ダラスお兄ちゃんの彼女
結論から言おう。
虫は居た!
それもとっても可愛い虫がっ!
一昨日、「父さん、母さん、紹介したい人がいるから、今度ここへ連れて来てもいいかな?」と、ダラスお兄ちゃんが宣わった。
私はこれと全く同じ台詞を一度聞いている。
そう、パリスお兄ちゃんが結婚を決めて、彼女さんをホーメルおじさんたちに紹介する時に言った台詞と一言一句同じなのだ。
ガーーーン!
私の心のパパンを取っちゃ嫌!
本当はそう言いたいのだが、中身のおばさん、そう、私は前世おばさんになるまで生きていたのだ。
そのおばさんが、もう6歳になってまで我儘言ったらいかんよと注意してくるのだ。
でも、事はダラスお兄ちゃんなんだよ。他のお兄ちゃんじゃないんだよ?
結婚したら家を出ちゃうかも知れないんだYO?
あう~。
私はとってもブルーになってしまい、ついつい昨日学校でマルクス君相手に愚痴ってしまった。
「ダラスおにいちゃんがけっこんちたら、サーシャはいっちょにいえをでりゅの?」
「およめしゃんとけっこんちたら、いえをでりゅのはダラスおにいちゃんひとりだけ・・・・」
「そう」と至極満足そうに言うマルクス君。
マルクス君、君が心配しているのは私と同じ学校へ通えるかどうかだけなのかね?
君の親友であるサーシャちゃんは、今、大好きなダラスお兄ちゃんと離れ離れになるのではと戦々恐々なのだが?
この時はこれだけの話で終わったのだけれど、マルクス君は帰宅してからタタお姉さんにダラスお兄ちゃんの事を話したみたい。
早速、彼女さんとの顔合わせには私達も呼ぶ様になんて要求を突き付けて来た。
実は、私、ダラスお兄ちゃんの虫、いえいえ、彼女さんの顔を知っているのだ。
だって、見てしまったんだもの・・・・。
役所からの帰り道、何度か可愛い女の子と手を繋いで家の近くまで一緒に帰って来ているのを。
ダラスお兄ちゃんは私がその子を見た事がないと思っているかもしれないけれど、店の方じゃくて家の台所の窓からならチラっと見えた事が何度かあるんだよね。
普通なら男性が女性を家まで送って行くのが普通なんだけど、ダラスお兄ちゃんには面倒を見なければいけない私というコブが居るもんね。
少しでも帰宅が遅れ様ものなら、私がグズる事を知っているからね。
だから本来、ダラスお兄ちゃんが彼女さんを家まで送って行く所を、彼女さんと一緒に家の店まで帰っているみたい。
彼女さんはちょっとたれ目な可愛らしい女の子だ。
女の子がダラスお兄ちゃんを見上げる顔も愛らしく、彼女を見つめるダラスお兄ちゃんの瞳はとても優しい。
そして二人の周りは恋愛中で楽しくてしかたがないカップルが持つ独特の雰囲気があった。
結局、今夜、お店を早めに閉めて家人はダラスお兄ちゃんの彼女さんを待っている中、何故かタタお姉さんとマルクス家のその他のお姉さんまで、家の居間にデデーンと座っていらっしゃる。
みんなダラスお兄ちゃんの彼女さんがどんな娘なのか興味津々なのだ。
お兄ちゃんは腐ってもこの辺りでは結婚するのに一番優良株と目されているものね、彼女さんが良い人でないと承知しないよ的な雰囲気が醸し出されているのだ。
で、彼女さんが白いワンピースを着て、手土産を持ってダラスお兄ちゃんと一緒に家に来ちゃいました。
マリアおばさんは張り切って色んなカットフルーツを綺麗に並べたお皿と、普段は飲まない高級なお茶を用意して待っていた。
「まぁまぁまぁまぁ、こんな可愛らしいお嬢さんがウチのダラスとお付き合いして下さっているのかしら」
そう言われてファティマと言う娘さんは顔を真っ赤にしつつも、ちゃんとマリアおばさんたちに挨拶をした。
もう、私はお先真っ暗な気持ちだった。
ダラスお兄ちゃんの彼女がちゃんと躾をされていて、親から可愛がられて育っただろう事や、とても良い娘である事は私の中身の人が太鼓判を押しているのが、また腹立たしい。
お兄ちゃんの人を見る目は確かってことなんだから、喜ばないといけないんだけどね・・・・。
そんなお嬢さんだったから、おじさんもおばさんも二人が結婚を前提に付き合う事に大賛成だった。
今すぐに結婚ではないだろうけど、後1年もすればダラスお兄ちゃんは家を出て、彼女と所帯を持つのだろうなぁ。
私はこの家に残り、もうダラスお兄ちゃんとは滅多に会わなくなるのだろう・・・・。
心の中はブリザードが吹き荒れていた。




