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桜子さんの奥様劇場

私は花であなたは蝶々

作者: 秋の桜子

 闇の中、わたしに背を向け眠れぬ時を数えれば、枕元の携帯に手を伸ばす、あなたは迷わず指紋認証。

 ブルーライトが立ち上がりたちまち、視界を明るくする。


 ログイン。スクロール。始まる。



 子どものころ。


 学校の花壇。夏の花、真っ赤なサルビアのシベを抜き、密を吸う。誰かに見つかりやしないかとひやりとしながら、プッと次のシベを抜く。


 蝶になったか蜜蜂か。シベはポッケに押し込んで。


 レンゲ、サツキ、ホトケノザ 


 甘い蜜を吸える花。あなたは笑顔で喰んでいる。


 通学路の土手の道、クローバー、シバハリ伸びる斜面に駆け下りて、一本二本と数えて摘んだ、紋白蝶が空を舞う日。


 つくしによもぎにイタドリに。黄色のたんぽぽ、オオイヌノフグリは瑠璃色で


 時は流れて移りゆく。あなたは花から花に移る羽虫のように、あちらに行ったりこちらに戻ったりを繰り返し。でもくされ縁なのか、幼馴染の相性良しで。


 なのか。


 家族になった。小さな町、小さな庭がある小さなスィートホームで暮らし始めた。ままごと遊びの延長の様な毎日。


 百花に先駆け梅が咲く。地面を割ってのこのこ可愛く顔を出す、ふきのとう、福寿草、湿った深山にハシリドコロの小さな拳。


 水仙、スノーフレーク、シクラメン


 徒花と呼ばれし桜が満開、春爛漫。


 浮気者の蝶々は花から花へ移りゆく。愛しい蝶々に、一夜の宿を貸し甘い蜜を与えた花は、出ていった蝶々を追えずにその場でじっと待つしかない。


 花壇に埋めた野菜室で忘れていたじゃがいも2つ。二人だと食べ切れて、独りだと残った特売日のメークインと紫色のシャドウクィーン。


 黒味ががった深緑の花束みたいな新芽を、土を割ってワザっと出した。


 ピンクに白のプリムラマラコイデスが、あどけない少女の様に花咲かす。玄関先の植木鉢、少し毛羽立つ葉にかぶれる人がいることを知ってて植えた。


 戻った日に、子どものままに庭木のレンゲツツジの花をぷちんと抜き、薄ら甘い蜜を吸えばいい。きっとその場でポイッと投げ捨てるは、とんがり帽の濃き朱色。


 白い馬酔木の下には鈴蘭が、はにかみ俯きリンリンと、濃い緑の葉に包まれ咲いている。敷地を囲むガーデンフェンス、絡める金と銀のスイカズラ。花開き辺りに甘い香りを広ければ、甘い蜜を吸いに、蜜蜂、蝶々、あなたも吸いに戻って来ればいいのにね。


 黄色い花咲くカロライナジャスミンを、ホームセンターで手に入れた。共にフェンスに絡めましょうか。漏斗型の花が混ざって咲けば、花を摘む手が間違えないかしらん。


 イトソマ、ビンカ、タケニグサ


 花を摘めば枝葉を折れば、ベトベトとした樹液が出るの。イトソマビンカはミルク色、背高のっぽ、タケニグサの苦汁はオレンジ色。


 戻った時に。通知の合図、隠れて開いた画面のメッセにむしゃくしゃとして、花に八つ当たりをしないかしらん。ちぎってむしった手が、赤く斑にかぶれたらよいのに。


 メークインの花はベルサイユでも愛されて。紫のキラキラ星はメークイン。シャドウクィーンは白いフリルの様な星の花。


 シャクナゲ、キキョウ、ジギタリス


 新じゃがいもが掘れたなら、あなたの帰りをこれまで通り大人しく、貞淑な妻の顔をして待ちましょう。あなたが好きなフライドポテトを作るため、ひとつふたつを竹籠に入れ泥を乾かす為にそうね、朝日が差し込む犬走り、そこに置いて乾かしましょうか。


 さんさんと、日光浴をさせましょう。


 あれやこれ、準備をしながら待っていると、ポッケの携帯にロミオメールが届きます。


 怒ってる?やっぱり僕には君しかいないよ。

 明日の夜、帰ってもいいかな。

 君のご飯が食べたいよ。

 君の育てた花を見たいな。

 一緒に庭で草むしりをするよ。


 だから帰ってもいいかな?


 どうぞと返信をしてやった。



 闇の中、ひとり眠れぬ時を数えれば、枕元の携帯に手を伸ばすわたしは迷わず、指紋認証。

 ブルーライトが立ち上がりたちまち、視界を明るくする。


 ログイン。スクロール。始まる。


ツツジは蜜を吸える種類と、中毒を起こす種類がありますの。日本ではレンゲツツジがそれに相当しますが、種類が見分けられない時は怖いので、


蜜をチュウチュウはやめときましょう~

花の蜜吸うのは、美味しいんですけどねぇ

ちびっ子たちは要注意ですよ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 夫の行動を蝶々や花に例える事から妻の品の良さが伝わって来ました。美しい世界観なので、まだ夫に気持ちが残っているようにも感じます。 蝶々と言えば聞こえは良いですが、ご主人はどれだけ浮気者なん…
[良い点] 毒草を愛しい人に出す女性の心理がわかるような気がしました。 読後に少しの恐怖と狂気を感じました。 読ませていただき、ありがとうございました。
[気になる点] あの、気のせいかレンゲツツジ以外にも危ないお花がいっぱいあるような・・・。 全部は分かりませんが、鈴蘭はあんなに可憐な花なのに、絶対口にしてはいけないと聞いたことがありますし、馬酔木は…
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