二人の王(皇)女は手を取り合う
私はシスティ・クラウン。
小国、クラウン王国の第二王女である。
システィとして生を受け、16年が経過した。
16歳の私の見た目は、腰辺りまで伸びた琥珀色の髪に、真ん丸な金眼。
といった感じで、正直、我ながら整った容姿だと思う。
今から3か月前のこと。
クラウン王国の隣にある大国、フェルディア帝国に交渉のため赴いた際、私は帝国の第一皇女、クラリス・フェルディアと出会った。
彼女は私より一つ上の17歳で、水色がかった銀髪を胸元辺りで切りそろえ、右側の一房を三つ編みにした碧眼の美少女だ。
最初にお茶会を誘われたときは、表情の硬さと視線の鋭さから、少し怖いと思っていたが。
話してみると全然怖くなく、むしろ可愛いとさえ思うほどだ。
お互い似た境遇から私たちは意気投合し、知り合って間もないが、今ではとても仲のいい友達と言っていいだろう。
私は今、帝国の最東端にあるクラリスの別荘から、更に東にあるクラウン王国に帰るところだ。
日暮れ頃、豪奢な庭園が見える中、屋敷の正門前で私が馬車に乗ろうとしたときに、妙な魔力を感じた。
魔力はこの世界の生物ならどのような存在でも有している。
だが、感じた魔力は他とは異なり、不気味に感じがした。
得体のしれない、どこまでも暗い闇のような、そんな気配。
「なにかしら?」
違和感に、私はボソッと口を開く。
「システィ、どうかしましたか?」
声が聞こえたのか、正門のそばで立っていたクラリスが不思議そうに尋ねてくる。
「いや、どこか違和感があると言うか……」
私はよくわからず曖昧に答える。
周りを見ても何もない。
屋敷があり、夕焼けに彩られた綺麗な庭園があり、目の前には帰るための馬車がある。
気のせいかも──そう言いかけた時、屋敷の中から突如として、黒いローブを着た壮年の男が現れた。
杖を持った、白髪で細身の男は、なんの前触れもなく屋敷の正面玄関を抜けて歩いてくる。
「ふむ、屋敷の中にいないと思ったら、こんなところに居たとは」
突如現れた不気味な男に驚いて、屋敷の方を見る。
「貴方は誰ですか⁉ どうして屋敷から?」
クラリスは男に疑問をぶつける。
すると男は立ち止まって、仰々しく礼をする。
「我が名はエルニル。クラリス・フェルディア第一皇女、そなたの命を奪いに来た……のだが、まさか屋敷の外にいるとは、想定外だ」
「「は……?」」
私とクラリスは同時に声を漏らした。
「屋敷のみんなは⁉」
クラリスが再び問いかける。
「眠ってもらった。あぁ、命を奪ってはいない、使えるからな」
何に⁉
と、思ったが声には出さない。
そんなことを言える雰囲気ではなかった。
エルニルと名乗った男はとんでもないことを言いながらも、あくまで自然とこちらに近づいてくる。
私は馬車に乗ろうとしていたのをやめて、クラリスの前まで行って守るように立つ。
「システィ?」
「クラリスに近づかないで」
依然として近づいてくる男に、私は瞬時に光の剣を魔法で作り構える。
あいつは危険な感じだ。
まだ距離があるとはいえ、油断できない。
それに、クラリスは魔法が使えない。
「ふむ、我と戦うつもりか?」
エルニルは足を止め、手に持つ杖を構えて問いかける。
「えぇ、やられる前にやるわ」
私は間髪入れずに踏み込んだ。
「システィ待って!」
クラリスが止めようとするが、すでに遅い。
私は光系統の魔力を使い、身体能力を引き上げる。
足に魔力を集中させての踏み込みは、まるで閃光のように一瞬のことで。
男に肉薄する。
「ほう⁉」
エルニルは驚いた様子を見せた。
足に集中させていた魔力を、今度は剣と腕に集中させ。
そして斬る!
「ふっ……!」
息を吐き、右手に持つ光の剣を、力いっぱい左から右へ居合切りのように。
ガキィンッ!!!
しかし杖によって、間一髪で防がれてしまった。
「魔力をあまり感じないというのに、なんという速さだ、クラウン王国の第二王女よ」
「なぜ私のことを?」
鍔迫り合いのようになりながら、私は問いかける。
「奇抜で予想外の発想から、時代を進歩させた神童として有名だったからな」
「そう……!」
吐き捨てるように言いながら、力押しで剣を振り抜く。
「ぐ……」
エルニルがたじろいだ。
「今!」
私はそう言いながら、剣に魔力を一点集中させて、突き出した。
突きに合わせて魔力を爆発させる。
ズガァァァン!
