学校生活
入学から1ヶ月がたった。
「池田君はそろそろ学校にも慣れた?」
「そ、そうだね、学校の教室は大体覚えられたかな」
「そうなんだ、私はまだ覚えきれてないの。私たちの学校広すぎて、どこがどの教室か全くわからなくなっちゃう」
「そうだよね」
「今日もありがとう、楽しかった」
「いや、僕の方こそいつもありがとう、僕なんかと話ししてくれて」
「話くらいいつでもしてあげるよ、じゃあ、また明日ね」
「うん、また明日」
1ヶ月間長かったようで短い時間だった。
「もう1ヶ月経つのに、ツグミちゃんと話せるのは学校の帰り道だけ。学校でももっと話したいのにでも、学校には山田君たちがいるし、あんな不甲斐ない姿をツグミちゃんに見せられないよな」
どうしたらいいか少し考えた。
「痩せよう」
これしかないと思った。
何故だろう、今まで一度も痩せようと思ったことはなかったのに。
「でも、痩せたら何か変わるのかな。いや、痩せてかっこよくなってやる。やるぞ!」
そう意気込み、後ろから迎えに来た車に呼び掛ける。
「僕、今日は歩いて帰ります。ですから、先に家に戻っていてください」
いつも車を運転してもらっている執事が窓から顔をのぞかせる、ガラでもなく驚いている様子だった。
「坊ちゃん、さようでございますか」
「うん、僕痩せようと思うんだ」
「そうですか、そうですか、分かりました。私執事、坊ちゃんのダイエットを応援いたします」
「ありがとう、頑張ってみるよ」
「では、私は坊ちゃんに何かあるといけませんので後ろから坊ちゃんについていきたいと思います」
「い、いや大丈夫だから、先に家に戻っててよ」
「いえ、もし坊ちゃんに何かあったらわたくしの責任にございます。私の役目は、坊ちゃんを安全に自宅へ送り届けることです。ですから、これだけは譲ることが出来ません」
「わ、分かったよ。でも、できるだけ他の人に迷惑をかけないようにね」
「承知しております」
「よ~し、まずは、家までの道のりを歩くことから始めるぞ!」
数分後。
「はぁ、はぁ、はぁ、僕ってこんなに体力なかったっけ。まだ半分の距離にも満たないのに、こんなにへとへとになっちゃって、家までたどり着けるかな。ツグミちゃんと歩いているときはあんなに楽しくて、歩けてたのに、多分ツグミちゃんと歩いた距離よりも短いよねきっと」
「大丈夫ですか、坊ちゃん。何でしたら、今からでも車でお送りいたしますよ」
「そ、そうだね、きょ、今日の所はこれくらいにしておこうと思うよ」
どうして僕はこんなにも意志が弱いんだろ、さっきは痩せようって、頑張ろうって奮起していたのに、少し時間がたつといつも通りの怠けた僕になってしまう。
こんな僕が痩せられるのだろうか。
次の日の学校で僕は見てしまった。そして見られてしまった。
「今日こそはツグミちゃんと昼ご飯を食べるぞ。い、いやでもまずは男子から誘ったほうがいいかな。いきなりツグミちゃんだと僕にはハードルが高いよな。良し、まずはほかのクラスメートから仲良くなろう。うん、それがいい」
また、先延ばしにしてしまう。
「はは、僕の悪い癖だな。ん、ツグミちゃん?そう言えはツグミちゃんはいったい何処で昼食を食べているんだろ。購買かな、それとも、学食かな?」
僕はどうしても気になって仕方がなかった。
「あんまり、ストーカーみたいなことはしたくないけど、ツグミちゃんをご飯に誘うためのリサーチだ、うん、そういう事にしよう」
そして、僕はツグミちゃんの後を追うことにした。
「一番気おつけなければいけないのは、山田君に合うこと、山田君に合ったらいろいろと大変だからね。あれ、ツグミちゃんトイレに行くのかな。あんまり女性のこういうところを覗いちゃだめだよね。ん?」
