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連載始めました。

賞応募のための下描きのようなものなので、いつの間にか設定が変わることがあるかとも思いますが長くお付き合いいただければ幸いです。

不定期で更新していきますのでよろしくお願いします。

――あぁ、心が砕けてしまいそう


 自らの内に渦巻く無秩序な想いが、心の透明な入れ物を破って飛び出してやろうと暴れ回る。

それを必死で抑え込もうとするが、一度空いた穴は決して元には戻らず、塞ごうと手に力を入れれば入れるほど勢いを増して溢れ出してしまう。

 誰か、助けて…!

 ()は薄れゆく心を他人事のように感じながら、

散っていく想いを眺め続けた――



 「うーん、空気がおいしい!」

 私は画材の入ったトランクケースを手に提げながら、木漏れ日射す暖かな森の中を散策していた。

大股でずんずんと歩くたびに、少し柔らかい土の感触がブーツ越しに伝わってきて心地よい。

 轍の残る道に沿ってしばらく歩いていると、木々の隙間から沢山の草花たちが取り囲む大きな湖が見えた。

「わぁ!とっても綺麗…!」

 湖の周りには木が少なく、水底が見えるほど透明な水は、覗き込んだ私の赤いベレー帽と短めの栗色の髪を映す。空から降り注ぐ陽の光をこれでもかときらきら反射させていてとても眩しい。

沢山の草花と湖、それを取り囲む背の高い木々達。街中に住んでいた頃には決して見ることのできなかった景色だ。

 私は早速この景色を絵に残そうと近くにあった倒木に腰掛け、トランクケースからスケッチブックと色鉛筆を取り出した。

 大きく深呼吸をし、水と草花の香りを目一杯吸い込む。

「――よし、それじゃあ描きますか!」

私は意気揚々と色鉛筆を動かし始めた。



 

 …我ながらいい出来栄えだぁ。

できあがった絵を見て満足げに微笑む。

最後に『ベル・ディモル』と自分の名前を余白に書き込んだ。

 「さてと…そろそろ帰らなきゃ」

 絵を描き終えた頃には日が傾き、空に橙色と紺色のコントラストが広がっていた。

街灯なんてない森の中だ。完全に日が沈んでしまったら辺りは真っ暗闇になってしまう。

お化けが苦手な私としてはそうなる前に何としてでも森を抜け出したい。

 急いでスケッチブックと色鉛筆をしまい、来た道を戻ろうと歩き出した。

と、その瞬間視界の端に何かの光が瞬いた。

 気のせいかとも思ったが、湖の対岸の木々の隙間から光が漏れ出ている。

白いような、よく見ると様々な色が混ざったかのような不思議な色をした光。

 何だろうあれ…?今まで旅をしてきたけど、あんなの見たことない…

私はまだ見ぬ景色への渇望と好奇心に負け、帰り道に向いていた足を光の方角へと向けた。

 湖から離れると木々が空を覆い、辺りは暗闇が一層濃くなり恐怖で身を震わせる。

…不思議な光が周りを照らしてくれたらいいのに。

 私はないよりいいだろうと、トランクケースの中から小さなランタンを取り出した。

ランタンの下部に埋め込まれた制御機構に手を翳し、力――「ルネシス」を送る。すると橙色の光が灯り、ゆらゆらと私の周囲を照らした。

「便利なものだよね…」

 この「ルネシス」と呼ばれる力は全ての生物が使用でき、多種多様な恩恵をもたらす。人はルネシスを利用した技術を研究し、衣食住、様々な分野で役立て生活を豊かに変えていった。

 持ってるランタンにもルネシスの技術が使われているおかげで、燃料がなくとも周囲を明るく照らすことができる。

 いやー、ありがたやーありがたやー

 私は雑にルネシスに感謝しつつ、ランタンを前に掲げながら光へ導かれるようにして目指す。

 少し歩くと、湖のような木々に囲まれた空間に出た。

ただ一つ違うとすれば、その中心にあるのは湖ではなく天にまで届くのではないかと言う程の巨木だということだ。そのあまりの大きさに私は口をポカンと開けながらその木を見上げ、立ち尽くす。

 すごい迫力…この木もいつか絵に描きたいな…! 