「ふむ、危なかった」
「なッ⁉」
しかし、隙を狙った一撃は一切効いていなかった。
切っ先辺りには、もやのような、濃い闇色の魔力が盾として展開されていた。
数瞬の後、盾は消えたが、闇色の煙のように残留する魔力が周囲に広がり、ぶわっと一気に覆う。
「な、に……これ?」
クラリスが平静を装いながら、周囲に広がる不気味な魔力に対し疑問を口にする。
「見たことないかね? 闇系統の魔法は」
クラリスの問いに答えながら、エルニルは杖を地面に打ち付ける。
カンっと音が鳴ると、私やクラリスを囲うように、周囲からカタカタと骨の大群が地面から這い上がってくる。
「なんて数よ……」
あまりの数に、驚愕してしまった。
「ふふふ、どうだね? これが闇系統の魔法だ」
エルニルが口角を吊り上げながら手を広げる。
私は、続々と現れる骸骨兵に視線を向けた後、瞳を閉じる。
「どうした、流石の数に絶望したか?」
「絶望? 確かに驚いたけど、まだ私は本気を出していないわ」
「強がりを、お主の魔力じゃさっきの攻撃が限界だろう?」
「気づいてないんだ。じゃあ、見せてあげる」
私は笑ってみせた。
内に封じていた魔力を解放する。
周囲に黄金色の魔力が放出される。
髪がふわふわと揺らぎ、毛先の方が魔力の影響で金色に変化している。
数瞬後、見た目にも変化が起きた。
放出された魔力が、霧散せず私の周囲に留まり鎧となる。
魔法使いの境地の一つ、魔装である。
魔装とは、魔力を術式を通し魔法として扱わず、本来なら霧散する魔力そのものを鎧として具現化させ、人によって様々な恩恵を与えてくれる武具である。
一定以上の魔力量がないと使えない。
『魔装:ヴァルキュリア』
高密度の魔力は、純白のドレスと黄金の鎧が合わさった、煌びやかで華やかなドレスアーマーに。
頭にはティアラが載っている。
光の剣は黄金の光を放ち、少しずつ暗くなる周囲を煌々と照らしている。
私の魔装の恩恵は、主に身体能力の大幅強化にダメージの軽減。
更には怪我の自動治癒が、魔装発動中に恩恵として常時発動される。
「まさか、これほどとは……」
骨の軍勢が周囲を覆う中、天を裂く光は闇の魔力を跳ね除ける。
圧倒的な開放前と後の魔力の差に、勢いを削がれたエルニル。
しかし、それでも薄気味悪い笑みを浮かべながら魔法を展開している。
「魔装を展開しようが、この圧倒的な数を相手に、皇女を守りながらいつまで戦える」
「確かに数は多い。でも、関係ない!」
私は魔力を全身に浸透させて、駆けた。
その瞬間、周囲が夜空の星々を映すように煌いた。
ズガガガガンッ!!!
それは一瞬のこと。
私は千になろうかという骸骨兵を、閃光のごとく一瞬にして、全て切り裂いたのだ。
重力に引かれる流星のように、されど燃え尽きることなく。
さっと元いた場所に着地し、エルニルの方を見ると、余りの光景に唖然としていた。
されど男は不気味に笑う。
「フッ、フハハハハ! まさかここまであっさりやられるとは!」
「何が可笑しいと言うの?」
不気味に笑うエルニルに、私は警戒心を強めながら問いかける。
「あぁ、私が生きてきた中で、これほどまでに圧倒的な強者はいなかった!」
「だから?」
「やっと、私も本気を出せるというもの。感謝しようクラウン王国の第二王女、システィ・クラウン!」
「あれほどの魔法を使って、まだ本気じゃない?」
千に届きうる数の骸骨兵を召喚しておいて、と驚く私にエルニルは続ける。
「最近は相手にならない者ばかりだったからな、正直嬉しく思っている」
「そう……」
正直喜ばれても全く嬉しくない。
「だが時間はあまりない、目的はあくまで依り代たる皇女の命だからな」
「依り代?」
「あぁ、そうだ。我らが神が降臨なさるためのな!」
そう言ったエルニルは両手を広げ、天を仰いだ。
あたりの空気が張り詰める。
「な……⁉」
次の瞬間、周囲が闇に包まれた。
光さえ覆う強大は闇色の魔力が、エルニル周辺に展開される。
『魔装:デス・ネクロゾーマ』
着ていた黒ローブは、更に深く、禍々しい漆黒のローブになり、杖も気付けば戦斧になっていた。
「来たれ!」
戦斧を今一度、地面に打ち付ける。
すると今度はさっきの比ではない数の骸骨が現れた。
しかも骸骨の竜、スカル・ドラゴンも三体、地面から這い上がってくる。
「さっきより、多い……⁉」
「もっと遊んでいたいが、さっきも言った通り今回の目的は、あくまでもクラリス皇女なのでな」
「でも、私がいる限り、クラリスには指一本触れさせないわ!」
先手必勝! 私は光の剣を天へと掲げる。
宙に煌々と輝く五本の光の剣が、瞬時に展開され、私の周りを旋回する。
「行け!」
宙に浮く光剣を、私は骸骨竜と骸骨兵に向け放とうとする。しかし━━
「させるものか」
「……⁉」
重力を感じさせない動きで瞬時に私に接近したエルニルが、漆黒の戦斧を振り下ろす。
ズガァァァン!
