秋桜の花束を君に
「琴音、これ二人だけの秘密にしようぜ」
「そうだね、他の友達にも言わないでよ」
「わかってるって」
「「十年後の隆紘/琴音へ」」
俺達はあの秋、二人だけでタイムカプセルを埋めた。
手紙とガラクタなどを入れて。
街全体が見渡せる丘の大木の根に埋めた。
「十年後の今日、二人で開けにこよーぜ」
「隆紘、絶対忘れてるから」
「こーみえて記憶力には自信があるんだぜ!」
「記憶力良かったらテストで赤点は取らないと思うけど」
「うるせぇな勉強とはまた違うんだよ」
お菓子の入ってた缶に手紙を入れて土を掛ける。
タイムカプセルを埋めてから2ヶ月経った日に琴音は転校していった。
あれから十年なんてあっと言う間だった。
制服でふざけながら登った階段を一人で上り、上に着く頃には息切れしていた。
「なんだよー琴音いないじゃんかー」
根本を掘り起し、缶を地上へ出した。
【三橋 隆紘様】
と書かれた手紙を取り出す。
俺宛に書いた彼女の手紙。
「どうせ悪口とか書いてあるんだろ」
薄い桜色した封筒を開けて中身を出す。
[十年後の三橋 隆紘さま]
彼女の綺麗な字で書かれた手紙を開く。
まず最初に謝ることがあります。
ごめんなさい。たぶん私は十年後、この缶を開けることが出来ないと思います。
まだ隆紘には言ってないけど、転校するんだ。
理由は手術のため。
手術の成功率は10%。
成功したら一緒に開けられるね。
隆紘は私のこと、友達だと思ってたかもしれないけど私は
隆紘が好きだよ。
言いたくてもガマンしてた。
今の関係を壊したくないし、隆紘を困らせるだけかなって思って。
手紙には涙の跡。
二枚目を見る。
日付は五年前の今日。
ごめん、一緒に開けようって言ったのに先に開いちゃった。
明日二度目の手術なんだ。
もしかしたら意識が戻らないかも知れないっていわれてる。
今はね、登代塚病院の501号室にいるよ。
きっとおそ松はかっこよくなってるんだろうなぁ。
五年後の今日、私が来なかったら病院に来て。
こんなのワガママかな…
手紙を握りしめて登代塚病院へ走り出す。
手紙と缶を持ってエレベーターに乗り
5階を押して足を止めたのは501号室。
扉の上には【逢沢 琴音さま】
扉を開けると琴音がたくさんの管に繋がれて眠っていた。
「なんでこんな場所で寝てんだよ」
呼びかけても返事は返ってこない。
彼女の脇に座り
「俺の返事、聞かないのかよ」
なんて呟く。
それでも琴音は目覚め無い。
あの頃俺が描いてたのは十年後、きっと美人になった彼女に告白する未来。
俺は彼女の手を握り下を向いただから気付かなかった。
彼女の瞼が少し動いた事に。
手に温もりを感じ薄く目を開けると視界に入ったのは茶色の髪。
あぁ最後に神様が幻覚を見せているんだなと思いここに居るはずのない彼の名前を口にする。
「隆紘…?」
名前を呼ばれて顔を上げる。
さっきまで閉じていた瞼を少し開いて俺を見据えていた。
「幻覚でもいいや…」
「幻覚なんかじゃねーよ。十年経ったら一緒に開けるって約束だったのに。先に開けんなよ」
瞳に涙が溜まり滴が枕を濡らす。
「ごめん」
「自分ばっかり言い逃げしやがってよー俺の返事も聞けよな」
「うん」
「琴音が好き」
「ありがとう」
彼女が目を覚ますのは奇跡に近いことだと医者は言っていた。
車椅子の彼女の隣を歩く。
後ろ手には秋桜を持って
「秋桜、好きなんだよねー」
「知ってる。昔言ってただろ『秋桜を持ってプロポーズに来てくれたらなー』なんてさ」
「言ったねーバラよりキレイでしょ」
そう言った彼女の顔の前に秋桜を出す。
「じゃあさーこれあげるから俺と結婚してよ」
「うん」
「泣くなよー泣くとブサイクなんだからさ」
「うるさい」
手をグーにして殴ってくる琴音の手首を掴んで秋桜の花束を握らす。
息子とタイムカプセルを一緒に作りながら思い出す。
「隆紘、何笑ってんの!」
「笑ってないって。」
そう言っても顔はにやけてしまう。
「琴音と埋めたこと、思い出してただけだって」
「そういえば、10年後の隆紘の手紙見てないんだけど」
「俺のはいいじゃん。もう関係ないし」
「ずるい」
俺の手紙はただ一言
10年後の君へ
好きです。
あのころ恥ずかしくて口にできなかった言葉。
今もなかなか恥ずかしくて気軽に言葉にはできない。
もう君を放したくはないから。
読んで戴きありがとうございます。