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M1:プロローグ

ジャンルはよくわかりませんが、よろしくお願いいたします。

 虫の声だけが静かに響き渡る深い森の中。小さな影が滑るように横切る。星明りだけが唯一の道標になる新月の夜。

「今日も遅くなっちゃった・・・。ゲニウス大尉はいつも細かいんだから・・・。」

 暗闇に溶け込むような黒衣を纏う声の主。幼さを覚える黒目がちでぱっちりとした眼と、襟元まで伸びる赤毛の頭が一層浮いて見える。いや、実際浮いている。子供がベンチに腰掛けるようにブラブラと降ろされた足は紛れもなく宙に浮いた木のボードから伸びている。木のボードはまるで何かに引っ張られるように一定の速度で前進し、注視しなければ足をくじきそうな真っ暗な獣道を滑らかに進んでいく。ようやく正面に、鬱蒼とした木々に囲まれた光の扉が見えた。

「うわっ!まぶしいっ!」

 光の扉を潜り抜けた先には星明りに照らされた一面に広がる黄金の麦畑。さわやかな風がサラサラと麦の穂の隙間を駆け抜け、じゃれるように仕事帰りの若者の小さな背中に触れた。麦畑を半ばまで過ぎた頃、若者はおもむろに木のボードから飛び降り、小脇に抱えた。

「誰か・・・呼んでる・・・?」

 この地上に自分以外いなくなってしまったかのような、地平線まで続く麦の迷路を見回すが、人の気配は全くない。気のせいだ。空を見上げると、時を示す星座が夜もすっかり更けたことを告げていた。さっきまでうるさいほど聴こえていた虫のオーケストラももう聴こえない。刹那、ゴウッという大地に響く音と共に麦畑が真っ二つに裂け、若者の身体が宙へ吹き飛んだ。倒れた麦が幾重にも重なり受け身をとった若者の身体をクッションのように受け止めた。咄嗟に自分が吹き飛ばされたほうへ目をやると、その小さな身体に対して10倍以上はある四つ足の獣が見えた。ラ・クーと呼ばれるその獣は群れで行動する草食動物だが、その巨体と鋭い角、そして一度走り出したら進路上にある街を破壊しつくしても止まらない習性から、一等危険生物とされている。視界に捉えたラ・クーの群れは若者を跳ね飛ばした勢いそのまま、まったく勢いを失うことなく再び迫ってくる。衝突の衝撃から、指先一つ満足に動かすことができない。背の高い麦の穂で姿は見えないが、徐々に近づいている地響きが、若者に確実に死を運んできていることだけはわかった。唯一動かすことができる頭をフル回転させる。麦の穂の上からラ・クーの角の先が見えた。若者の身体を受け止めた麦の倒れた跡の上を、ラ・クーの群れは無慈悲に踏みつぶして通り過ぎて行った。

不定期更新(たぶん)

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