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ティーパックを出し、コップを口に近ずける。アップルの香りに癒される。
「私さ、真衣ちゃんに彼氏の写真を見せてって言ったの。そしたら苦笑いで誤魔化すような態度だったの。彼氏のこと聞いても全然教えてくれないし。本当にいるのかなって思えてきちゃった。昨日の指輪も本当に持ってきていたのかな? 自分の部屋とかにあるんじゃないのなんて」
沙耶香は部屋には私しかいないのに、癖でひそひそと小声になっている。
「つまり、真衣ちゃんはなんらかの事情で彼氏がいるっていうことと、昨日指輪が無くなったって嘘をついているってこと?」
「そんな可能性もあるってこと。わかんないけど、なんだか腑に落ちないの。でもそんなことより、私、優樹菜ちゃんが礼央君を狙ってる気がするんだけど」
沙耶香の顔が険しくなった。
「優樹菜ちゃんが? なんでよ」
持っていていたカラメルビスケットを口に運んだ。カラメルの味が口に広がる。
香ばしいビスケット生地とほのかに甘いカラメルのこのバランスが好きだ。
「ふとした時に礼央君のことを見てるんだもん。私は常に礼央君のこと見てるからわかるんだけど。それに礼央君が好きって言う映画とかサッカーのチームとかも私も好き、とか乗っかってんの。なんなの? 礼央君狙いなの? って感じ」
「確かに優樹菜ちゃんが礼央君のことを見ていたのは気がついていた。でもなんか恋愛で見てるって感じでは無い気がする」
コップを口に運んだ。さっきまで熱かった紅茶の温度が少し下がっている。
「さすが由佳里。昔からこの人は、あの人が好きとかいち早く気がついていたもんね。自分のことは一切気がつかないくせに。じゃあ、なんで優樹菜ちゃんは礼央君のことを見るんだろう。まぁ、私は優樹菜ちゃんには負けないけど」
カラメルクッキーを手で二つに割りながら沙耶香が言った。