【短編版】身代わりから始まる英雄譚〜前世の記憶を思い出して覚醒追放今更遅いざまぁ系主人公が、もしも早くに前世の記憶を思い出し、さらに本来主人公になる者とは別人の記憶だったら〜
「ジーク、俺のパーティーに入らないか?」
「……はっ?」
青年の言葉に少年は口をあんぐりと開き周囲を見渡した。
ある物語の世界の、とある地方の冒険者ギルドである若者冒険者に先輩冒険者であるアルベルトが自身のパーティーに勧誘していた。
アルベルトと若者冒険者、ジークは同じ地方の村出身で、アルベルトは三歳年上だがジークとは幼馴染でよく遊んでいた。
アルベルトが成人になると村から出て街に来て冒険者になった。それからたったの三年で新人クラスと呼ばれるEランクから地方ならトップクラスのBランク冒険者という、かなり早くランクを上げた期待の若手だった。
そんなある日、アルベルトが所属していたギルドに成人したばかりの少年ジークがやってきた。ジークは幼馴染であるアルベルトに憧れて自身も冒険者なったようだ。
それから時は流れ、ジークが冒険者になってから一ヶ月が経過した。
ジークはずっとソロで活動していた。
理由はイジメ。
Dランクから先に上がれない先輩のゴロツキ冒険者達から日頃の鬱憤を晴らす為の標的にされていたのだ。
その日その日稼いだ金は殆どを奪われ、理不尽に殴られ、蹴られ、負わなくて良い怪我を負う。怪我なんて冒険者は日常茶飯事だから最初は誰も気にしないがそれが毎日、それもその怪我を見ながらニヤけている者達が何があったのか居れば嫌でもわかる。
だが誰も関わろうとしない。人数が多過ぎるし、そんな面倒とは関わりたくないからだ。
だがその問題を解決した者がいた。アルベルトだ。
彼はジークをイジメていた者一人一人に襲撃し、これから先ジークとは関わらないようにさせた。
イジメていた者達に襲撃した翌日、アルベルトはギルドの酒場にやってきた。辺りを見渡し、一人の少年に視線が止まると、その少年の下まで行った。
その少年はジークだった。
ジークは机に突っ伏しており、周りには酒瓶が転がっていた。
「ジーク、起きろ」
「ん……?」
アルベルトはジークを起こすと痣だらけ顔に目の下には隈が出来ており、目は絶望に染まっているのか暗かった。
「ジーク、実はな……」
それからあるはジークをイジメていたゴロツキ達について話した。ボコボコにしてもうジークに近づけさせないようにさせたことを。
「ありがとうございます……!……ありがとうございます……!……ありがとう、アル兄……!」
ジークは泣きながらアルベルトに感謝した。かつて村でアルベルトに呼んでいた愛称で。
「アイツら、俺が稼いだ金を殆ど盗っていくし、何もしてないのに殴ってくるし、金がないから宿にも泊まれなくて寒かったし……ホントに、辛くて……!」
ジークが泣きながら今までのこと語る姿に同情したアルベルトはある提案をした。
「ジーク、俺のパーティーに入らないか?」
「……はっ?」
アルベルトの発言にジークはアルベルトの顔を見た。ジークの目には既に絶望の色はない。
その目にあったのは疑問と困惑しかなかった。
ジークは急にキョロキョロする。机を見て、自身が座っている椅子を見て、自身の手と格好を見て、辺りを見渡し。
最後に隣椅子を数個空けた所にある二人組の女の子達に視線が行き、そこで目を見開いて止まる。
アルベルトもジークの視線を辿って女の子達を見る。一人はいかにも剣士といったように剣を差した胸はそこそこある美少女で、もう一人は僧侶といった格好をした巨乳のこちらも美少女だ。
アルベルトがジークに視界を戻すとジークは俯いていた。
何か呟くような口を動かしているがなんと言っているのか全く聞こえないし、わからない。
