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1話~その名はウォード~

次々と新作を書いては更新を停止していますが、気が向いた時に更新していきます。


 ドォオオオオオン!


「うおっ!?」


 突然の轟音に僕の意識が一気に覚醒させられる。……なんだ、雷でも落ちたのか?

 そんな呑気な思考は、目の前に広がる木々によって一瞬でかき消されてしまった。

 どこだここ……森? なんでこんな所で寝てたんだ僕……?

 眠る前の事を思い出そうとしてみたが、霧がかかったように何も思い出せない。

 僕は起き上がり、とりあえず状況を整理してみる事にした。

 

 自分の服装を見てみる。ベージュ色のスラックス、ポケットは左右に二つ。どちらにも何も入っていない。黒のTシャツの上に白衣を着ている、こちらも左右にポケットがあるが同じく何も入っていない。客観的に見ると、ドラマとかに出てきそうな研究者然とした恰好だな……。

 ……ん? 僕は自分の左腕に巻き付いている奇妙な機械のようなものに気がついた。なんだこれ?

 バイクのハンドルのような見た目に、ボタンがいくつか付いている腕輪だ。しかし用途がさっぱり不明。

 触ってみると、本当にバイクのように回す事が出来るようだ。捻ってみる。……回りはしたが、特に反応は無い。ただの飾り?

 玩具のような腕輪の事は置いておいて、周囲を見てみるとが自分の持ち物などは落ちてない。つまりこの恰好のまま森に入ったという事になる。

 少なくとも何かしらの意図を持って森に入った訳ではないらしい。酔っぱらって間違えて森に入ってしまったのだろうか……?


 ドォオオオオオン!


 ん!? 先ほどの音だ! なんだ、なんの音だ? まるで交通事故でも起こったかのような轟音だ。

 僕は急いで音のした方へと走り出した。

 ……と、最初の勢いだけは良かったのだが……。


「ぜはー……! ぜー……! み、水……」


 1分も走った所で完全に息が上がってしまった。完全に運動不足だ……。

 滝のように流れ落ちる汗を拭いながら、ゾンビのように蠢く事しかできなくなった僕は、それでも断続的に聞こえる音の方へとゆっくり歩いていく。

 工事現場? にしては爆発のような音が気になる。

 先ほどから背中がゾワゾワとして、何となく嫌な予感がしている。

 僕は身体を引きずるようにして先を急いだ。


 30分は歩いただろうか、ようやく森を抜ける事が出来た。

 一瞬喜びかけて、すぐに目の前に崖が見えて来たのでガクリと項垂れる。

 しかし音はもうすぐそこだ。というより、崖の下から聞こえてきている。

 僕は恐る恐る崖の端に近づいていき、そっと下を覗いてみた。


 まず見えたのは、鎧に身を包んだ人、人、人の群れ。槍を持った騎士が馬に乗って突っ込んでいき、そしてその槍に貫かれて落馬する騎士。

 そして大きな火球が宙にいきなり現れてたかと思うと、凄い速さで地面に落ちたかと思うと派手に爆裂し、騎士たちが吹き飛ばされていく。火球だけじゃない、巨大な氷柱が現れて飛んでいったかと思うと、その先にいた騎士の前で壁にでもぶち当たったかのように崩れて地に落ちた。

 かと思うと、その氷柱が現れた辺りに雷が落ちて、そこにいた騎士たちの鎧が黒焦げになって倒れる。

 映画で見るような中世の戦争のようで、ファンタジーのような火球や氷柱が右へ左へと飛んでいく。まったく現実的じゃない。目の前の光景がまったく理解の範囲外過ぎて、僕は自分を疑った。ひょっとしてまだ僕は夢の中にいるんじゃないだろうか。頬をつねってみたが、普通に痛かった。

 ただ一つ分かるのは、先ほどから聞こえていた轟音の正体はこの戦争だという事だけだ。

 僕の頭に「異世界」の言葉が浮かんでくる。


「……そんな馬鹿な」


 あまりにも生々しい戦争の光景に、僕はその場に釘付けになってしまう。

 火球による爆発や氷柱、水飛沫が飛び交い、その間を抜けるように騎士たちがお互いに向かっていく。

 その時、一人の騎兵が駆けている最中に吹っ飛んで来た人間にぶつかって落馬したのが見えた。

 その衝撃で兜が外れた。


 遠目からでも分かった。金の長髪を舞わせたその騎士は、女の子だったのだ。


 カッと頭に血が上るのが分かる。

 何とかして助けなければ、と崖から降りる方法を探してみたが、目測で50メートルは余裕でありそうなこの崖を降りる方法なんてそのへんに転がっている訳が無かった。

 迂回していたら間に合わない。どうすれば……。

 と、何故か無意識に右手で左腕の腕輪をイジっている自分に気が付いた。

 何故かはまったく分からない、分からないが……何となく、僕は黄色のボタンを押してみた。


 ブー! ブー!