「くっ! うぅ……」
手に持つ光剣を横に構えて間一髪で防いだが、衝撃で地面が少し陥没する。
重い……! 魔装をしていなかったら今頃、腕の骨が粉々に折れていただろう。
「まだ終わってないぞ!」
エルニルは戦斧を振り抜く。
勢いに負け数歩後ろに下がってしまう。
「マズッ……なら!」
システィは宙に展開した光剣を二本、囮としてエルニルに差し向ける。
「無駄なことを」
エルニルは戦斧振り抜き、光剣を叩き伏せる。
「無駄じゃない!」
できた一瞬の隙に、残った三本の光剣で空に舞う骸骨竜を打ち落とす。
態勢も立て直し、私はエルニルに向かって踏み込む。
ガアァァン!
黄金の剣と漆黒の戦斧がぶつかり合う。
お互いの武器に込められた魔力がぶつかり合い、衝撃波となって周囲の空気を揺らす。
「立ち向かってくるか。だが、いいのか?」
「なにが⁉」
「キャー!」
直後に悲鳴が聞こえた。
「⁉」
後ろを振り返る。
そこには正門付近に隠れていたクラリスが、骸骨に襲われそうになっていた。
「くっ、させない……はぁッ!」
魔力の出力を引き上げる。
強力過ぎる身体強化で体が悲鳴をあげるが、自動治癒があるので関係ない!
「ぐっ……」
エルニルを力任せに押しのけ、クラリスの元に駆ける。
煌く閃光が、一瞬にしてクラリスの周りの骸骨兵を切り刻む。
クラリスの近くへ行き、安心させるために微笑みかける。
「もう大丈夫」
腰が抜けたのか、力なく地面に座り込むクラリス。
「システィ……」
クラリスが申し訳なさそうに俯く。
「やはり行ったな。だが、その隙が命取りだ」
私がクラリスの元へ行った隙に、エルニルは戦斧を構え魔力を貯めていた。
「システィ、私のことはいいから、早く逃げて!」
クラリスがそんなことを言ってくる。
でも私は……
「私は、逃げないよ」
私はクラリスに言って、エルニルの大技を迎え撃つために一歩前に進む。
そして光の剣に全魔力を集める。
「なんで、貴女はこんな私の──」
「友達だから!」
クラリスが何かを言いかけていたが、わざと遮った。
「クラリスは、私の唯一の大切な友達だから」
「そんな、理由で……」
クラリスは悲しそうな、複雑な表情をしている。
クラリスの綺麗な碧の瞳には、涙が浮かんでいた。
「別れは済んだか?」
私はクラリスにもう一度微笑みかけ、前を向く。
「その一撃を打ち砕き、私はお前を倒す!」
その台詞を聞いたエルニルは鼻で笑う。
「それは、生き残ってから言ってほしいものだ」
魔力が凝縮された、光すら吸い込む漆黒の戦斧をエルニルは今一度構える。
私は魔法でクラリスの周りに、光輝く半透明の結界を展開し、魔力の出力を更に、限界まで引き出す。
「ッ……⁉ ゴホッ、ゲホッ……」
魔力の負荷に自動治癒が間に合わず、血を吐く。
けれど、それでも!
「まだ、まだ足りない……!」
私は更に、魔力で身体能力を引き上げ、迎え撃つために剣を上段に構える。
光の剣は高密度の魔力と共鳴して、周囲に黄金の波動を放っている。
「これで、終わりだ」
エルニルは戦斧を振り下ろす。
放たれる漆黒の魔力の波動。
地面を抉りながら迫りくる闇色の塊に対し、私は構えた剣を全力で振り下ろす。
「はあぁぁあぁぁぁあ!!!」
ドォォォンッ!!!!!
