神々の記憶置き場#2
とある神の観測記録
□▲〇⊿.GBM
【とある巫女の悩みの記録】
【記憶を再生します】
東国への渡航を終わらせて帰ってきた私はいつものように歓迎パレードを終わらせて、ようやく自分が住んでいる城に到着した。
「……はぁ……疲れたぁ……」
いつも通り迎えてくれた皆には悪いけども、たまには静かに迎えてくれないだろうかとは思ってしまう
……ダメだろうなぁ……凄い悲しい顔をするだろうし。そして、執務室に入るとロクとサンが迎える
「お疲れ様でした、姉御!」
「だから、姉御って呼ぶのは辞めてって言ってるでしょ」
「すいません、姉御!」
「……はぁ。まあいいか。それじゃあ、溜まってる仕事を持ってきて」
「へい!」
姉御と呼ばれ始めてもう何年も経過したけども、いまだに慣れない。というか姉御と呼ばれたいわけじゃないんだけどなぁ。
北の大陸で暴れていた盗賊だったり犯罪者を見て、放っておけずに実力で分からせて気づけばいつの間にかこんな立場になってしまった。
……うん、どう考えても間違いなく原因は私ではあるんだけども。だけど、帰ってきて休む暇もなく仕事が待っている現状には心の底から間違っていると言いたい。
「姉御! こっちには西地区の住民からの要望です! 今度、新しい区画に家が欲しいとのことです。どうにも、住人が増えて家が無い奴が増えているらしいんで」
「それなら構わない。あの区画に公共施設を建てる予定はないから許可を出していいからそう伝えて」
「姉御! 最近、うちの国に住み始めた奴ら元から住んでる奴らで喧嘩が起きてます! どうにも、お互いの文化の違いが原因だとか!」
「詳しい話をお互いから聞き取ってきて。私がどう扱うかは判断するから。判断出来るまで、他の人達は手を出したらダメよ」
「姉御! 鬼人族の方々が酒盛りしてますぜ!」
「殴って止めてきて。遠慮しなくていいから。辞めないなら私が怒ってるって言って」
その後も住んでいる住人のトラブルだったり、突然起きた問題を聞き取っては指示を飛ばしていく。
……こんな事くらいは他に任せればいいんじゃないかと思うときもある。しかし、北大陸……というよりも、私の住んでいる地方には鬼人族や獣人族、馬人族などのような力が正義という価値観を持ちやすい種族が多く住んでいる。
つまり、根本的に一番強い奴の言葉には従うし、弱い奴の言葉には従わないと言う価値観が根付いているのだ。だから、この大陸で一番強いと言っても過言では無い私の判断が必要になってくる。
(はぁ、こういう時は本気で東国が羨ましい……毎回、行く度に文化の違いに感動しちゃうんだよなぁ……というか、せめて重鎮が殴り合わないような国がいい。ちゃんと実力関係なく、言葉で話せば分かってくれるだけでもいいから……)
心のなかでぼやきながら、指示を飛ばして不在の間に起きたことを確認する。
……一番気になったのは森人族の人たちが大切な祭りがあるとの事で、森に通じる道を封鎖しているらしいという話だ。一見すれば勝手にすれば良いと思うかもしれないが、この国は森の恵みに依存している。
時間の感覚が普通の人達と違う森人族がいつになれば解放してくれるのか分からなければ、このまま森の恵を取れないまま飢えてしまう人も出てくるだろう。
「……森の封鎖に関してだけど、話のできる森人はいる? 正直、このままだと問題になるはずだから今のうちに事情を把握しておきたいの」
「そういうことでしたら昔からの知り合いがいるんで、その森人に話を聞いて来ましょうか?」
「ええ。お願い。今はまだ大丈夫だろうけど、このまま森を封鎖が続いたら飢える人も出てくるし、冬を越えるための薪が足りなくなる危険があるもの」
「そりゃ大事ですね! 分かりました。それじゃあ急いで行ってきます!」
そう言って、部屋を飛び出していったロクを見送ってから息を吐く。
こういう時に、私の指示に迷いなく従ってくれる人ばかりなのは助かる……いや、そんな風に考えるのは毒されてきた気がする。
そうだ。元々はこんな風に国を治める立場になりたいと思って村を出たわけじゃ無いのに。
「はぁ、なんでこんなことになったんだろう」
『それはセツナが原因ではないか?』
「うるさい、神様」
脳裏に響く声に、そんな風に返事をするこれは私達、鬼人族を見守り加護を与えてくれる神様であるオ$グ#神の声だ。
『セツナのことは昔から知っているが、間違っていると思ったことは見過ごせない性格なのが原因だろう』
「……自覚してる」
私が小さい頃に巫女として覚醒したとき、神様の声が聞こえたのだ。
鬼人族には今まで信仰する神がいなかったらしく、私が巫女になったことで鬼人族の里は騒ぎになったものだ。
