出会い
プロローグ「出会い」
「僕の名前は池田暖といいます初めまして」
「私の名前は野花ツグミといいます、こちらこそ初めまして」
僕たちは出会って早々、自己紹介をした。
女の子が苦手な僕がなぜか簡単に話せてしまった。
いつもは、口が回らず何度も噛んでしまうのに。
「お帰りなさいませ、暖お坊ちゃま」
「ただいま、執事のじいちゃん」
「今日は楽しそうでございますね」
「そうなんだ、とてもいいことがあったんだよ」
「さようでございますか、では今日の夕食はお坊ちゃまの大好きなハンバーグにいたしましょう」
「やったー、僕ハンバーグ大好き!」
小学生のころ、特に考えもせず食べては遊んで、食べては遊んで元気いっぱいだった。
ツグミちゃんとは家も近かったからいつも一緒に遊んでた、ツグミちゃんと中学校は違う学校になっちゃって遊ぶことも合うこともなくなっちゃったけど、いつでもあの頃のことを思い出せるくらい楽しかった。
でも、もうツグミちゃんに会うことはできない。
こんな姿をあの子に見せるなんてできない。
「よう、デブ!」
「お、おはよう、山田君」
「なあ、デブ、俺たちさ財布を落としちまってよ、金がないんだよな。なあ、金貸してくれよ」
「前もそういって、僕の財布からお金を取ったじゃないか」
「ドン!」胸ぐらを掴まれ、壁に押し付けられる。
「おいおい、金をとっただなんて物騒なこと言うなよ、俺はお前から金を貸してもらっただけだよな」
「そ、そうでした、ご、ごめんなさい」
「わかりゃいいんだよ」
涙で視界がゆがむ。
前かがみになりながら、財布を取り出し、財布の中に入っている1万円札を差し出した。
「おい、お前がこれっぽっちしか持ってないなんてありえねえだろ。有り金、全部出せよ」
仕方なく、財布に入っていた残りの9万円を差し出した。
「やっぱりな、さすが大企業の息子なだけある。デブで何の取りえもないが財布としては優秀だな。だが、こうしてみるとまるでブタだな、四つん這いになってると、ブタと間違えそうだ」
「おい、お前ら何やってる!」
「あ、先生、おはようございます。今日もいい朝ですね」
「や、山田君。お、おはよう」
山田優作は政治家の山田雄之助の息子で下手すると取り返しのつかないことになるため、先生や他の生徒はこいつの言うことに逆らえない。
「僕と、池田君は昔からの幼馴染なんですよ。だからちょっとしたお遊びのつもりだったんです」
「そうか、遊びなら仕方ないな。これからはあまり目立つことをしないように」
「はい、気を付けます」
僕はその場から走り去る。
また、あいつと同じ学校だ、どうしてだ、勉強を頑張ってあいつが到底入ることのできない学校を受験したつもりだったのに。
あいつ、そんなに頭がいい印象がなかったのにクソ。
「『1のB』ここが僕のクラスか朝あんなことがあって気分は最悪だけど、高校の学校生活、何としても悔いのない学校生活にして見せる。
山田君とは違うクラスになったみたいだからまだよかった。
「皆さん、初めまして。皆さんの担任になりました綾野美穂といいます。初めての担任なので至らぬ点があると思いますが、私も皆さんと一緒に成長していきたいと思っていますのでよろしくお願いします」
すごく優しそうな先生だ、朝に出会った先生とは大違いだな。
「それじゃ、番号順で自己紹介してもらいましょうか。1番池田暖君」
「は、はい!は、初めまして、池田暖といいます。しゅ、趣味は食べることで、嫌いなことは運動です、よ、よろしくお願いします」
「パチパチパチ」
ああ、うまく自己紹介できただろうか、絶対きもい奴だって思われた。残りの人たちが自己紹介している中、僕は自分の自己紹介の反省ばかりしてしまっていた。ふと我に返り、最後の人になってしまっていることに気が付いた。
や、やばいほとんどの人の名前を覚えることができなかった。最後の人くらい覚えるぞと心の中で意気込んで彼女の顔を見る。
僕は怖気が走った。
「初めまして、矢部ツグミです。趣味は食べること、嫌いなことは運動です。友達をいっぱい作りたいです、よろしくお願いします」