漆黒の波動と黄金の剣閃ぶつかり合う。
「ぐぅ……」
あまりの威力に一歩、二歩と圧される。
「で、も! う、おぉぉおああぁぁぁ!」
一際、まぶしく光った。
闇を裂く光は、裂帛の気合と共に漆黒の波動を縦に二つに切り裂いた。
◇
私はクラリス・フェルディア。
フェルディア帝国の第一皇女です。
私は二カ月とちょっと前に出会ったクラウン王国の第二王女、今では私の大切な友達、システィ・クラウンと、親睦を深めるためにお泊り会をしていました。
今日はシスティを見送って、クラウン王国に行く準備をしようとしていたのです。
しかし、襲撃者が現れ、戦えない私に代わってシスティが戦いました。
「ッ……ハァ、ハァ……」
今、私の目の前で、敵の大技を切り裂いたシスティが、地面に座り込んでしまっています。
私にはそんなことできません。
私も戦いたいのに、システィにだけ無理をさせたくないのに……
私は今、彼女が作った結界の中に居ます……
どうして私は何もできないのでしょうか。
助けたいのに何もできない、そんな自分が情けなくて仕方ありません。
「ふむ、私の大技を切るとは天晴だが、これは危険だな」
エルニルと名乗った不気味な男は、戦斧を持ってシスティの前まで歩いてきました。
「ハァ、ハァ……なんでお前は、反動がないのよ……!」
システィがエルニルに対して恨み言を言っています。
「それは私が、不死の身体だからだ。それ故、反動なんてものはない」
システィが驚いたような反応をしていますが、どうやら無理をしたせいで動けないようです。
「システィ・クラウン、貴殿にはここで死んでもらう。その力は危険だ、それに光系統の魔力の者は不死者にも依り代にもならんからな」
そう言ったエルニルは戦斧を振り上げています。
「だめ……」
白い半透明の結界に手をついて、私は声を漏らす。
でも声は震えていた。
システィがこちらを見て、微笑んでくる。
「どうして……」
エルニルが戦斧を振り下ろそうとしています。
私は、まるで世界が遅くなったような錯覚を覚えました。
嫌だ……
自分が死ぬよりも、貴女が居なくなるのが……
嫌だ……!
「やめてー!」
悲鳴のような声と共に、結界を破壊して世界を凍らせる。
ガァァァン……!
「な、ん、だと⁉ 氷?」
エルニルは驚愕に目を見開いた。
突如、システィとエルニルを隔てるように、分厚い氷の壁が出来上がっていたのだ。
周囲の、屋敷全体を凍らせた魔力は、システィ以外を凍らせて──
青みがかった銀色の魔力は、私の周囲を漂って、形を成してゆく。
碧が混じった純白の、豪奢なドレスになり。
透き通るような水色の鎧がその上に重なる。
気づけば、私の頭の上には氷の王冠が載っていた。
そして、私の腰辺りまである氷の剣が、まるでおとぎ話の聖剣のように、目の前の地面に刺さって現れた。
『魔装:アイス・オブ・エンプレス』
「クラリス……」
システィがこちらをビックリしたように見ていた。
「私は、貴女のために、この剣を振るう!」
氷剣を両手で握り、思いっきりそれを引き抜いた。
その影響で更に周囲の気温が下がる。
エルニルが、氷の壁を破壊するために、ゆったりと戦斧を振るおうとしている。
まただ、また世界が遅くなったような感覚……
いや、時間の進みが遅くなったような……不思議だ。
私は、完全に静寂した世界でエルニルに向けて歩む。
地を踏むたび、地面が凍る。
システィの横に立ち、未だにゆったりと動く男の腹を氷剣で叩く。
ガァァァン!
