表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

家族会議

 ダラスお兄ちゃんの暗い顔の意味が分かったのは、お兄ちゃんの結婚式の1ヶ月前。

 正確に言えば、新居へ引っ越す1か月前って事だ。


「あんた!どうして結婚を止めちゃったの?」

 マリアおばさんは仰天して、兎に角ファティマちゃんの同席で家族会議をとダラスお兄ちゃんに命令していた。


「来てくれるかどうか・・・・」なんてダラスお兄ちゃんは弱気だ。


「この際、向こうのご両親にも来てもらった方がいいんじゃないか?」とは、ホーメルおじさんだ。


 そういう事で、今夜、早めに店を閉めて、緊急会議が催される事になった。


 出席者はファティマちゃんとそのご両親。

 ダラスお兄ちゃんとおじさんとおばさん、リーブン君に私。

 そしていつの間にかパリスお兄ちゃんとそのお嫁さんまで家の居間にいたよ。


「こんな夜分にお呼び立てして申し訳ありません。昨日のよる、ダラスが結婚がご破算になったって言うもんですから、もう驚いてしまって。この子だと口ごもってはっきり言わないので、何が何やら。そちらの大事なお嬢さんにもご迷惑をお掛けしたんだろうと思うので、ここは家族全員で問題解決に当らせてもらおうかと思いまして・・・・」


 本来ならそういう話は形だけでもホーメルおじさんがする所、何故か最初からマリアおばさんが前面に出て来た。

 まぁ、良くある話だよね。

 話し合いが始まる前に奥さんが噛んで含める様に何を言わないといけないか、そして何を言っちゃいけないかを教え込んでも、実際のその場になると飛んでも無い事を言ったり、言わなくちゃいけないことを言わなかったりする世の夫たち。

 ホーメルおじさんも御多分に漏れず、そういう性質があり、今まで散々煮え湯を飲まされて来たマリアおばさんがのっけから自分が仕切る事にしたみたいだ。


 でも、向こうはちゃんと父親が矢面に立つみたいだ。

「この子の話を聞きますとね、結婚後も妹さんの世話をしたいとのことで、新婚なのに自分の子供でもない子を育てるというのは・・・・」


「「「「ええええ!」」」」

 私も一緒にふっとんじゃったよ。

 どこからそんな話が湧いて出た?

 私はダラスお兄ちゃんが私の事を気にしなくて良い様に、ここ数か月親離れを決行して来ていたじゃん?

 何故、今更?

 Why?

 ¿Por qué?


 わっかりましぇーーん。


 家族全員の目がダラスお兄ちゃんをハタと見つめた。


「・・・・」

「ちょっとあんたぁ、ちゃんと説明しなさいよぉ」とマリアおばさんが真っ先に焦れた。

「・・・・」

「今日は皆、仕事で疲れているのにお前の事を話すために集まったんだから、ちゃんと責任を持って説明しなさい」

「・・・・サーシャはお隣の子で、両親を亡くした時から僕が面倒を見てて、あっ、元々は母が家に受け入れているので、引き取ったのは父母なんですが、実際に育てたのは僕なんです。サーシャは幼い時からちょっと変わった子で・・・・変に大人の顔色を見て、我儘すら言わない事が多いんです。このくらいの年の子なら、もっと我儘言ったり、泣いたりが当たり前だと思うんだけど、サーシャはそういう事は殆どしないんです」

 ダラスお兄ちゃんはちょっと情けない様な表情をしたまま、じっと私の方を見つめた。


「僕でないと対応が難しい所があるんです。ここ数か月、サーシャも僕が居ない生活に慣れるため、こんなに小さいのに色々努力してくれてるんですが、どうしても心配なのと寂しくて・・・・。僕がいないと我儘一つ言えず、色んな事を我慢させてしまうのじゃないかって。だから結婚した後も一緒に暮らせばサーシャも子供らしく生活できるかな~と思い、ファティマさんには申し訳ないのですが同居が可能かどうか相談したんです。そしたら、それは無理だと言われまして・・・・・。もちろん、ファティマさんの意見は至極真っ当で、こちらが無理なお願いをしているのは分かっているのですが・・・・」


 ダラスお兄ちゃんの声は滅茶苦茶低く、そして小さかった。

 もうねぇ、折角の男前なのに、身も声も気配さえも最小限になる様にすぼめてて、これ以上叱るに叱れないって感じになっちゃってるんだよね。

 で、密かに壁際の目立たない所に座って居るパリスお兄ちゃんなんて、笑わない様にするために何かを必死にこらえてる感じなんだよね。本当にもぉ~、この人はぁ。


 向こうの家族は既に何日間もこのテーマについて話し合って来たらしく、それは無理というファイナルアンサーをお兄さんに突きつけたらしい。

 それを受けて、お兄さんは「申し訳ないけど、この話は無かった事に」と申し入れたらしい。

 

 マリアおばさんも、ホーメルおじさんも、もう呆れかえって「家の愚息が大変ご迷惑をお掛けしました。こんな事を言い出すとは家族の誰も思いもしなくて。もう、こういう甲斐性の無い奴なので、今回のお話は無かった事に。本当に申し訳ございません。お宅の様な素敵なお嬢様をウチのボンクラに付き合わせてしまい、本当に、本当に申し訳ございません。もし、結婚の準備で何かお金とか使っていらっしゃったら弁償しますので、お教え下さい。もちろん、それ以外にも御詫びとして何でも致しますので、どうかお許し下さい」と頭が土に埋まるぐらい深く下げて、結婚の話が流れてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