名探偵だと思っていた俺の幼馴染が実は迷探偵だった
俺には他人に自慢できるただ一つのことがある。それは、俺の幼馴染である渋野 摩利が名探偵であると言うことだ。
物心ついた時から一緒に遊んでいた俺たちだが何故か高校生になった今でも一緒にいる。彼女は頭がいいから違う高校だと思っていたけど。
「ねえ、豊。今日も部活に行くよね!」
「もちろん行くよ」
俺は摩利に向かって頷く。そうすると彼女は満面の笑みで喜んでくれる。
…かわいい
そう、彼女はすごく可愛いのだ。美人というわけではないが幼さが残っていた世話のやける後輩って感じで、そこがまた良い。顔はこの学校一の美しさだと周りからもてはやされているほど誰から見ても完璧な美貌だ。
胸は貧乳だがそこが良いと言う輩がいるのは摩利に内緒な話だ。
それに対して俺はどこにでもいるような普通の男だ。成績は普通、顔も可もなく不可もなく正直まりと釣り合うほどのスペックは全くない。だが、彼女との関係があるのは幼馴染ということもあるが先ほど話題にあった部活のおかげである。
◇
放課後になり、俺は部室のドアをたたき返事がないことを確かめると部屋の中へと入っていった。
そこには無数の棚にミステリー小説がずらっと並んでいる。図書館のように思えるその景色はこの部活の特徴だ。
そう、俺たちの部活は探偵部である。普段はこの部室で本を読みながら雑談をしているのだがこの学校の中で依頼があると我らが名探偵である摩利が解決して差し上げる部活である。
どの本を今日は読むか考えているとドアが開く音で俺はドアのほうに目を向けた。
「今日も依頼ないの?」
「いつも通りないよ。平和が一番だよ!」
「そうか。」
そんな会話をしつつ彼女もテーブルに座った。
「今日はどんな本読むの?」
「それがまだ決まってないんだ。」
「なら、これが良いと思う。」
そう言うと彼女は本棚へと向かっていった。
その間俺はずっと彼女をまだ追っていた。もう、可愛すぎて目が離せない。…キモいかな?キモいか。
そんなことを考えていると彼女が手を伸ばしながら爪先立ちしている状態だった。どうやら背が短いせいで目的の本に手が届かないようだ。
彼女自身が考える欠点の一つが背の短さのようでコンプレックスを感じているようだ。まあ、胸のほうがコンプレックスらしいが。
なんだか微笑ましいのでその様子を見ていると彼女が焦った声で助けを求めてきた。
「豊、そんなとこいないで助けてよー!」
「わかったわかった。ほらよ」
「あ、ありがと。」
だが、俺は感謝を気にする余裕がなかった。
彼女が使っているであろうシャンプーの香りが気になりすぎていて返事をする余裕がなかった。
ドキドキが止まらない。
「どうしたの?」
彼女が聞いてきた。まさか俺の興奮に気が付いたか?
「早く本読みなよ」
……どうやら彼女は俺に早く本を読んでもらいたいようだ。
まあ、普通俺のことなんか気にしないか。顔は普通で更に幼馴染なんだからいちいち俺のことなんか恋愛感情抱いてないんだろうな。別に俺はそれで良いと思っているが。
「そうそう、この本はね。」
そんなことを言い始めると彼女は止まらない。それはいつものことなので、ぼやーっと彼女の顔を見ながら気力のない空返事をしていた。
「ちゃんと聞いてる?」
「へー。えっ?」
「やっぱり聞いてないじゃん」
突然彼女の顔が目の前にきて心臓が止まるかと思った。心臓が止まりそうなのに胸の動悸が激しくなるのは永遠の謎だろうか。
「ちゃ、ちゃんと聞いているよ」
「ほんとかな〜。」
「それよりさ、新しく部員って入らないの?」
「え、えっ?なんのこと?」
「いや、だからさ新入部員のこと。」
「なんでそれ知ってるの?」
「だってあれは俺が受けたんだよ!忘れるわけないじゃん。」
そう、アレは放課後のことだった。
下駄箱に手紙があって「放課後屋上に来てください」と書いてあり告白かと浮かれていた時があった。
いざ、いってみると摩利に並ぶ美女がいた。その人はこの学校で二大美女と呼ばれる人がいた。
まさか、告白されるのか?