「ぐぁ……⁉」
「え? 転移⁉ いつの間に……?」
システィは首を傾げて、まるで私が突然現れたかのように不思議がっている。
私は歩いてきたのに。
エルニルは衝撃で後方に吹き飛び、屋敷の壁にめり込んでいる。
しかし、システィは依然、私の方を見ている。
「システィ、大丈夫ですか?」
私はしゃがみ込んでシスティの顔を覗き見る。
彼女はボロボロだった。
「私は、大丈夫だよ。それよりクラリス、魔法、使えるようになったんだね」
「あ……」
今、気づいた。
システィ以外のことは何も考えていなかった。
それに、あまりに自然に使えていたせいで、今まで魔法が使えないことを忘れていた。
「そう、ですね……!」
私は助けられたことが嬉しくて、自然と笑みが零れた。
「皇女が覚醒するなんて……!」
二人で笑いあっていると、エルニルが怒気を孕んだ声をこぼしていた。
「ここは私が!」
私は傷ついたシスティの前に出る。
「私もすぐに、クッ……!」
システィが立とうとして片膝をつく。
「システィ……!」
私はシスティの元に駆け寄る。
「さっきも言ったけど、私なら大丈夫だよ」
システィはニコッと笑う。
でも彼女の顔色は悪い。
「……本当のことを言ってください!」
無理させないために、敢えてきつく聞いた。
「うっ……実は、ちょっと辛い……でも魔力があれば回復できるよ!」
彼女は正直に言ってくれた。
「魔力があれば、回復出来るのですか……?」
私はシスティに問いかける。
「えぇ。ただその魔力も尽き欠けで、魔装を維持するのが限界だけど」
魔力……それなら──
「なら……失礼、しますね」
そう言って私は、システィの唇に口づけ、魔力を流して渡した。
システィの驚いた顔が間近に映る。
唇の柔らかい感触と、一瞬の静寂。
魔力を口づけで渡した数瞬の後、周囲が今一度、光に包まれた。
システィの綺麗な琥珀色の髪が、今は完全に黄金色に変化していて。
服や髪が魔力の影響でふわふわと漂い、怪我もみるみるうちに治ってゆく。
羞恥か、嬉しさか、胸の鼓動がドキドキとうるさいくらいに高鳴っている。
私はそっと離れて、唇に人差し指を添える。
「えっと、その……一応、はじめてですからね……」
「え……? え、えぇ……⁉」
システィは耳まで真っ赤にしながら、手の甲で口を押えてへたり込んでいる。
そんな彼女に、私は微笑みながら問いかける。
「魔力は、回復しましたか……?」
「え…………ッ! かっ、回復した。回復したよ!」
システィの声が裏返っていて、彼女の動揺がありありと伝わってくる。
「そう、ですか」
その反応に可愛いなと思いながら、私もつい顔を逸らしてしまう。
世界が静寂に包まれる。
「もういいか?」
気まずい空気を壊すように、エルニルが真顔で問いかける。
「えぇ! 待たせたわね!」
システィは取り繕うように立ち上がり応える。
元気になってよかった。
「なら、今度こそ終わらせよう」
エルニルは戦斧をカンっと地面に打ち付けた。
瞬間、エルニルの周囲に千に迫るだろう大量の骨の軍勢が、また現れる。
「システィ、一緒に戦いましょう」
私はシスティに提案する。
彼女の隣に立ちたい。そう思いながら。
するとシスティは━━
「うん! もちろん! 二人であいつを倒そう!」
嬉しそうに頷いた。
「例え二人になったところで変わらん。行け!」
エルニルは骨の軍勢に指示を出す。
私はシスティの一歩前に出て、氷の剣を地面に突き刺す。
キィィィン!
すると、骨の軍勢は一瞬ですべて氷に覆われた。
「なんだと⁉」
苦虫を噛み潰したような顔をするエルニル。
「システィ!」
「任せて!」
私はシスティに呼びかける。
するとシスティは閃光のように駆けた。
ズガガガガン!!!
さっきまでの怪我を感じさせないほど一瞬で、骨の軍勢を切り伏せた。
「クラリス!」
システィが私を呼んでいる。
私は得も言われぬ感動を覚えながらも、時間の凍った世界を走り、エルニルに向かって剣を構える。
今なら分かる。私の魔装の恩恵は、時間さえも凍らせ、止める能力。
「はぁぁあぁぁぁ!」
剣を上段に構えて、魔力を注ぐ。
氷の剣は徐々に大きく、巨大になり、身長の数倍はあろう大きさになった。
色も気が付けば黄金に染まっている。
システィとキスを、した影響だろうか。
黄金に輝く氷剣を、エルニルに向かって振り下ろす。
「グオォォォ!」
光輝く氷の大剣が、エルニルを飲み込む。
触れた途端、身体が闇色のもやのようになり、霧散する。
そして、霧散する魔力が、浄化されるように白く雪のようになり消えてゆく。
闇が消え、男が消滅し、静寂が辺りを支配した。
「終わった、の?」
システィが問いかける。
「終わった、みたいです」
私は応えた。
私とシスティはお互いを見つめ。
そして、互いに笑いあった。
初めてなので拙い部分があると思います。
それでも、楽しんでいただければ嬉しいです。
よろしくお願いします。
(いつか連載で書くかもしれません)