 腕輪が二度振動した。こんな時に玩具で遊んでる場合じゃないだろ僕……。

 そう、自分の無力さに絶望しそうになっていた時だった。


『聞こえるか、護』


 腕輪から、老人の声が聞こえてきた。誰かの名前を呼んでいるようだった。


『この音声は、お前に何か問題が起きた時に再生されるようにプログラムされている。ウォードへの装身方法が分からないのだろう?』


 ウォード? 装身? いったい何の話だ?


『この機械はお前の声にしか反応しない。装身、と言ってみろ。すぐに音が鳴るから腕輪を手前に回せ。やってみれば分かる』


 そして音声が切れる。

 聞き覚えの無い声だったが、何故か僕の胸には安心感のようなものが広がっていた。

 僕はその声に従ってみることにした。


「そ、装身」


 キュイン! 一度音が鳴る。そしてドドドド、とバイクのエンジンのような振動音が鳴りだした。

 これが合図なのだろうか? 僕は腕輪のハンドルのようなものを手前に捻った。

 ブォン! SEが鳴る。そして腕輪が勝手に外れて宙に浮いた。それは僕の頭上高くの所で止まると一気に拡がり、巨大な樽程の大きさになったかと思うとそのまま僕の方へ落ちて来た。視界が真っ暗になる。



『開幕!』(ティロロン)

『仮面ヒーロー・ウォーーーーーード!』(ブォンブォン!)

『か・か・仮面仮面仮面・仮面ヒーロー・ウォード、起動!』(ドォン!)




 ノリノリのBGMがかかったかと思うと、SEと共に声が響き(何故か自分の顔が熱くなったが理由は不明)、まず頭に何かが被せられた。それから身体全体に次々と何かが取り付けられていく感触。

 それらは数秒ほどで終わり、そして視界が明るくなった。


「……嘘でしょ?」


 思わず呟いた。

 自分の腕と足に黒いスーツのようなものが着せられており、手には白いグローブ、上半身には薄い装甲のようなものが取り付けられている。

 かなり柔らかい素材で動きやすく、身体も物凄く軽くなったように感じた。

 何となく、特撮ドラマの正義の味方が脳裏を過る。


 さて、と僕は考えた。

 よくわからない機械によくわからないコーディネートをされて、よく分からないもの……仮面ヒーロー・ウォード? にさせられたは良いが……。

 僕は崖を見る。この高さを落ちても平気なのか?

 テレビやアニメとは違う、ここは間違いなく現実だ。頬も痛かったし。

 ……いや、迷っている暇は無い。女の子は剣を持って応戦しているようだったが、囲まれそうになっている。絶体絶命だ。

 最早僕に出来る事は何一つない。ここまで全部現実的じゃないんだ、僕だけ現実の中に生きようとしたって無意味なのかも知れない。


「大丈夫、仮面ヒーローなら大丈夫なんだ……」


 自分に言い聞かせるように呟く。

 僕は一度息を整えて、改めて崖の下を覗いてみた。高さは大体50メートル、下にはクッションになりそうな物はない。普通なら落ちれば間違いなく即死するだろう。

 ……よし。腹は括った。僕はやや助走をつけて、一気に走って崖下目掛けて落ちていった。


「うぉおおおおおおおおお!!!」


 地面に落ちる寸前、なけなしの勇気を振り絞って受け身を取ろうとしてみた。

 勿論こんな高さなら普通は何をどうやっても普通に死ぬだろう。

 しかし腕から着地して衝撃を受け流すようにゴロン、と前転した僕には何の痛みも無かった。

 自分に驚きながらもその勢いを殺さずに、女の子の方へと走――


 早い!?