…って今はそうじゃない。

 ハッ、と本来の目的を思い出し光を探すと、どうやら巨木の洞の中から漏れ出ていたということが分かった。

 洞を覗き込むと、中はまるで洞窟のように奥に広がっていた。

 どこまで続いているのか、先に何があるのか分からないという恐怖が尻込みさせる。すると、

「(誰か、助けて…!)」

――突然頭の中に助けを求める声が響く。それと同時にさっきまでとは違う激しさを伴った光の明滅が起こる。

 な、何!?今のって…?もしかして、この先で誰かが助けを求めてるの…?

辺りを見回す。当然自分以外誰もいない。もし本当に誰かが助けを求めていたとしたら、今助けに行けるのは自分だけ。私の中に引き返すという選択肢は端からなかった。

「…よしっ、今行くからね!」

私はゴクリと唾を飲み込むと、意を決して洞の中へと踏み出した。



 

 洞の中は足元が悪く、何度も躓きながら光を目指す。

がむしゃらに歩いていくと、円形の空間に出た。

 その中心には皓皓と光る巨大な結晶が鎮座していた。どうやら光の正体はこの謎の結晶が発していたもののようだった。

 な、なんだろうこれ…?凄い量のルネシスを感じる…。

非常に気にはなるが、今はこの結晶を調べている場合ではない。

 私はあの声の主を見つけるべく、結晶を中心に時計回りに空間を調べ始めた。だが一周しても誰も見つからない。

 ふと、声がした時の事を思い出す。

 確かあの時、声と同時に光が明滅していたような…まるでこの結晶が呼びかけていたかのように。

 私はそんなことあるわけないと思いつつも結晶を見やる。

 あなたが助けを求めていたの…?

 そっとランタンを持っていた手を伸ばし、結晶に触れる。

――刹那、結晶から金属を擦り合わせたかのような不快な音と直視していられない程の激しい光が放たれた。

「ちょ、ちょっとなんなのこれぇ!?」

 ランタンとトランクケースを落としながら慌てて耳を塞ぎ目を瞑る。

その音と光はどんどんと強くなっていき、私の思考能力を奪っていく。

「も、もうダメかも…」

意識が遠くなっていくのを感じる。

 だが意識を手放しかけた時、ピシッという何かが罅割れたような音がしたと同時に、先程まで暴力的なまでに激しかった音や光がピタリと止まった。

 私はゆっくりと目を開け結晶を見る。

さっきまで激しく光っていたのが噓のように光を失っており、さらに中心にはさっきまでなかった罅が入っていた。

 とりあえずさっきまでの現象が収まってくれてよかった。

ホッと息を吐く。

 しかし安心したのも束の間、再びピシッと罅割れる音が響く。

罅を見ると、現在進行形で蜘蛛の巣のように広がっていっている。

ものの数秒で結晶全体に罅が到達した。

 すると一瞬、一際激しく光ったかと思うとガラスが割れるような大きな音と共に、勢いよく粉々に砕け散ってしまった。

 私は高速で飛んでくる結晶の欠片から咄嗟に身体を背けて蹲り、痛みに備えたが、不思議なことに欠片は私の身体や木をすり抜けてどこかに飛んで行ってしまった。

「一体何だったの…?」

 のろのろと立ち上がり、さっき落としたトランクケースとランタンを探す。

落とした拍子にランタンの光が消えてしまっていたようで、結晶の光がない暗い空間の中で探すのに手間取る。

 手探りで端の方に転がって行っていたランタンを見つけ、明かりをつけるための機構を手探りで探すが、暗闇のせいで一向に見つからない。

「んぅ…」

もたもたとランタンを弄くり回していると、突然背後から誰かの呻き声が聞こえてきた。

(な、何!?誰っ!?)

さっきまで誰もいなかったはずなのに。

 私は動揺と焦りで手間取りながらも何とかランタンの明かりを灯し、慌てて振り返る。

 「えっ…?」

 そして私は目を疑った。

 

 なぜなら結晶があったはずのそこには欠片一つなく、代わりに淡いピンク髪の少女が倒れていたからだった――




 




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