

「まあ、確かに彼の活躍は素晴らしいですからね。聞けば他の大陸でも活躍していたのでしょう?」

「そうですね。でも、ナナシさんに頼らず大きな怪物を倒したのはこの大陸だけでした。だから、こうして話して聞かせてくれる皆さんも凄くかっこいいと思います」


 その言葉に照れ臭そうに笑うギルドの人々。

 すべての大陸を見て回った私だが……西大陸ほど、人々の繋がりが強い大陸を知らない。竜人と魚人が肩を組んでお酒を飲み、岩人と森人が語り合い、人族と獣人が肩を組んで歌を歌う。そうして彼らはお互いに尊重し合い、自分の強みを生かして魔物という脅威と戦い続けている。


「こんなバラバラな種族の皆さんが仲良くしているのを見ていると、皆こうであればいいのにって思っちゃいます」

「はは、そりゃ無理ってものだよ」


 意外にも、私に話を教えてくれていた森人のお爺さんは笑顔でそういう。


「魔物という脅威があって繋がっているだけさ。もしも魔物がいなくなれば、こんな風に出来ないだろう。なにせ、我々もナナシ殿が来るまでは少ない土地を奪い合っていがみ合い、争っていたのだから」


 その言葉には実感がこもっていて、思わず息を吞んでしまう。

 でも、私は思うのだ。


「……それでも、今の皆さんはきっと魔物が居なくなっても……きっと、手を取り合えるんじゃないかと思います」


 だって、そうではないか。

 お酒を飲み合って、バカな話をして楽しんで、そして最後に手を振ってまた明日と約束出来る。そんな人たちが出来ないわけがない。


「いやあ、若いなぁ」

「はは、まったくだ」

「だけど、俺は嫌いじゃないね」


 ギルドの人たちは笑いながらそんな風に言う。

 そして、皆は誰かの顔を思い出しているようだった。


「ま……確かに賢翼ちゃんの言う通りだな。喧嘩してたらナナシが帰ってくるぜ?」

「そりゃ最高に怖い話だな……いや、本当に」

「ま、あの人なら仲良く手を取り合えって殴ってくるんだろうな」

「言ってる本人が殴ってくるの理不尽だよなぁ」


 そう言って笑う。

 話をしてくれたお爺さんも、笑顔で答えた。


「……はは、老人が悲観的になりすぎたか。確かに賢翼殿の言う通りだ。こうして、笑い合って彼の事を語れるなら手を取り合えるだろう」


 そして、私の頭をなでる。


「こんな老人の話程度なら幾らでもしてあげよう。だから応援しているよ」

「はい、ありがとうございます! それでは、また話を聞きに来ますね!」


 そして頭を下げてから、次の目的地へ行くために私は走り出すのだった。



 そして次なる目的地は北の大陸。

 肌寒い空気に思わず身を縮こまらせてしまう。


「大丈夫? 寒くないですか?」


 私が聞くと、彼は頷いて大丈夫だと伝えてくれる。

 それならよかったと思いながら、北大陸の大森林を超えて鬼人族が治める国へとやってきた。そして、大都市に降り立つと周囲に集まってきた人たちが笑顔で歓迎してくれる。


「おう! 賢翼ちゃん!」

「セツナ様が待ってるから早く行ってあげな!」

「いやあ、いつ見ても」


 ちょっと見た目は怖いけど優しい人たちが、お城の中に案内してくれる。

 そして中に入ると、とても綺麗な鬼人族の女性が手紙を書いていた。


「セツナさん、お久しぶりです」

「あ、賢翼さん。久しぶりね」


 優しい笑みで答えてくれるのは、この国の女王であるセツナさんだ。

 勉強の一環でこちらの大陸にやってきた私と偶然にも話す機会があり、そこで気に入られてセツナさんとはこうして話を聞かせてくれる仲になったのだ。

 一国の王女なのに大丈夫なのかと思ったけども、北大陸の流儀だとそこまで拘らないらしい。そんな彼女との話は、セツナさんが経験した妖精たちとの戦争の話。そして、最後にすべてを飲み込むスライムと一騎打ちしたナナシさんの話だ。


「それで、今日はどの話を聞きたいかしら」

「スライムを真っ二つにしたナナシさんの話は前に聞きましたから……ええっと、よければエトラールちゃんの話を聞いてもいいですか?」

「ええ、いいわよ」


 ある日突然、セツナさんの下にやってきた精霊のエトラールちゃんとの話を聞くことにした。一緒に遊んだこと。北の大陸で二人で歩いたこと。そして、一緒に過ごした時間のこと。