 身体機能が大幅に向上している。100メートルの世界記録は約10秒ほどだったと記憶しているが、明らかに5~6秒ほどで駆け抜けている。

 それだけじゃない。さっきは1分走っただけで息が上がるほどだったが、ここまでの動作でまったく疲労感が無い。

 あっという間に女の子の所まで駆け寄った僕は、囲っていた騎士の一人を体当たりで弾き飛ばした。

 そして僕は驚愕の表情を浮かべる女の子の腕を掴む。


「逃げるよ!」


「……え!? だ、誰!?」


 困惑する女の子を無視して歩き出そうとしたが、「痛っ……」と女の子が声をあげた。左足を怪我しているようだ。

 僕はすぐに女の子を抱きかかえる。


「きゃっ」


「ちょっとだけ我慢してね」


 女の子を囲っていた騎士たちが僕を攻撃しようとしたが、一瞬早く僕が動いてすぐに囲いを抜け出せた。

 そこで僕は今日何度目かの衝撃を受けた。


「貴様何者だ!?」


「グラン王国の兵士か!?」


「逃がすな!」


 僕に怒声を浴びせる騎士たち。その全てが女性だったのだ。

 それだけじゃなく、良く見ると目に入る範囲のこの戦場にいる人間全員が女性だった。

 なんなんだこの世界!?

 驚きながらも僕は一気に戦場から距離を置く事ができた。本当に凄い服だ、女の子とは言え鎧を来ている人間の重みも感じずにパフォーマンスも落ちていない。

 女の子を持ち抱えたまま、僕は安全な場所を探して走り出したのだった。





side:カーレル


 トルオス帝国との戦争のキッカケは、本当に些細なものだった。

 グランの商人がトルオスの兵士に商品を奪われたという話を受けて、我が王がそれについてトルオス王に抗議をしたら、そんな事実は無いと突っぱねられて、トルオスとグランの関係に小さなヒビが入った。

 そのヒビはいずれ民と民の不和に繋がり、それはやがて大きな亀裂となっていった。

 私はどこかの国の陰謀を疑った。私だけじゃない、騎士団の人間の多くはその可能性を疑っていた。王達も恐らくは気づいていたのだろう。

 しかしトルオス王は強硬な姿勢を崩す事なく、不意打ちのような宣戦布告を受けて今日、戦争が始まってしまった。

 まるで最初から決まっていたかのような流れの良さに、隠す気も無いのだと嘲笑してしまう。


 そして今。若輩の身ながらこの戦争の指揮官に任命された私は、戦場に突如現れた所属不明の黒い騎士についての報告を受けていた。

 問題は次から次へとやってくる。あまりにも早すぎる侵攻、他国の影、そして私の妹、レイスを連れ去った黒い騎士。

 私は被っていた兜を地面に叩きつけた。

 最初から私が前線に立っていれば、こんなことにはならなかったのだ。

 騎士になってから8年という若輩の身ででありながら、その実力を買われて大団長に抜擢された私に、指揮官としての経験を積ませようという思惑で決まったこの立場に私は初めから反対だった。

 私には最前線に立って剣を振るっているのが一番合っている。最後方で伝令の言葉を待ちながら座っているのは性に合わない。

 きっと王にも何か理由があるのだろうと思って黙って従っていたが、今更ここで座っている事なんて私にはできなかった。


「剣を」


「しかし……」


 脇に控えていた部下が止めようとしてきたが、睨みつけると黙って剣を持ってきた。

 それを受け取って跳ねるようにテントから出ると、何事かと驚いている騎士たちの間を駆け抜けて、適当な馬に飛び乗った。

 近くにいたリトーが私を呼び止める。


「落ち着けカーレル! 心配なのは分かるが」


「止めるなリトー! 妹が連れ去られたと聞いて黙って待っている訳にはいかないんだ!」


「だから落ち着けと言っている! 今こっちで追手をかけている!」


「ここで黙って待っていて、何がハミオット家か!」


 リトーを無視して馬の腹を蹴りつけようとした。


「お姉さま!」


「えっ!?」


 どこかからレイスの声が聞こえて辺りを見回すが、レイスの姿はどこにもない。

 幻聴か? と思ったその時、上から影が降って来た。

 その黒い影は、鳥のように優雅に地面に降り立った。先ほど報告にあった黒い騎士だとすぐに分かった。

 腕には我が妹、レイスを抱きかかえている。


「レイス!」


 黒い騎士はこちらに近づいて来る。

 私は馬から飛び降りて剣を抜いた。


「貴様! レイスを離せ!」


「お姉さま! この方は敵ではありません!」


「なに……?」


 その言葉を裏付けるかのように、黒い騎士は何の警戒もせずに私の目の前まで来るとこう言った。


「ええと……レイスさん、左足を怪我しているから……。寝かせられる所とかあるかな?」


 まるで緊張感のない声でそう言った。

 というよりも、こいつ男か……? 男が何故戦場にいる?