……そんな神様は、すっかり家族よりも長い時間を付き合ってきたので殆どもう一人の父親とでも言うべき存在になってしまったけども。なんなら、神様も最近は心配したお父さんみたいなことをよく言ってくるし。
『結局、最初の目的は未だに達成出来ないままになってしまったな』
「言わないで。まだ諦めてないんだから」
私が旅に出た目的はまだ達成されていない。
家族にも伝えていない、神様と私だけの秘密。それは――
「私だって普通に恋をしてみたいんだから」
そう、私は恋というものに憧れていた。
幼い頃から見ていた父さんとお母さんはとても仲が良かった。聞けば、元々は仲の悪い別の里に住んでいた二人が、大恋愛の末に結婚したらしい。だから、そんな恋愛というものに憧れがあったのだ。
『セツナが目的をすぐに達成出来るとは思っていなかったが……まさかそのまま王になるとは我も思わなかったな』
「私だって予想外だったよ……」
『これであれば、鬼人族の里で恋愛相手を探した方が良かったのではないか?』
「無理。正直言って、感性が合わないし」
鬼人族の里で、私も最初はドキドキするような相手を探したことはある。そして、すぐに断念してしまった。力が全ての価値観を持っている鬼人族の若い男なんていうのは、おバカな脳筋ばっかりだったからだ。
というわけで、恋をするために里を出て旅をしてみたのだが……私の感想は「もしかして、この地方ってバカしかいないんじゃ……」だった。
(……山賊だったり、海賊だったり、野盗だったり……なんで鬼人族の里を出たはずなのに力が全てを支配するような価値観ばっかりなんだってあの時は嘆いたなぁ)
そして、気づけばここの一帯を支配していた悪徳領主を打ち倒して私が国を治めることになったのだった。
……こういった、鬼人族らしくない部分も現状になってしまった原因の一つなのだろうけど。たまに悩んでしまうのだ。もっと素直に鬼人族に馴染めていれば楽だったのに。
「神様。私って本当に鬼人族だよね?」
『うむ、セツナは間違いなく鬼人族だ。神である我が保証しよう。確かにセツナは鬼人族としては変わり者だが、ちゃんと鬼人族らしい特徴を持っている。己の欲求に素直な辺りなどは特にだ』
「ぐっ……うう、否定できない」
……うん。考えて見れば鬼人族としての性質みたいなのが何度も問題を大きくしたのは確かだなぁ。
王にまでなってしまったのだって、自分の私腹を肥やして弱き者を虐げる奴が気に入らなかったから。そして戦いになれば血が上って楽しんでしまうのも鬼人族らしい特徴だ。
『ナナシとセツナの戦いでは、セツナも今までに無いほどに楽しんでいたからな』
「……それは、うん。正直に言って楽しくはあった」
ナナシと名乗ったあの人族は……まあ、正直に言って怪物だと思う。
私が今まで、誰にも受け止められないからと出すことの無かった本気を引き出してしまったのだから。と言うか分身したり何故か斬撃を飛ばしたり、魔法を正面から切り伏せるのはなんなんだろう。
「神様。ナナシって人はあの後、大丈夫だったかな?」
『中央大陸で吸血族との戦いを終わらせた男なのだ。あの程度で死ぬわけがあるまい。神々からも勇者と呼ばれて尊敬を集めるほどの存在なのだからな』
「そっか……それなら良かった」
アレに関しては、私の人生のやらかしでいうなら一番だった。
生まれてからずっと手加減を繰り返して、自分でも諦めていた本気を出しても良い相手。そんな状況に恵まれてしまった私は生まれて初めて鬼人族としての本能に呑まれるように戦い……地面を崩壊させてしまいナナシは海に消えていった。
いや、私ってあんなに強かったんだなぁ。地面ってこんなに簡単に壊れるんだなぁとか他人事のように思ってしまったものだ。ナナシとはもしまた出会えたら今度は本気で戦って決着をつけたい。
『まあ、ナナシはお前の婿候補だろう? なるべくは私も探してやりたいが手がかりもなくてな……』
「えっ? 婿候補」
『む? 何かおかしいことを言ったか?』
「……別にナナシはそういう対象には見てないんだけど?」
『何? しかし、お前は前に自分よりも強い男ではないと結婚しないと言っていたではないか。それであればナナシくらいしか候補がいないだろう?』
「それは、子供の頃の話でしょ!? いつの話してるの!?」
『……む、そうだったか?』
思わず大きな声を出してしまった。
いや、だって私が本当にまだ小さい里を出る前どころか、里の男の子でドキドキする相手を探してる時期の話だ。むしろ、そんなの忘れてるとばかり思っていた。
「そりゃ強い人は尊敬するし、好感は持つけど……強いだけの価値観が嫌だから里を出たんだからね!? もしかして、分かってなかったの!?」