そう見ている時、ジークが立ち上がり、女の子達の方へと向かった。
「パーティーに戻って来いとか、今更遅い!俺はコイツらとパーティー組んでるし、こっちの方がいい!」
そう言って女の子達の肩に手を置いた。
「はぁ!?いきなり何?気安く触らないで。何馴れ馴れしくしてんのよ!」
「うわっ!」
と女の子の一人女剣士が立ち上がり、ジークのてを払い除ける。
するとジークはそれにより酔っていたこともあったのかバランスを崩し、前方、女剣士の方に崩れた。
崩れる時、ジークは咄嗟に物につかむが、その物も一緒に床に落ちた。
「……、死ね、この変態が!」
その落ちた物は女の子のズボンだった。女の子は腰に差した剣を抜きジークに剣を突き刺そうとした。
「待って、アンジェ!此処で剣を抜くのは流石にマズイわ!貴方もいつまでズボン掴んでるんですか!」
側にいた僧侶の女の子がすぐに女剣士を止め、ジークの腕を掴んで女剣士から離れさせようとした。
ジークも慌てた様子で立ち上がろうとした。
しかし、
「うわぁっ!?」
「えっ?」
今度は、ジークは僧侶の女の子を押し倒した。
「貴様!何をやっている!この変態変質強姦魔!」
「ちがっ、俺はっ!」
「死ねぇ!」
流石にマズいと思ったアルベルトはジークと激怒した女剣士との間に入って、剣を打ちつけ合う。
「何のつもりだ!」
「コイツは俺の知り合いだ。目の前で殺させるわけにはいかねぇよ」
刃を合わせていたのを押して、離す。
「流石にコイツが悪いってのは俺でもわかる。だからちゃんと謝罪も、償いもさせる。絶対だ」
「そんな事は知らん!信用もできん!ソイツいきなり私達を仲間扱いして、猥褻行為をしてきたのだぞ!だから、斬り殺す!」
「ちゃんと見てたから知ってる。だが、コイツは俺の幼馴染だ。友達だ。絶対に償わせるし、殺させたりしない」
「……わかった。殺しはしない。しかし、しっかりと償いはしてもらうからな!」
「あぁ、たとえどんな事でもさせる。俺も一緒にやる。見ていただけとはいえ、止める事はできたからな」
「いいだろう」
なんとかなった。「こんな事してしまったとはいえ、俺の大事な友達だからな。」と小さく呟いてジークの方に身体を向ける
「ほらジーク、さっさと立って謝罪を……」
俺がジークの方に振り向いて見ればそこには押し倒された僧侶の女の子しかいなかった。
「……」
「さっきの人なら貴方達が話している間に逃げましたが」
アルベルトの「ジークはどこに行った?」という視線を感じとった僧侶の女の子は答えてくれた。
「……しっかりと償ってもらうぞ。あの変態の代わりにな」
「…………わかった」
そう女剣士に言われたアルベルトは諦めと悲しみの気持ちに心が埋め尽くされながら答えた。
それからアルベルトは彼女達二人の冒険に付き合わされた。
結果を言えばそれからたったの一年で冒険者の最高峰であるSランク冒険者になり、アルベルトは二人と付き合ってこれまでの報奨で冒険者を引退したあと結婚して、アルベルトは冒険者ギルド本部のギルマスになった。
ジークの方は、風の噂で、アルベルト達の前から姿を消したあと、強力な力を手にして犯罪を犯して捕まり、奴隷になったらしい。今では辺境の地で『魔の森』の開拓をしているのだとか。
ジークが犯した犯罪に関して。
ゴブリン、ウルフ、オークのモンスターの一団に襲われているお嬢様御一行を助けた事が原因です。
助ける時に笑いながら助けた事が異様すぎるし怪しかったので、客人として屋敷に連れて行き、ジークの犯罪歴を調べた所、痴漢と強姦未遂に逃亡という女性の敵だった事で、自作自演でお嬢様を襲い、お嬢様に近づくためのモンスターの一団を倒したと疑われて奴隷になりました。