「……着いて来い」


 私は黒い騎士を先導して救護テントへと案内した。

 黒い騎士は優しく、空いているベッドにレイスを寝かせた。


「あの、ありがとうございます、ウォードさん」


「いや……」


 ウォード、という名前なのか。

 照れくさそうに笑う(顔は見えないが、雰囲気でそう感じた)ウォードは、私をチラと見て何かを察したようにテントから出ていった。

 後ろに着いて来ていたリトーが私に頷いて、ウォードを追って出ていく。


「レイス! 何故無茶をしたんだ! 前には出過ぎるなと言っただろう!」


「ごめんなさい……。でも、私ももう騎士です。お姉さまが大団長だからって、特別扱いされたくはありません。私もハミオットの人間ですから」


「馬鹿者! 自分の実力を過信するなと言っているんだ!」


「お姉さまは過保護が過ぎます! 戦場で死ぬ覚悟はできています!」


「ああまったくお前はいつもいつも……! そういう言葉は、私に勝てるようになってからしろ!」


「お姉さまに勝てる人間なんてグランにいないじゃないですか!」


 この馬鹿妹は昔からこうだ。大人しいように見えてこうと決めたら頑として譲らない。

 その上、私以上に騎士であることに誇りと意志を持っている。

 私にはただの死にたがりにしか見えないが、騎士としての功績が欲しいのだろう。死んでは何の意味も無いというのに……。


 反論しようとしてここが戦場であることを思い出した私は、大きくため息をついて言い争いを打ち切った。

 そして今一番気になる事について質問する。


「それであの男は何者だ? お前を助けたという事はトルオスの人間ではないだろうが」


「それが……私にも分からないんです。ただとても強くて、ビックリしました。私を囲んでいた敵を倒して、私を抱え上げたまま物凄い勢いで走り出して……本当に、凄かったんです……」


 おや? レイスの言葉の中にやや熱気を感じて、少しだけ引いてしまう。

 それにしてもレイスを抱えたまま走り出した? そういえば、先ほど現れた時も鎧を着たままのレイスを抱えたまま空から降ってきたな。

 身体能力向上魔法? 風系移動魔法? ……いや、奴は男だ。魔法は使えない。

 まぁいい、本人から直接問い質してみるか。

 私は頷いて、「とにかく休んでいろ」とレイスに言ってテントを出る。

 外に出てすぐ椅子に座って話しているリトーとウォードを見つけ、私は近づいて声をかけた。


「おい。ウォード、だな? まずは妹を助けてくれた事を感謝する。ありがとう、まだ騎士になって2年だというのに功を急ぐ悪癖があるやつでな……」


「あ、いや、礼を言われるような事では……偶然そうなっただけだったから」


「ほう? 偶然戦場に居合わせて、偶然囲まれた我が妹を救ったと?」


「うん。まさか全員女性だとは思わなかったけど……いや、この言い方だと語弊があるか。いやとにかく助けられて良かった」


 手始めの探りを入れてみたが、何の手ごたえもない返事が返ってきた。嘘や誤魔化しているような雰囲気が全くない。

 冗談だろ? あんな所に偶然いて、偶然レイスを助けて、そのままここに送りに来たという事か? そんな馬鹿な話が……。


「あの、変な事を聞くけど……ここって男性はいないのかな?」


「なに? ここは戦場だ、男がいる訳が無いだろう」


「なる……ほど……」


 不思議な事を聞いてきて、歯切れ悪く呟くウォード。

 いまいちこいつの事が分からない。

 迂遠にしても時間の無駄だ。私は直接切り込む事にした。


「それで、お前は何者だ? どこの国から来た? 少なくともトルオスの者ではないだろう」


 ウォードは小さく唸るだけで答えない。答え難いということは、何か裏があるという事だ。

 ふん、やはり何かしらの思惑があるようだ。

 などと考えていた私に返って来た言葉は、まったく想定もしていない言葉だった。


「ごめん、ずっと考えていたんだけど……実はサッパリなんだよね……」


「ん? なにがだ?」


「僕が誰で、どこから来たのか……何も分からないんだよ。日本に住んでいたっていうのは分かるんだけど……自分の名前も分からないし、今までどう生きてきたのかも分からなくて……」


感想、アドバイスなどお待ちしています。

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