噛み合わないものを恋と呼ぶならば
全てが嫌になっていた。
自分の存在も世の中の仕組みにも
なにもかもから目を背けたくなっていた。
自分はこんな毎日を過ごし意味があるのか。
自分にはいつ幸せがやってくるんだろうか。
と、夕暮れの公園のベンチに腰かけながら
そんなことをずっと思っていた。
元気だなぁ、あれはきっと小学生だ。
友達と無邪気にサッカーか。
いいなぁ、頭の中は今の楽しさでいっぱいだろうな。
歳を重ねるにつれ、色々考えなきゃいけないことが
増えていくから、いいなぁ小学生は。
そんな小学生は絶望に立たされていた社会人の僕の
姿など見向きもせず、サッカーに夢中だった。
見なくていいさ、こんな姿を見たら今サッカーで
楽しい小学生の気持ちに曇りがかかってしまう。
そう思い、小学生たちから少し離れたベンチに
僕は腰かけ、何度もため息をついていた。
そのため息の中には、日頃のストレスが凝縮され
ひといき、ひといきにとても重さを感じた。
僕が再び鬱な気持ちに包まれていると
突然、学生が話しかけてきた。
おそらく高校2年生の男子だろう。
制服の汚れや破れからして、そう推測した。
髪はボサボサで、制服のボタンはところどころしか
しておらず、なんというか素っ気ない子だった。
「あのー、初対面でいきなりなんだ、と思うかもしれないんですけど、。」
と、かすかに震えた声で僕に話しかけてきた。
「ん?どうしたんだい?まぁ隣座りなよ。」
僕はその少年が若干疲れているようにも見えたので
隣にスペースを空け、少年を座らせてあげながら
そう返した。すると少年は
「ありがとうございます、あのー、いきなりで本当に申し訳ないのですが、恋愛相談してもいいですか?」
なんてことを言い出すものだから、僕は驚いた。
こんな絶望に満ち溢れている社会人に恋愛相談。
と思ったが、これもなにかの縁だなと感じたので
「恋愛相談か。いいよ、力になれる回答ができるかどうかはわからないけど、乗るよ。」
と言ったら少年は
「ありがとうございます!」と律儀にお礼をした。
素っ気ないなと思っていたその少年は
とても礼儀正しかった。とても立派だ。
もしかしたら僕より大人かもしれないな。
と思いながら僕は恋愛相談に乗ってあげた。
実は僕は恋愛相談なんか初めてだったから
何を話せばいいかなんか、これっぽっちも分からず
考えに考えた結果、自分の過去の恋愛を語り
そこから何か答えを導き出そうと思った。
とは言っても、1年間付き合ったことがあるだけの
過去しか、僕には語れるものがなかったんだけどね。
今僕は30。あれは今から6年前のこと。24歳の話。
僕は前の職場で知り合った女性と付き合った。
両思いだったので、まるで漫画のような付き合いの
始め方だったのを、今でもはっきり覚えている。
最初の2ヶ月くらいは、毎週金曜日にお互いあえて
残業をしていた。
夜の8時くらいにお互い切り上げて退社し
一旦家に帰り、僕が彼女が住むアパートまで車で
彼女を迎えに行き、ファミレスでゆったりと
お腹を満たした後、彼女のアパートでお互い
ゆっくりのんびり過ごす、お泊まりデートみたいな
やつをしていたんだ。
ふたりともインドア派でね、動物園とか遊園地とかが
そんなに好きじゃなかったんだ。
だからどこか外に出てデートするなら
ショッピングモールとかだった。
だけど付き合って行くにつれて、インドアデート
しかしないと、お互いの心の中に窮屈という
感情が生まれてきてしまったんだ。
せっかく付き合ったからには楽しみたいものだ。
その感情はその当時はお互い一緒だった。
なので付き合って3ヶ月目あたりから
避けていた動物園や遊園地などのアウトドアな
デートもしていくようになったんだけど。
ここからお互いの関係に亀裂が入り始めたんだ。
今までインドアだった彼女はアウトドアデートを
していくたびに、徐々にアウトドアの楽しさを
知っていき、やがてアウトドア派にまでなったんだ。
それがどうにも僕には嬉しくなかった。
僕は頑張って動物園や遊園地だけではなく
水族館や観光地巡りなどアウトドアの楽しさを
なんとか知ろうと、アウトドアデートを増やした。
けれどやっぱり外は疲れ果ててしまって
やがて彼女がひとり楽しんでいるだけになったんだ。
今思えば、彼女が幸せなだけでも良いって思える。
けれど、あの頃の俺はなぜか自分も楽しまなきゃ
意味がないと頑なに思っていた。
その結果、ショッピングモールや映画館など