そう思っていた時があったがどうやら違うようだ。
「あの、私も探偵部に入れてもらえませんか?」
「え?」
「ですから、探偵部に入れてもらえませんか?」
「いや、意味がわからなかったのではなく俺にそんな権限無いんで摩利に言ってください。」
「それが…そう、恥ずかしいのです。」
「?」
「何度も言わせないでください。恥ずかしいんです。」
「それは分かりましたから。そうではなく何故恥ずかしいんです?」
「それは…完璧な人間だからです。」
「へえー、そうなんだ。まあ、摩利に確認してみるから。じゃあ、また今度部活でね。」
「あっ!」
「まだなんかあるの?」
「いや、その、なんでもありません。」
「そう?」
こんな会話があったのが一週間前だ。それから彼女とすれ違うたびにチラチラ見られるのが少し苦痛だったので流石に気になったのだ。
「で、どうなんだ?」
「いや、それは断ったよ。」
「なんで?」
「あいつが泥棒猫だからだよ。」
「えっ?なんて言った?」
摩利のつぶやき声は聞こえなかったが憎悪が少し込められていて怖かった。
「なんでも無いよ。それより何故彼女をこの部活に入れさせないのか?それは助手は1人でいいからだよ!」
「別に探偵ごっこなわけだし助手じゃなくても良くない?」
「なんなのさ!そんなに彼女に入って欲しいのか!やっぱり彼女はいいよね。私と違って背もあるし品もいいし胸もあるし。」
彼女は自分の胸に手を当てると余計に落ち込む。そんなことしなきゃいいのに。
「いや、俺はそんなこと思わないよ。僕たち2人だけで十分だよ!」
「…ありがと。」
そう言うと彼女は顔を赤くして俯いた。
何故だろう。ただ事実を言っただけなのに。きっと頭の悪い俺が考えもつかないほどの思考を持っているのだろう。
「そんなことは置いといてさ、映画でも見ない?」
彼女はそう言った。補足しておくとこの部屋にはテレビもついている。何故かと言うと摩利の功績のおかげだ。先生の依頼も摩利が解決したことによりなんと特別にテレビがつけられているのだ。破格すぎる部活はこの学校でおそらくここだけだろう。
「どんな映画見るの?」
「ホラー。」
「えーーー!」
ホラーだって?あの探偵オタクである摩利がホラーだって?天地がひっくり返るかもしれない。
それにしてもホラーでラッキーが起きるかもしれない。実は彼女がホラー苦手で飛びついてきたら……
さあ考えると胸のドキドキが止まらなくなってくる。
「どうしたの?ほらここ座りなよここ。」
ソファーをバンバンと手で叩いていた。えっ?そこって摩利のすぐ隣じゃないか!やばい、想像しただけで緊張してくる。
「何してるのさ。早く早く。ほらドーン!」
そう言うと俺の手を握り締め無理やり隣に座らせてきた。
触られた触られた触られた触られた触られた触られた触られた触られた触られた触られた触られた触られた!
もうお嫁さんには行けない!
胸の動悸が激しくなり彼女を見るだけで顔が赤くなる。
「どうしたの?なんで顔が赤いの?」
やばい、相手は探偵だ。しかも名探偵。こんなところでバレたくなんてない。なんとか騙さなくては!
「豊?もしかしてなんか騙そうとしてる?」
「な、なんで?」
「だって君が両目を右上に向けるのは嘘をつこうとしてる証拠じゃん!」
「えっ?まじか!」
「まあ、嘘だけど。その反応を見る限り嘘をつこうとしているのは確実かな。もしかして……」
本当にここで恋してるのがバレるのだけはやめてと神に祈る。
「もしかして…ホラーが苦手なの?」
「実は、えっ?」
「当たりなんでしょ。どう?」
「えっ?えっ?あ、そうだよ。実は苦手なんだよ。」
逆に何故バレなかったのだろう?実は恋に対して全く鈍い鈍感というやつなのか?それにしては今までに恋の依頼は簡単に解決してきたのに。まあ、一つくらい迷探偵であったほうが可愛げがあるかもしれない。
ホッとしながらホラー映画を見始める。
◇
君は気づいてないかもしれないけれど私はずっと君のことが好きなんだよ。
物心ついた時から一緒に遊んでいて恋をした。
君は私のことを完璧だと思ってるかもしれないけれどそんな人はこの世界にいないんだよ。
子供の頃公園で遊んでいたときに私は転んで怪我をした。
泣きじゃくった時に助けてくれたのが君なんだ。その時から君のことを気になっていた。
君に気づいてもらいたくて、たくさん勉強して頭も良くなった。
君と一緒に通いたいから同じ高校に通った。
君とずっと過ごしたいから探偵部なんて無理やり作って君を入れた。
君を誰にも渡したくないから探偵部に入りたい人を無理難題つけて断った。
付き合ってくださいと何度も言われたけれど断った。
全ては君と一緒にいたいから。
ホラーを見ながら横目に君を見つける。
君はホラー苦手で怖がって大声で叫び声を上げていた。
「好きだよ」
その声は君の声で誰にも聞こえなかった。
でも私は諦めない。
いつか君が気づいてくれることを信じて。
筆者の探偵力がなさすぎて話が作れなかったのはご愛嬌でお願いします!
ぜひ評価お願いします。
筆者の気力に繋がりますのでぜひ!