とある女子トイレ内。
「ねえ、あんたさ、何で同じ学校にいるわけ?」
「そんなことを言われても私は、」
「ねえ、やめてあげなよ、こいつ、今からトイレで餌を食べるところだから」
「そっか、あんたにとってトイレが豚小屋だったわよね」
「い、いや、ち、違うから」
「じゃあその後ろに隠してるのは何よ!」
「こ、これは、何でもないの」
「じゃあ見せなさいよ」
「や、やめて」
ツグミちゃんの手から弁当箱のようなものが落ちてしまった。
弁当箱の中身がトイレの床に散らばってしまう。
「やっぱり、餌じゃない。こうやって見ると、ますますブタの餌感が増したわね」
「トイレの床に落ちた餌でも食べてもっと大きくなりなよ、ブタさん」
や、やばい、あの二人が出てくる。僕が女子トイレの話を盗み聞きしてたなんてばれたら、それこそ一間の終わりだ。
急いでこの場から離れないと。
「よう、暖。結構久しぶりなんじゃないか」
最悪だ、僕が一番合いたくないやつがこの場面で現れるなんて。
「や、やあ山田君久しぶり、2日ぶりくらいかな、い、今、僕すごく急いでるんだ、じゃ、じゃあ、またあとでね」
「ちょっと待てよ、俺の話を聞いてくれないのか?」
「い、いや、聞いてあげたいのはやまやまなんだけどね、今取り込み中なんだ」
「そんなこと言って、俺が逃がすとでも思ってるのかよ」
またしても胸ぐらを掴まれる。
「い、いや逃げるなんて、ただ僕は急いでいただけで」
「じゃあ、俺の言うことを早く聞いてその用事とやらに行くんだな」
「お、お金ですよね」
「お、今日はやけに物分かりがいいじゃないか」
僕はいつも通り、山田君に財布の中身をすべて渡す。
こんな姿をツグミちゃんに見せるくらいなら、お金なんてすぐに渡して僕はこの場から去るよ。
「何か気に食わねえな、そうだ、今日は久々に会ったんだから、いつものように、俺の靴を磨いてくれよ」
「!?い、いや、いつもはやってないだろそんなこと」
「あぁ!俺に口答えすんのか?」
「い、いえ、や、やらせてもらいます」
制服のポケットからハンカチを取り出し、山田君の靴を磨く。
「早く、早く終わらせないと」
あ、あの2人が出てきた。
「ねえ、あれ見て、うわ~、デブが山田君の靴を磨いてる、」
「ほんとだ、さすが山田君、やることがちがうね~。うちらのブタにもやらせてみる」
「それいいかも」
「いや、でもやっぱり、ブタの汚い手で磨かれたら、うちらの靴めっちゃ汚くなっちゃうんじゃね」
「確かに」
クソ、あの2人、ツグミちゃんをブタだなんて、何でそんなことが言えるんだ。
「おい、まだ、右しか終わってないぞ」
「は、はい、すぐに左もやります」
あ、ツグミちゃん。
「!……」
ツグミちゃんは走ってどこかに行ってしまった。
見られてしまった。ツグミちゃんに僕のこんな醜い姿を、ツグミちゃん泣いてたよな。
「おい、さっきまでの勢いはどうしたんだ、さっさともう片方の靴も磨けよ」
「う、うぅぅ…」
「おい、何泣いてるんだよ、そんなに俺の靴を磨くのがうれしかったのか。そうか、そうか、なら今度からは、靴磨きも一緒にやってもらおうかな」
悔しい、どうして、僕らがこんな仕打ちを受けなければいけないんだ、僕たちはただちょっと太っているだけじゃないか。
今にでも、こいつの顔をぶんなぐってやりたい。
僕にそんな勇気があるわけもなく、最後まで山田君の靴を磨いた。
「ふっ、まあ、今日の所はこれくらいにしといてやる」
山田君たちがその場を去った。
「ツグミちゃん、ツグミちゃんはどこに行ったんだ、早く探さないと」