インドアデートも再び増やしていくようにした。
そしたら彼女が日に日に不機嫌になっていった。
「もうここのショッピングモール何回も来たし、映画館暗くて嫌だわ、外の光を浴びて楽しむのがデートなのに、あなた何もわかっていないじゃない。」
なんてついに言い出したんだ。
僕はそれにカチーンときてしまってすぐに
「わかっていないのは君の方だ!こっちは外ばかりのデートで、もううんざりなんだ!作り笑顔してるくらい察してくれてもいいじゃないか!」
と思い切り言い返してしまった。
そしたら彼女は泣き出してショッピングモールを
飛び出していってしまったんだ。
それもそうか、普段僕は彼女の前では自分を偽り
優しい彼氏を頑張って演じていたんだもの。
そんな優しい彼氏からあんな反論が出たら
泣くだろう、と思いながら僕は彼女を追いかけた。
あの時はなんとか彼女を慰めて、引き続き
ショッピングモールデートをして解散した。
けれどこの頃、今思えばもう関係性の亀裂は
半分以上入っていたと思う。
付き合いが進むにつれ、お互い悪口や嫌味だけで
会話するようになっていった。
人は、付き合い当初の幸せから学ぶのって
相当難しいんだろう、と今思っている。
お互い別れようってなったきっかけは
別れる1週間前に行ったテーマパークデート。
彼女はアウトドアデートになると
まるで、誰かに取り憑かれたように上機嫌になる。
だけどその日の彼女の瞳には、明るさがいつもより
欠けていたと、今振り返って僕は思う。
僕は相変わらずアウトドアが苦痛で仕方がなかった。
だけど、僕の不機嫌も明るい笑い声でかき消すくらい
彼女はご機嫌で、お菓子などを頬張りながら歩き
いろいろな乗り物を楽しんでいた。
待ち時間は鼻歌を歌いながら軽快に小さく
踊ったりしながら待っていた。
今思うと、別人とデートしていたみたいだ。
だけど確かにあれは彼女、キャラクターが描かれた
カチューシャは、彼女によく似合っていた。
そのカチューシャ姿の可愛い彼女を見るたびに
なぜか僕の不機嫌さは少し薄れていった。
やっぱり、どこかでまだ彼女を愛していたのだろう。
そんなこんなで、テーマパークデートもなんとか
終わった、僕はクタクタで倒れそうだった。
帰りの手段が電車で本当によかったと今でも思う。
もし、帰りが車だったら僕は気が狂っていただろう。
彼女は助手席で爆睡間違いなかったし
案の定、彼女は電車でも爆睡していたから
本当に帰りの手段が電車ということに
大きく救われたと今でも僕は思う。
そのテーマパークのデートの後、お互いはいつもの
日常に戻り、エスカレートした嫌味で会話していた。
そしてとうとう関係性全てに亀裂が入り
テーマパークデートから1週間後に
僕と彼女は別れた。
1年という付き合いに幕を閉じたのだ。
それが彼女との最後のデートだ。
だけど、いろいろ振り返ってみて
彼女は幸せだった方だとは勝手ながらに思っている。
アウトドアデートはものすごく回数を増やして
ショッピングモールや外食
そしてテーマパークで買ってあげたお土産など。
彼女にいろいろ買ってあげたつもりだった。
もう別れて以来、彼女とは出会っていない。
数日前、彼女が住んでいたアパートの前を
外仕事のルート上にあったものだから通ったんだけど
彼女が住んでいた部屋の表札は変わっていた。
おそらく、新しい彼氏ができたのだろう。
今でもたまに彼女のことを思い出しては
幸せにやっているかい?なんて思ってしまうんだ。
やっぱり、まだ愛してはいるみたいだ。
これが僕が語れる唯一の恋愛の過去話だ。
「いいかい?もし噛み合わないものを恋と呼ぶならば。僕は恋をすることができていたんだ。だけど本当の恋や愛は、お互いを尊重した上で成り立つものだと僕は思うんだ。だから少年、今彼女との関係が危ういなら、とにかくお互いを尊重しあえばなんとかなるんじゃないのかな?まぁ、こんな僕みたいな恋にならないよう、気をつけてこの先の恋愛に励んでくれ。」
と、恋愛相談をまとめて締めくくった。
少年は律儀に何度もお礼をし、深々と頭を下げて
笑みを浮かべながら走って去っていった。
僕は少し鬱な気持ちから解放されていた気がした。
腰かけていたベンチから立ち上がり
僕は、あの日初めて彼女と食事をした
ファミレスに6年ぶりに行ってみることにした。
なぜなら今日は金曜、なにかあるのかもしれない。
という余計な感情さえも抱えながら
日が沈みかけている街中へと歩みを進めていった。