 ……セツナさんの話を聞くほどに、彼女がエトラールちゃんのことを大切に思っていた気持ちが伝わってくる。だから、思わず私は聞いてしまう。


「……セツナさん」

「ん? どうしたの?」

「エトラールちゃんとは、もう会えないんですか?」


 精霊のエトラールちゃんは、ナナシさんが連れてきた精霊のリドルが連れて行ったらしい。そして、失った力を取り戻すために長い時間を眠り過ごすことになるのだという。

 精霊のいう長い時間は私たちのような普通の人にとっては途方もない時間となるだろう。それこそ、セツナさんが生きている間に出会うことはない程に。


「こんなに嬉しそうに話すセツナさんが再会できないなんて、悲しいです」


 彼女と精霊であるエトラールの思い出話は本当の親子のようだった。そんな彼女が再会できないままだなんて、あまりにも悲しいではないか。

 だが、セツナさんは優しく微笑む。


「いつかエトラールが目を覚ますかもしれない。その時に、ずっと悲しんでただけなんて言えないでしょ? だって、エトラールは私が笑ってるのが好きだって言ってたから。それに、出会いから唐突だったから、急に目を覚まして会いにくるかもしれないでしょ? だから、会えないなんて思っていないわ」


 そう言って笑うセツナさんに、私も笑顔で答える。


「ええ、そうですね。きっと、会いに来てくれます」

「うん。聞いてくれてありがとう、賢翼ちゃん。それじゃあ遅くなったし、これをお願いね」


 そう言って先ほどまで書いていた手紙を渡してくれる。

 これは、セツナさんが話を聞かせてくれる代わりに頼まれているお仕事の一つだ。手紙を忘れないように、しっかりと受け取って鞄にしまう。


「はい、しっかり届けてきますね!」

「うん、それじゃあ賢翼ちゃんも頑張ってね」


 そう言って見送られて、私は外で待っている彼の下へ。


「お待たせしました」


 頷くと彼は私にどうするのか視線で問いかける。


「今日は帰りましょうか。お話を聞いてたら、すっかり時間も遅くなりましたし」


 それに、彼もこれ以上無理をさせたくはない。夜目が利かない私たちが遅くに飛行するのは非常に危険だ。

 ということで、今日のお仕事は終わりだ。そして私たちは鳥人族の里に帰る。


「ええっと、帰ったら内容をまとめて……それから……」


 今日聞いた話を脳内で整理し、それを形にするために必要な準備を整理する。


(……うん、大丈夫そう。えーっと、紙もペンもあるし……しばらくは作業に集中できそうかな)


 ――私の仕事は、本を作ることだ。

 鳥人族の特性を生かして大陸を飛び回り、色々な話を聞いたり地形を記憶してそれを文章や絵に落とし込んでいく。大変だけどやりがいのある仕事だ。

 ふと、飛んでいる彼の視線が私を見ている。その視線は、どうやら心配をしているらしい。


「心配してくれているんですか?」


 彼は頷く。おそらく私が忙しそうにして休む暇がないように見えるからだろう。

 彼を安心させるように私は笑顔を見せる。


「私が好きでやっていることですし、それにこれはきっと皆の役に立ってくれますから」


 ――鳥人族は頭が悪いと言われている。

 私も否定をする気はない。だが、それは向き不向きの話だ。私は自分の仲間の良いところをいくつも知っている。朗らかで争いを好まず、これだけ自由に空を飛べる種族は他にはいないだろう。

 でも、そんな彼らがいつか無知から危険に晒されたりすることもあるだろう。誰かの争いに巻き込まれるかもしれない


(その時のために、私が皆でも読んで分かる本を作ってあげるんだ)


 彼らは素直で呑み込みがいい。だから、本に書かれた分かりやすいことはちゃんと理解してくれるはずだ。私の愛する鳥人族が、いつまでも平和に過ごせるように書き残したい。

 それに、私が残した知識は鳥人族だけではなくて他の種族だって見ることが出来るだろう。その知識を知った人が鳥人族を助けてくれかもしれない。それに、外の色んな人たちが織りなす英雄譚や色々な人の考えや思いを聞くのは楽しい。


「だから心配しなくても大丈夫ですよ」


 だけど、彼はあまり信じてくれない目を向ける。


「……信じてませんね?」


 頷く彼に、何と説得するのがいいだろう?

 しかし、その答えが出る前に里に到着してしまった。


「今日もありがとうございました……ええっと、心配してくれるのは嬉しいです。心配をかけないようにしますから、またお願いしますね?」


 そういうと、彼は頷いて自分の里に帰っていく。

 ……「大空の風」である彼の心配も分かる。確かに、楽しいけど私も無理をしないように気を付けよう。


「それじゃあ、ゆっくり仕事に取り掛かりますか」


 今度は東と南の大陸に顔を出して、話を聞くことになっている。その日を楽しみにゆっくりと本を纏めよう。

 ――願わくば、この平和で忙しい日々が続きますように。



「大変だ賢翼! なぜか体が重くて飛べないんだ!」

「背負ってる荷物を降ろしなさい!」

「大変だ賢翼! 俺の家がない!」

「まず貴方は向こうの集落の鳥人でしょ!」」

「賢翼!」

「ああ、もう今度は何ですか!!」


 ……訂正。

 もうちょっと静かでいいです。


【とある制作秘話の記録】

【記憶の再生を終了します】

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― 新着の感想 ―
[一言] >「大変だ賢翼! なぜか体が重くて飛べないんだ!」 >「背負ってる荷物を降ろしなさい!」 >「大変だ賢翼! 俺の家がない!」 >「まず貴方は向こうの集落の鳥人でしょ!」  鳥人族の知能、も…
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