部活
「ツグミちゃん、ツグミちゃん!」
僕はツグミちゃんを探した。
いつもは絶対に喋りかけたりできないのにこの時は、他の学生に喋りかけることが出来た。
「すみません、少しぽっちゃりした女子生徒、見ませんでしたか。委員長っていうプレートを胸に付けてるんですけど」
「いや見てないな」
「そうですか、ありがとうございました」
同じ質問を数人に聞いたが帰ってくる言葉は同じだった。
「どこに行ったんだツグミちゃん」
「あの~」
いきなり喋りかけられてびっくりしてしまった。
「は、はい。何ですか」
「多分探している女子生徒、屋上の方に向っていきましたよ」
屋上に向った…もしかして、そんな、ツグミちゃん!
僕は重たい足を懸命に動かし、苦手な階段を一気に駆け上がる。
「屋上は立ち入り禁止のはずだけど」
屋上の入り口の扉が開いている。
「ツグミちゃん!」
「池田君…」
ツグミちゃんは泣いていた、いつも笑って僕の話を聞いてくれるツグミちゃんの涙を初めて見た。
「ご、ごめんね、こんな姿を見せちゃって、私って弱いな~。昔はあれくらいじゃへこたれ無かったのに」
「どうして、屋上に来たの、まさか変なこと考えてないよね」
「変なこと?」
「いや、その、この世からいなくなっちゃうこと」
「あ~、私にそんな度胸無いから心配しなくてもいいよ。ここに来たのは、空を見に来たの」
「空?」
「そう、この広い空を見上げてると自分のことがちっぽけに思えて心が晴れていくような気がするの」
「そうなんだ、でも確かにここすごく気持ちがいいね」
「そうでしょ!ほんとは立ち入り禁止なんだけどね、週に1回屋上の清掃をさせてくださいって先生にお願いしてカギを貸してもらってるんだ。委員長の特権!」
「はは、そんなことできたんだ、委員長って」
「みんな委員長になるのを嫌がってるけど私は別に嫌いじゃないんだ。自分の意見を言いやすいし、なんか頼りにされてるって感じがして私は好きなの」
「ぼ、僕はそんなふうには思えないな」
「私って変わってる?」
「変わってるかも」
「もう昼休み終わっちゃう、早く教室に戻らないと」
「そうだね」
僕のことは何も聞いてくれないんだ、きっと気を利かせて話さないようにしてくれてるのかな。
ツグミちゃんは僕の前を通り過ぎて先に教室に戻った。
その時見たツグミちゃんの横顔からでも、目頭が赤くはれていた。
きっと相当泣いていたんだと思う。
「僕に何かできないかな…」
その時見た空は雲1つなく晴天って言っていいほどに澄み切っていた。
午後の授業が終わり、帰ろうとしていた時だった。
「ねえ、池田君、ちょっといい?」
「?」
ツグミちゃんどうしたんだろ。
「池田君はもう、部活決めた?」
「い、いや~僕はまだ何も、中学の時だって帰宅部だったし」
「そうなんだ、でもこの学校1年生は必ず部活に入らなきゃいけないっていう校則があるんだよ」
「そ、それは知ってるけど」
はっきり言ってもう、その校則は時代遅れだろって思ってる。
でも僕自身にその校則を変えるだけの力は持ってないから従うしかない。
申込期間もあと一週間を切っていた。
「運動部と文化部どちらに入ろうか迷ってて」
「運動部はやめといたほうがいいんじゃないかな、きっと辛いだろうし」
「そうだよね、じゃあ、どの文化部に入ろう。吹奏楽部、書道部、美術部、合唱部、…」
「ええっと、楽器は聞いているほうが好きだし、僕、字は汚いし、絵も得意じゃない、歌も音痴だし」
「もー、全部諦めちゃってるじゃない」
「い、いや~、僕に合った部活はないものか」
「私もどの部活に入ろうかずっと迷ってたんだけど、この部活がいいんじゃないかと思って」
「何部に入るの?」
「この部活!」
ツグミちゃんが指さすところを見ると、
「合同部?何この合同部って」
「この部活は、去年まであった4つの部活が廃部になっちゃうところを先生たちが合わせた部活なんだ」
「確か、必つの部活に4人以上いないと廃部になっちゃうんだっけ」
「そう、だから、今ちょうど4人しかいないはずなんだ」
「でも、確かになんかちょっと面白そう」
「でしょでしょ、でその廃部になりそうだった部活っていうのが。アニメ漫画研究部、写真部、旅行部、科学実験部」
「なんか、大分異色が違うな」
「でも、池田君、アニメと漫画好きでしょ、それに旅行にもよく行ってそうだし」
「確かに、アニメと漫画は好きだし、お父さんの付き添いでよくいろんなところにはいくけど」
「ほら、池田君にぴったりだよ、この部活」
「そ、そうだね、じゃじゃあ、僕もこの部活にしようかな」
「よし、それじゃ一緒に入部届出しに行こ」
「ちょ、ちょっと引っ張らないで」
なんか、すごく強引に入部させられそうになってるんですけど。