『……ふむ、我はどうやら勘違いしていたようだな』
「道理で、神様にアドバイスを求めても何故かどこかの種族の英雄みたいな人とか腕自慢ばっかり紹介すると思った……」
『では、その方向性でセツナの婿候補を――』
「今更だから大丈夫。それに、もうこんな立場になっちゃったから普通の恋愛なんて出来ないって分かってるし」
そうぼやいて、思わずため息が出てしまった。
今の立場を考えれば恋愛どころか、結婚を視野に入れる必要がある。そして、その相手に関しても格を求められてしまうようになった。
つまり、私に自由な恋愛というのは夢のまた夢なのだ。というか、許されたとしても下手な相手と恋愛をすると、この国で私を敬愛してくれる何人かが問題を起こすであろう未来が見えてしまう。
『……お前には幸せになって貰いたいのだがな』
「ありがとう神様……でも、もうここまで来たら責任を持ってやり遂げるつもりだし仕方ないとは思ってるの……まあ、望むなら何か癒やしがあれば嬉しいかな」
『癒やしか……』
神様が悩んでいる気配を感じるが、私が癒される事と言えばモフモフとの触れあいだったりする。東大陸ではコオウさんを初めとしたモフモフな大きい獣さん達に包まれたりするのが癒やしだ
だから、モフモフがあれば十分かもしれない……ううん、何かモフモフなペットでも飼うべきなのかな……でも、この立場だとペットを飼うのも難しいし……。
「はぁ……まあ、諦めるか」
「まま! げんきだして!」
「へ?」
『む?』
突然、何か柔らかい感触を足下に感じ、かわいらしい子供の声が聞こえた。
驚く私は、自分の足下を見る。そこには、銀色の髪に宝石のような綺麗な緑色の目をした子供が私の足に抱きついていた。
「――!?」
――そして、その愛くるしさに衝撃を受けてしまう。
か、かわいい!
『セツナ、何者かを聞くべきだ』
「――はっ!? そ、そうですよね!?」
そして動揺する気持ちを抑えながら、努めて冷静に話しかける。
「はぁ……はぁ……えっと、あなたは……誰かな?」
「えっとね、%>□#〇っていうの!」
「えっ?」
「%>□#〇!」
「……エトラール?」
「えとらーる?」
聞き返すエトラールちゃんは、キョトンとした表情を見せている。
……ダメだ。今、可愛いというものに許容量があると知ってしまった。限界を迎えそうだ。
『……セツナ、落ち着いて聞いてほしい。その子は精霊のようだ。しかも、我ですら見たことのない珍しい精霊だ』
「精霊!?」
噂に聞いたことがある。人ならざる存在であり、持った物に大いなる力を与える意志を持った道具であると。
そして、その記憶を思い出しながらその子を見る。その子は私の視線を受けて小首をかしげる。
「うぐっ……!」
「まま、だいじょうぶ!?」
「だ、大丈夫」
疲れて癒やしの少ない渇いた心に、可愛さが染み渡ってくる。このままだと理性が壊れて猫かわいがりしてしまいそうだ。
――落ち着け、私。エトラールちゃんが可愛くても彼女の目的を知らなければならない。
「……えっと、エトラールちゃんって呼んで良い?」
「うん! えとらーる! わたし、えとらーる!」
「か、かわいすぎる……ごほん! それで、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「うん、なんでもきいて!」
「うう、可愛い……抱きしめたい……! それで、なんで私のところに来たのかな?」
そう。この子の目的次第では、私は国を率いる女王としての決断を下す必要すらある。この国を率いるという覚悟を持った以上は、もしも害すると言う目的ならばこんな可愛らしい子でも戦わなければならない。
……心の奥底で、冷たい氷のような冷静で残酷な決意を抱いてエトラールの言葉を待つ。
「えっと、えっとね」
「……」
「えとらーるね! ままに、しあわせになってもらうためにきたの!」
蕩けるような笑みを浮かべてそう宣言したエトラールちゃん。
……私の氷のような決意など、水すら蒸発して跡形も残らなくなった。
「神様、この子の面倒、私が見ますから!」
もはや、今求めている癒やしは彼女なのだろう。
覚悟の決まった私の脳裏に焦ったような神様の声が響く。
『セツナ!? ちょっと待て! さすがに早計だ! 事情を把握するから――』
「待ちません! エトラールちゃん、こっちに来てねー」
「うん!」
ニコニコと私に手を繋いで一緒に歩くエトラールちゃんを見ているだけで、悩みも何もかも吹っ飛んでしまった。
そして私は早速、彼女と過ごすための準備をするために各署に連絡を取るため部屋を飛び出したのだった。
『……とても困った』
【とある巫女の悩みの記録】
【記憶を終了します】




